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集合の外の石

初めまして!初投稿です!

石が能力になる世界のお話です。 楽しんでいただけたら嬉しいです。

この世界では、生まれた瞬間から価値が定まる。


そう聞くと大げさに思えるかもしれない。

しかし、少なくとも十六年間を生きてきた俺にとって、それはすでに常識だった。


人間には才能がある。


身体能力。知性。運。要領の良さ。


そして――鉱石。


この世界には、生まれつき体内に「石の性質」を宿す人間が存在する。


彼らは晶者と呼ばれる。


炎を操る者。

金属を制御する者。

光を扱う者。


宿した鉱石の種類によって発現する能力は大きく異なり、それに伴い社会的評価も変動する。


ダイヤモンド。

ルビー。

サファイア。

希少で、美しく、強力な石。


そうした鉱石を宿す者は幼少期から期待を集め、称賛され、将来を約束された存在として扱われる。


一方で、価値が低いとされる鉱石を持つ者は、早い段階で見切りをつけられる。


また、この世界で晶性がない、「非晶者」ということは、単に能力がないという話にとどまらない。

建物すら建てられない泥。研磨できないタダの土ころ。社会の歯車にすらなれない「不純物」として扱われる。

E評価どころか、人件費の無駄とすら言われるのが「非晶者」だった。


そして俺――黒瀬朔が宿していたのは。


その中でも特に評価が定まらない石だった。


---


「黒瀬朔」


「はい」


呼ばれ、俺は立ち上がる。

周囲の視線が一斉に集まった。


珍しいものを見るような視線だ。


無理もない。今日の能力測定は、この先の進路を左右する重要な機会とされているのだから。


だが、俺にとっては少しばかり認識が異なる。


自分の価値を測定装置ひとつで完全に決定できるほど、この世界は単純ではない。


少なくとも、俺はそう考えている。


「緊張してる?」

後方から小声が飛んだ。


振り返ると、隣の席のクラスメイトが妙に真剣な表情をしている。


「いや」

俺は肩をすくめる。


「今日の昼飯のことを考えてた」

「今?」

「今」

「能力測定より?」

「飯を外す方がダメージが大きいだろ」

数人が吹き出す。


真面目な場で言う話ではないことは理解しているが、俺にとってはそれなりに重要な問題だった。


何しろ朝から何も食べていない。

晶者判定では、血液中に含まれる微量な鉱素と、その配列状態を測定する。

食事による一時的な体内変化が測定結果に影響する可能性があるため、測定前の飲食は禁止。

まあ、理屈は分かる。

分かるが。

俺は十六歳だ。

朝飯抜きという現実だけは、理屈ではどうにもならない。

ポケットの中には、今朝買ったツナマヨおにぎりが入っている。

測定が終わったら食べる予定だ。

まさか能力測定で人生より先に腹との戦いになるとは思わなかった。


この学園では、能力測定の日を人生の分岐点として重視する者が多い。


それは事実として間違ってはいない。

晶者か非晶者か。

その区分は進路、待遇、立場に直結する。

しかし、それがすべてではない。


他者の評価だけで人生が決まるほど、現実は単純ではない。


「久瀬、前へ」


教師の声が響く。


「はい」


俺は軽く手を振り、測定台へ向かった。


中央には拳大の透明な結晶が設置されている。


晶性測定装置。


新入生の鉱石適性を判定するための機器だ。

血液中の鉱素反応を解析し、結晶との共鳴特性を測定することで適性を分類する。


そう説明されている。


毎年、多くの進路を左右してきた装置だ。


だが俺には、精密な機械の一つにしか見えなかった。


「左手を」


指示に従い左手を差し出す。


細い針が指先をかすめる。


わずかな痛み。


滲んだ血が結晶へと落ちた。

ぽたり、と音がした気がした。


血液が透明な表面を滑る。

その瞬間、結晶内部に淡い光が走る。


会場が静まり返った。


『晶性測定を開始します』


機械音声が響く。

無機質で、感情のない声だ。


『鉱素反応を確認』

『元素構造を解析中』

『結晶位相を照合中』


モニターに情報が順次表示されていく。

周囲の生徒たちが息を潜めるのが分かる。

当然だろう。


ここで示される結果は、その人間の分類そのものに等しい。

高位結晶であれば評価は一変する。

そうでなければ、扱いもまた変わる。

それだけの話だ。


『解析中』

『解析中』

『解析中』


処理は続く。

通常通りの進行に見えた。

しかし次の瞬間、モニターの光がわずかに揺らぐ。


白。

青。

そして一瞬だけ黒が混じる。

小さなざわめきが起きた。

直後。


『再解析を実行』

『再解析を実行』

『再解析を実行』


機械音が乱れる。


「……どうした」

教師が眉をひそめる。

「故障か?」

別の教師が装置へ近づく。

「反応自体はある」

「反応があるのに結果が出ないのか?」

「待て。照合が――」


モニターが明滅する。

一度消え、再び文字が流れた。


『鉱物分類』

『一致なし』


『晶性反応』

『一致なし』


『構造情報』

『非存在』


『位相』

『不明』


『判定』

『不能』


会場の空気が凍りつく。

「……え?」


誰かが声を漏らす。

「今のは何だ」

「不具合か?」


「いや、表示は出ている」

教師たちも互いに視線を交わす。

一人が端末を確認し、低い声で言った。

「鉱素反応はある」

「しかし結晶構造が取得できない」

「あり得ない……」

「結晶ではないということか?」

「それなら測定系に反応しないはずだ」

困惑が広がる。

恐怖ではなく、理解不能な現象に対する混乱だった。


俺は結晶を見下ろした。

透明だったはずのそれは、わずかに濁って見える。

中心が定まらず、形を持とうとして崩れているようにも見えた。


「もう一度行う」


教師が告げる。

針が交換され、再度採血が行われる。

血液が再び結晶へ落ちる。

今度は明確に光が走った。

しかし、それだけだった。

光は広がらず、形を成さないまま消失する。


『晶性反応なし』

『晶性反応なし』

『晶性反応なし』

同じ結果が繰り返される。

「……何だこれは」

教師が思わず呟く。

別の教師が端末を操作する。


『鉱素反応を確認』

『――高濃度。数値上昇』

モニターのグラフが跳ね上がる。

教師たちが身を乗り出す。「なんだ、この鉱素量は……Sランク並みか!?」

しかし、次の瞬間。

『結晶位相を照合中』

『……エラー』

『格子構造の形成に失敗』

『構造情報:非存在(0%)』

「な……!?」

教師の顔から血の気が引く。


「鉱素は検出されている」

「しかし晶性が確認できない」

「つまり」


一拍置き、低く言う。

「測定不能だ」


なるほど、そうなったのか。


会場がざわめく。

「測定不能?」

「そんな例あるのか?」

「前例は?」

「聞いたことがない……」

視線が俺に集まる。

好奇心だけではない。

困惑と不安が混ざっている。


だが、俺は特に動じなかった。

測定不能。

それが事実なら、それ以上でも以下でもない。


「……それで」

俺は手を引きながら言った。

「俺はどう扱われるんですか?」

教師たちは沈黙する。

即答できる基準が存在しないのだろう。

やがて担任が口を開く。

「現時点では……非晶に近い」

周囲がわずかにざわつく。

晶者ではない存在。

そういう意味だ。


しかし担任は続ける。

「ただし、完全な非晶とは異なる」

「鉱素反応は確認されている」

「にもかかわらず晶性が存在しない」

「……厄介だな」

その評価は、ある意味で正確だった。

周囲の反応は混乱のままだ。


「あり得ない……。鉱素が存在するなら、必ずどれかの鉱物の配列に収まるはずだ!」

「配列がない……!? なんだこれは、ただの『泥』か!? いや、こんな高密度の泥があるわけがない!」

結晶化しない膨大なエネルギー。

それは美しいダイヤモンドやルビーではなく、「何者にも定義されない歪なナニカ」だった。


「結局、非晶者ってこと?」

「でも反応はあったんだろ」

「じゃあ何なんだよ」

試しに聞くだけ聞いてみる。

「分からない、ってことか」

俺は苦笑した。


昔、父さんに聞いたことがある。

「石って、何がすごいの?」

「なんだと思う?」

「ダイヤモンドとか!」

父さんは少し考えてから、ポケットから小さな黒い石を取り出した。

「例えば、この石」

「ただの石じゃん」

当時の俺はそう言った。

父さんは笑った。

「そう見えるかもしれないな」

「でもな」

父さんは石を光に透かした。

「石っていうのは、見る場所で価値が変わる」

「硬いからすごい石もある」

「綺麗だから大切にされる石もある」

「珍しいから価値を持つ石もある」

「でも、それだけじゃない」

父さんは石を握る。

「誰にも知られていなくても、そこに存在してきた時間は消えない」

当時の俺には、その意味が全部は分からなかった。

でも、少しだけ、石を見る目が変わった。


「未定義、か」

少しだけ笑う。

悪くない響きだと思った。


そう考えていると、モニターが再び切り替わった。


誰も操作していない。

文字が静かに浮かび上がる。



『総合評価』

『E』



俺は小さく息を吐いた。

最低評価ということだろう。

その瞬間。

会場の空気が変わった。

小さな笑い声。

「ああ……」

「やっぱりか」

誰かの呟き。

悪意があるわけじゃない。

ただ、納得。

それが一番きつかった。


「Eですか」

思わず口にする。

「最下位評価ですね」

会場の空気がわずかに緩む。


教師が咳払いをした。


「久瀬朔」

「はい」

「君は現時点で非晶に分類される」

「ただし」

言葉を選びながら続ける。


「通常のE評価とは性質が異なる」

「鉱素は存在するが、晶性が確認できない」

「登録データにも該当がない」

「つまり」

 俺は装置を見た。

「未定義、ということですね」

「そうだ」

教師は短く頷く。


俺も頷く。

「では問題ありません」

「……問題ないのか?」

「正直Sランクからのイケイケ学園生活が良かったですね。」

だが……。

未定義ってかっこよくないか?

「未定義なら、未定義のままでしょう」

そう答えると、周囲が再び静まり返った。

普通の反応ではないのだろう。

だが、それで構わない。

俺は俺であり、装置は装置だ。 ……そう思いたかった。

でも、十六年間、自分が何者なのかを知らないまま生きてきたという事実は、思ったより小さなものではなかった。

せめて、何者かくらいは知たかった。


俺は測定台を降りる。

まずは昼飯だな。

その瞬間、床に一瞬だけ奇妙な反射が走った気がした。

黒でも白でもない、曖昧な光。

見間違いかもしれない。


しかし、妙に記憶に残った。


まだ会場には人が残っていた。

終了した生徒は任意で教室へ戻っていいことになっている。

普通なら、とっくに帰るところだろう。

でも――。

「……まあ、暇だしな」

俺は椅子に座ったまま、もう少しだけ残ることにした。


ただ。

「どんな石があるのか、ちょっと気になる」

それだけだった。


少し潰れたツナマヨおにぎりを取り出す。

形は少し崩れている。

だが。

「……うまい」

空腹という最高の調味料が働いている。

今なら石ころでも食べられる気がする。


「白峰晶」


完全に静まり返るわけではない。

しかし、雑談の音が一つ減る。

それだけで、周囲の生徒たちもその名を認識していることが分かる。


「あ、白峰だ」

「水晶の家系だろ」

「やっぱり今年も来たな」


白峰晶は、椅子から静かに立ち上がった。

白峰晶は、透明だった。

見た目も、 評価も。 周囲から向けられる期待も。

まるで、曇りひとつない水晶のように。

白に近い髪。 光を透かすような瞳。

その姿は、誰が見ても「完成された晶者」だった。

けれど、水晶ほど内部に何かを抱えたまま、透明でいられる石もない。



一見すると、極めて整った印象を与える。

あくまで見た目だけは、だが。


白峰晶は優秀だ。

そのはずである。

そのはずなのに、当の本人にはどこか抜けている印象があった。


「白峰、前へ」

教師が促す。


「はい」

晶は素直に立ち上がり、測定台へ向かった。


その動きは静かで、無駄がない。

まるで、最初からそこへ向かうことが決まっていたかのようだった。

彼はそのまま壇上に登ろうとする。

伸びていた背筋は次第に前にのめり込み……。

鈍い音が鳴った。


完璧な晶者。

そう呼ばれる人間が、思ったより普通に転んだ。

その瞬間だけ、白峰晶という名前から少しだけ人間味が見えた。


彼は何事も無かったかのように立て直し、再び歩き出した。

「おい晶!耳赤いぞー!」

そんな野次には見向きもせずに。


「左手を」

指示が出るより早く、晶は袖を軽くまくる。


細い針が指先を刺し、一滴の血が結晶へと落ちる。

その瞬間、光が走った。


これまでの測定とは明らかに異なる。


乱れがない。

迷いがない。

極めて直線的に、純度の高い反応が広がっていく。


『晶性測定を開始します』

機械音声が響く。


『鉱素反応確認』

『元素構造解析』

『結晶位相照合』


モニターに情報が次々と表示される。

白峰晶は、それを静かに見つめていた。


期待も不安もない。

ただ結果を受け取るだけの視線だった。

その目は、わずかに鋭い。


『鉱物分類』

『Quartz』

『水晶』


静かなざわめきが広がる。

「やはり水晶か」

「綺麗に出たな」

「測定精度も高そうだ」


教師が頷く。

「反応は安定している。共鳴率も高い」

晶はしばらく画面を見つめたまま黙っていた。



『総合評価』

『B』



「すごい」「さすが白峰家だ」「やっぱり高い評価なんだ」

しかし、白峰晶だけは画面を見つめたままだった。

「……B」

小さく呟く。

「思ったより普通ですね」

「普通?」

隣の生徒が驚く。

「水晶だぞ?」

「だからです」

白峰は淡々と言った。

「水晶なのに」

その言葉には、喜びも落胆もなかった。

ただ、確認するような響きだけがあった。


Bランクの水晶。


本来であれば十分に異常な評価であるにもかかわらず、本人はそれを「普通」と評する。


測定台を降りる直前、晶はふと会場を見渡す。


ーーーーーー


視線の先に、一人の少年がいた。


黒瀬朔。

E評価。

測定不能。

周囲から見れば、価値のない結果。

なのに、白峰晶には、それが理解できなかった。

E評価だからではない。

測定不能だからでもない。

ただ――。

何者でもないということが、なぜそんなにも自由に見えるのか。

それだけが、理解できなかった。


ーーーーーーーー


その後も、様々な石の名前が呼ばれていった。

方解石。 蛍石。鍾乳石 。

どれも俺は知っている石だった。

別に珍しいわけではない。 学校で習うもの。 博物館で見るもの。

けれど。

「綺麗だから」 「有名だから」 「価値が高いから」

そんな理由だけで並べられていくのを見ると、少しだけ違和感があった。


石って、本当はもっと複雑だ。

同じ名前でも、生まれた場所が違えば性質も変わる。 長い時間をかけて作られたものもあれば、一瞬の出来事で生まれたものもある。

全部、それぞれ違う。

なのに、この場所では。

『B』 『E』 『C』

たった一文字で決められる。

……まあ、俺が言えることでもない。

俺自身も、たった一文字で評価されたばかりなのだから。

『E』

その文字を思い出して、少し笑った。



「神崎蓮」

その名前が呼ばれた瞬間、空気が変わった。

今度は、さっきまでのざわつきとは違う。

周囲の反応が、ひとつ段階を下げる。

声が小さくなり、視線が前を向く。

期待というより、確認に近い空気だった。


「神崎……」

「来たか」

「A候補だろ」

そんな声が、あちこちから漏れる。

俺は思わず口の中のツナマヨを飲み込んだ。


神崎蓮。

初めて聞く名前ではない。

入学前から、何度か耳にしたことがある。

成績優秀。

実技評価高水準。

そして、やたらと真面目で融通が利かないらしい。


俺の隣の席の生徒が小声で言う。

「神崎家のやつだよ」

「神崎家?」

「鉱物の扱いで有名なところ」

へえ、そういう家もあるのか。


そう思っているうちに、神崎蓮は立ち上がった。

黒に近い髪。

でも、完全な黒じゃない。

光が当たると、わずかに深い色が浮く。

地味なのに目を引く。

不思議な男だった。


「神崎、前へ」

教師が促す。

「はい」

返事も短い。

余計なものが一つもない。

測定台へ向かう姿にも、ためらいがなかった。

まるで、自分が評価される場に立つことに慣れ切っているみたいだった。


「左手を」

神崎は言われる前に手を差し出した。

針が指先を刺す。

血液が結晶へ落ちる。

――その瞬間、空気が変わる。

さっきの白峰の時は、反応が綺麗だった。

だが神崎は違った。


「……?」

俺は思わず顔を上げる。

重い。

別に何かが動いたわけじゃない。

けれど、会場の中に一瞬だけ“重さ”が生まれた。

床が沈んだような錯覚。

胸の奥に石を詰められたような圧。


『晶性測定を開始します』

機械音声が響く。

『鉱素反応確認』

『元素構造解析』

『変成履歴照合』

数字が流れ始める。

だが、処理速度が明らかに違う。

白峰の時は滑らかすぎた。

神崎は、逆に装置が少し苦しんでいるように見えた。

『圧力値』

『高』

『耐圧性』

『極高』

『密度反応』

『上位』


教師の眉が上がる。

「高圧系か……?」

「珍しいな」

『鉱物分類』

『Eclogite』

『エクロジャイト』

聞き慣れない名前だった。


少なくとも、ルビーや水晶みたいにすぐ分かるものじゃない。

俺は少しだけ首を傾げる。

「……エクロジャイト?」

そういう石もあるのか。


教師が低く呟く。

「地圧……いや、変成圧の反応が異常に高い」

会場がざわつく。

『硬度』

『高』

『変成適性』

『極高』

神崎蓮は、モニターを見ても表情を変えない。


『総合評価』

『A』


一瞬の沈黙のあと、ざわめきが戻る。

「Aか……」

「やっぱりな」

「神崎ならそのくらいか」

誰かが言う。

だが神崎蓮は、その言葉に満足した様子を見せなかった。

拳を握る。

一拍置いて、静かに言う。

「……足りない」

周囲が静まる。


「Aで足りないのか?」

誰かが驚いた声を出す。

神崎は答える。

「当然だ」

それだけだった。


だが、その一言に妙な説得力がある。

「俺はAになるために来たんじゃない」

短く区切って、彼は続ける。

「Aで満足するために努力したわけでもない」

会場が、息を呑む。


真面目すぎる。

面倒くさそうな奴だ。


でも、嫌いじゃない。

神崎蓮は測定台を降りる。

その途中、ふと視線がこちらへ向いた。

神崎の目が、ほんの一瞬だけ止まる。

「……」

言葉はない。

でも、たぶん何か考えている。


たぶん、俺の評価のことだ。

きっとさっきからずっと引っかかっているのだろう。


俺はツナマヨの最後の一口を飲み込み、肩をすくめた。

「何?」

声に出すと、神崎はすぐに視線を外した。

そして、何でもないみたいな顔で言う。

「……いや」

それだけだった。

それだけなのに、妙に引っかかる。


神崎蓮は、やっぱり面倒そうだった。


だが、こういう奴が一人いると、この学園は少しだけ退屈じゃなくなる気がした。

俺は残ったおにぎりの包装を指で丸めながら、ぼんやり思う。


石の名前だけで、人間の価値が決まる。

そういう世界だ。

けれど、今日だけで、少し分かったことがある。

名前の知らない石は、まだまだたくさんある。

そしてたぶん。

俺自身も、そのひとつなのだろう。


透明であるはずのそれは、光の加減によって黒くも見える。

まるで何かを隠しているかのように。

俺はそれを見上げ、わずかに目を細めた。

「……ここ、少し変だな」

その呟きは、誰にも届かなかった。

第1話を読んでいただきありがとうございました!

2話、3話は30分おきに本日更新するのでぜひ見に来てください。


この作品は実際の鉱物学や地球科学をできるだけ取り入れながら書いています。 今後も沢山の鉱石と、それぞれの石の特徴を活かした能力も登場します。



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