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相互作用


俺はひよりを連れて、何とか元の寝床まで逃げ切った。


「ほんとに白峰くん大丈夫かな。あんな人達の中に置いて逃げちゃうなんて」

「あいつなら大丈夫だ。俺と戦ってたの見てただろ」

「見てたけどさあ……」

ひよりはまだ少し不安そうだった。


「……あいつ、俺と戦ってる時、ずっと手抜いてたからな」

「そうだったの!?」

「まじまんじだ」

「まじまんじなら心配いらないね!」


俺は奪ってきた焼き魚を豪快にかじる。

「今ごろ5人仲良くピザパーティーでもしてるだろ」

「そんなわけ……ない、よね」

「あったら怖いだろ」

ひよりの顔から、少しだけ不安が抜けた。


「で、今は俺たちがやることがある」

「……食料?」

「正解だ」


ひよりはぱちぱちと目を瞬かせた。

「え、白峰くんが集めてくれるんじゃないの?」

「今はいない。いる前提で考えるな」

「そっか……」

「それに、食料が少ないのはもう分かってる。今動けるやつが、今のうちに確保するしかない」

「じゃあ、残りは?」

「芋る」

「芋るんだ」

ひよりはそれに付け加えて「なんかダサいね」と笑った。


生き残れば勝ちだ。それ以外にルールなんてない。


そうして俺たちは日が暮れるまで食料を集めるのだった。


「ほれ、キノコ大量に取ってきたぞ」

「その見るからに毒そうなキノコ、私は絶対食べないよ」


結局、その日は食べられそうな木の実や山菜、小魚を中心に集めることになった。


思っていたより成果は少ない。

白峰の言っていた通り、この島の食料は明らかに少なかった。


日が暮れる頃には寝床へ戻り、交代で見張りをしながら夜を越える。


大きな物音も、人影もない。

静かすぎるほど静かな二日目だった。



――そして、三日目。


「白峰くんのとこ行かない?」

朝ご飯を食べていると、唐突にそんなことを言われた。

「誰だそいつ」

「昨日置いてきた人だよ!」

「ああ、あの便利なやつか」

「便利なやつって言わない!」

あいつなら勝手に生きてるだろ。……それに、正直めんどくさい。


ひよりは小さく首を傾げて、俺を見あげた。

「……行かないの?」


「動くと体力を使うし、何より敵に遭遇しやすいからな」

「言い訳にしか聞こえないんだけど」

俺のことをよくわかっていらっしゃる。

「やだ。めんどくさい」

「めんどくさいって言っちゃったよ」

「省エネだ」

「言い換えただけでしょ」

ひよりは「はぁ」と大きな息をついた。


「子供じゃん」


そんな冷めた目で見つめないでくれよ……。



「いいよ。黒瀬くんが行かないなら、それで」

ひよりは立ち上がり、簡易的に作られた武器を持った。


「一人で様子見てくるね」


「……は?」

思わず声が出た。


「いや、待て。一人で行く必要ないだろ」

「でも気になるし」

ひよりは小さく頷いた。その顔は真剣で、冗談を言っているようには見えない。


「白峰くん、ほんとに大丈夫かなって」

「……あいつは大丈夫だ」

「それでも、見てきたいの」

困ったように笑いながら、ひよりは石器を持ち直した。


「ちょっと見て、すぐ戻るだけだよ?」

「だめだ」

「なんでそんなに止めるの?」

「危ないからだ」

ひよりは一度ぱちぱちと瞬きをして、それから少しだけ口を尖らせた。


「黒瀬くん、心配しすぎ」

「してない」

「してる」

「……」


一人で行かせるのが危ないのは分かっている。だが、ここでひよりが引かない性格なのも分かっていた。

止めても止まらない。だったら、無理やりにでも止めるしかない。


――面倒だ。


いや、違う。

面倒なのは、本当に一人で行かせた時に、何かあった場合だ。


「……わかった」

俺は小さく息を吐いた。

「行く」


「え?」

「お前一人じゃ行かせない」

「最初からそう言ってよ」

ひよりは少しだけ笑った。その顔を見て、俺は内心で大きくため息をつく。


「やっぱり白峰くんが心配なんだ」

たしかに、白峰の方も気になる。だが、それ以上に、ひよりを一人で行かせた後に何かある方が嫌だった。

「お前の見張りをしに行くだけだ」


「保護者みたい」


「うるさい」


「じゃあ、行こっか」

「……ああ」


結局どっちが先導しているのか分からないまま、寝床を離れた。


森をしばらく歩く。


木々の隙間、その先。


「……え?」

ひよりが足を止めた。


その視線の先には、一人の受験生が倒れていた。


「誰か倒れてる……!」

【今日は理系知識】

今回のタイトル「相互作用」は、物理や化学でよく使われる言葉です。


簡単に言えば、「片方だけが影響を与える」のではなく、お互いが影響を与え合うこと。

地球がリンゴを引っ張ると同時に、リンゴもほんの少しだけ地球を引っ張っています。 磁石同士が引き合うのも、原子同士が結び付くのも相互作用のおかげ。


今回の朔とひよりも、お互いに相手の行動を変えていました。

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