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第88話:炉の傍らで待つ時間

伝説の鍛冶師、ボリン・アイアンハンドが、私たちのための食卓を打ち始める、と宣言してから、私たちは、数週間、この火山の都、カラク・ドゥルンに、滞在することになった。

星の鉄を鍛えるのは、並大抵の仕事ではない。最高の作品を、作るには、相応の、時間と、魂が、必要だと、彼は言った。

私たちは、その、職人の言葉を、信じ、ただ、静かに、その時を、待つことにした。


その、待つ時間は、私たちにとって、思いがけず、豊かで、そして、実り多いものとなった。


アレンは、すっかり、ドワーフたちと、打ち解けていた。

彼は、毎日、共同の、訓練場に、顔を出し、屈強な、ドワーフの、戦士たちと、組み合ったり、模擬戦をしたりして、汗を流した。彼の、底なしの、膂力と、裏表のない、真っ直ぐな、性格は、実直な、ドワーフたちの、気質と、よく、合った。夜になれば、酒場で、共に、エールを、酌み交わし、喉を、枯らして、歌い合う。彼は、この、頑固で、温かい、一族に、深い、友情と、敬意を、感じていた。


レオナルドは、最初こそ、ドワーフの、豪快な、料理に、眉を、ひそめていた。

「なんという、大味な……! 繊細さというものが、皆無ですな!」

だが、彼は、すぐに、その、文化の、本質を、理解した。この、力強い、料理は、過酷な、労働を、支えるための、知恵の、結晶なのだと。彼は、やがて、ドワーフの、料理長たちと、美食談義を、交わすようになり、自らの、繊細な、調理法を、教える、代わりに、彼らの、伝統的な、燻製の、技術や、チーズの、熟成法を、学び始めた。彼の、美食探求の、旅に、また、新しい、一ページが、加わった瞬間だった。


そして、私は。

私は、この、ドワーフという、種族が、数千年の、時をかけて、築き上げてきた、その、驚くべき、工学技術と、社会システムに、夢中になっていた。

私は、彼らの、巨大な、記録保管庫に、通い詰め、冶金学や、建築学に関する、古代の、文献を、読み漁った。長老たちと、政治や、経済について、議論を、交わし、彼らの、氏族を、中心とした、統治体制や、名誉を、重んじる、経済観念に、深い、感銘を、受けた。

私の、知識は、ここでも、彼らの、役に立った。人間たちの、国との、交易交渉において、いくつかの、有益な、助言を、与えることができたのだ。


私たちは、時折、ボリンの、工房を、訪れた。

そこでは、ボリンが、まるで、祈りを捧げるかのように、一心不乱に、槌を、振るっていた。

赤く、焼けた、星の鉄の、塊が、彼の、槌を、受けるたびに、その、形を、変えていく。時折、彼は、それを、『山の心臓』が、沈められた、冷却水へと、浸し、工房全体が、白い、蒸気に、包まれた。

それは、まさしく、魂を、削り、作品を、生み出す、神聖な、儀式だった。


そして、ついに、その日が、来た。

ボリンが、私たちを、工房へと、呼び寄せた。

工房の、中央には、一つの、食卓が、完成していた。

それは、私の、想像を、遥かに、超えた、傑作だった。

一枚の、巨大な、星の鉄の、塊から、削り出された、天板。その、表面は、鏡のように、磨き上げられ、まるで、夜空の、銀河のような、美しい、紋様が、浮かび上がっている。それを、支える、四本の、脚は、まるで、山の、岩盤から、生えてきた、木の根のように、力強く、そして、荘厳だった。

華美な、装飾は、一切、ない。だが、それ故に、その、存在感は、圧倒的だった。


「――できたぞ」


ボリンが、額の、汗を、拭い、満足げに、言った。


「この山が、存在する限り、この、食卓もまた、存在し続けるだろう。友が、集い、語らうための、場所。鍛冶師の、仕事にとって、それ以上に、名誉な、ことは、ない」


私たちは、ただ、声もなく、その、偉大な、作品を、見つめていた。

私たちが、手に入れたのは、ただの、家具ではない。

誇り高き、一族の、尊敬と、そして、永遠に、続くであろう、友情の、証だった。

私たちの、家は、また一つ、かけがえのない、宝物で、満たされようとしていた。

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