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第5話:純白の告白と、蒼白の決壊


   1. 琴線と、限界の震え


 マノの包丁を握る手が、わずかに震えた。


 予備照明に照らされたツムラの顔は、情けなくて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。

 けれど、その瞳だけは、中学時代のあの頃と同じ、澄んだ熱を帯びていた。



マノの心の奥底で、何かがパチンと弾けた。


彼が自分の「本質」を見てくれていたこと。

自分を一人の女子として、扱おうとしていること。


……しかし。

その「パチン」は、そんなラブコメ的な音ではなかった。


不覚にも、彼女の胸に小さな温もりが宿りかけた。


繰り返すが。

そんなキュンとする「パチン」では、断じてなかった。



「……っ!」


 マノの顔面から、スッと血の気が引いた。

 温もりなどという生温い言葉では片付けられない、荒れ狂う波濤のような圧力が、彼女の下腹部を突き上げた。


「マノ、さん……?」


「…………っ、だめ」


「え?」


「限界……」


 マノは膝を突き合わせ、震える手で自分のスカートを掴んだ。

 感動の余韻は、文字通り「決壊」の恐怖によって、一瞬で洗い流された。


 


   2. 絶望の連鎖反応


「……マノ、さん?」


 ツムラは、彼女の異変に気づいた。

 凛としていたはずの肩が、今は小刻みに、それでいて激しく震えている。


「限界……。もう、一歩も……」


 絞り出すようなその声は、あくびが伝染するように、ツムラの体内にも眠っていた「獣」を呼び覚ました。


「っ…………!!」


 静寂の中、ツムラの顔面からも一気に血の気が引いた。

 極限の緊張、冷え切った床、そして「限界」という言霊。

 すべての条件が揃い、彼の下腹部でも、今まさに決壊の時を待つダムが悲鳴を上げた。


「……ツムラくん」


「……はい」


「動かないで。一ミリも、空気を震わせないで」


「……善処、します」


 青春の「青」は、どこまでも冷たく。

 一滴の猶予もない切迫感へと塗りつぶされた。


 


  3. 奇跡の光、絶望の再会


 ── ガコンッ! 


 金属が噛み合う激しい音が響き、ついにエレベーターの扉がこじ開けられた。


「大丈夫ですか! 救助隊です!」


 眩いサーチライトの光が、網膜を刺す。

 そこには、内股で床にへたり込むマノと、エロ本の山に顔を埋めて震えるツムラの姿があった。


「……マノ!?」

「……ツムラ!?」


 救助隊の背後から響いたのは、聞き覚えのある二つの声。

 親友・サオリと、悪友・タケシだった。


 


  4. 証明された真実、死にたい現実


「ちょっとマノ、何その格好! その包丁……それ、私のキッチンセットの!?」


「あ、あの……これ、ケチャップ……。オムライス作ろうとして……」


 マノの「殺人犯疑惑」は、その瞬間にあっけなく霧散した。


「ツムラ! お前、俺のバッグと間違えて持ってったろ! それ、俺の大事な……って、なんでこんなにフルオープンで広げてんだよ変態!」


 ツムラの「ド変態疑惑」もまた、取り違えであることが証明された。


 しかし。

 救助隊員たちが目撃したのは、この地獄絵図のただ中で、一刻の猶予もない悶絶顔で固まっている男女の姿。


「……あ、あの。……トイレ、貸してください」


 二人の悲痛な願いが、完璧に重なった。


 しょっぱくて、苦い。

 誤解は解けた。真実も明らかになった。

 けれど、二人の「何か」は、確実にこの密室で死に絶えた。


 救出される彼らの背中には、初恋の輝きなど微塵もなく。

 そこにあるのは、ようやく訪れた安堵と、二度と消えない屈辱。


 そして。

 互いの最悪を知り尽くした者同士の、妙に強固な連帯感だけだった。


     挿絵(By みてみん)


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