40話
「しーーーー声が大きいですよ!」
「だっ、えっ、どぅ、なっ、」
「だって、えっ!どぅして?何で?でしょうか?」
姉様の衝撃の告白で私ホリシオンは、今目の前にいる姉様が、姉様に見えませんわ!
「どういうことですか?郷田花様、ひょっとして今度は姉様に憑依を?」
「ん~違うわ!貴方の従姉のマリーヌ・タッセル王妃陛下の前世が私なの」
「へ?前世?」
「そう、前世。すっかり忘れていたんだけどね。ハハハ」
遠い目をして姉様が告白していますけれども、私の方が遠い目をしているはずと、変な対抗心が芽生えます。
「まぁなんだ、ホーリー」
「えっ?」
またもや姉様が姉様で⋯えっと戻った?
「本当にお前はわかり易い、戻ったわけではない。郷田花が私だと認識してもらう為に、あの話し方をしたまでだ。基本わたしは私のままだ、変わらぬ」
「えぇそうなのですか?」
「あぁただ私の不徳のいたす所で、一度精神を閉ざした事がある。その時に記憶を、前世の記憶を忘れる様に努めた事があった。そのせいでこんな事になったんだが⋯⋯⋯って何だその顔は!」
「姉様が精神を閉ざした?本当ですか?」
私の知る姉様は、本当に豪胆なお方です。言い方を変えれば図々しいとも云える。そんな方が精神的に参った事があると聞かされて、簡単に信じるはず⋯⋯あっ、でも前に一度似たような事を聞きましたわね。それでフォルク様のお祖母様に恩義を感じていると。まさかその時かしら?
「私だって、辛い時はあった。人並みに。辛いというよりも価値観の違いに耐えられないといった感じだな」
「価値観の違い⋯ですか」
「あぁお前、郷田花に出会ったのだろう、どう思った」
「えっ?どうとは?」
「お前に私の話をしてやろう」
「ご、ご遠慮いたします」
「まぁ聞け!」
やっぱり姉様は郷田花様でも姉様です。
「私が前世を思い出したのはまだこの国に嫁ぐ前だ。シセマイン王国の王領で遺跡が発見された時だな」
「遺跡が?姉様はその時に立ち会ったのですか?!」
私は少しばかり興奮しています。
私の古代への浪漫が!その話を姉様から聞けるなんて!
古代遺跡が発見された場所は、今は危険箇所として封鎖されています。それは一般的にという訳ではなく、王家といえど立入禁止なのです。
古の気分を空気ごと感じたい私にとっては、今行きたい場所ナンバーワンな所です。そこへ言ったことがあるなんて!
実に⋯⋯羨ましい。
私が姉様に羨望の眼差しを向けますと、明らかに姉様は呆れておられました。何故?
「お前の古代好きにも困ったものだ。ふぅー」
「フゥー」
姉様が大きく溜息を吐かれました。負け時と私も溜息を吐くことにしましたの。意味は⋯ありません!
「郷田花として暮らしていた前世の記憶は初めは曖昧だったが、そのうちはっきりと思い出してきた。べつにだからといって何があるわけでもない。ただの前世だ。私が前に暮らしてきた記憶が蘇っただけだった、だが」
「⋯⋯」
「それに苦痛が伴ってきたのは、この国に来て王妃教育を受ける様になってからだった」
姉様が辛そうに下を向いた時には、私は天地がひっくり返りそうなほど驚きましたわ。そんなに辛かったなんて王妃教育って何ですの?
そう思いながら姉様の告白に聞き入りました。
姉様曰く
郷田花様は普通の人だったそうです、ここをかなり強調されました。
王妃教育というのは⋯まぁそのままの意味です。
王妃になる為の教育ですので、凡人には理解できない考え方や決まりがとても多かったそうです。
ただでさえ姉様は前世の価値観に囚われていて、生家の公爵家でも“変わり者”と揶揄されておりました。この辺はお母様に聞いたのですけれどね。
姉様が理解できなかったのが、人を駒のように扱う事が当たり前なのだと教育を受けた時だそうです。それともう一つ、姉様は王太子様(現の国王陛下)を好きになってしまった事も、辛かった要因だそうです。
王妃教育には側室を認める事の出来る器になれ!というものがあったそうで、前世の一夫一妻制の価値観を持っていた姉様には受け入れがたかった。
ですが、それだけなら姉様も耐えられたそうです。
耐えられなかったのは王太子様が、それを《《当たり前なのだ》》と仰った事で、姉様の耐えていた心が折れたそうです。
姉様は王太子様を好きだった。
好きだった人に側室は当たり前だから認めて然るべき、要は愛人作ってもダマッテウケイレロ宣言をされてしまったと言う事ですね。
私も好きな人にそんな事を言われたら折れるかもしれません。(まぁまだ私には好きな人はいませんけど)
しかも王太子様は姉様を守ると誓って、この国に呼び寄せているのですから、裏切りと思ってもしょうがないですわ。
それを救って下さったのが前々侯爵夫人ですか⋯。
えっまさか⋯⋯。
「姉様、救ってくださったって。ひょっとして」
「ん?あぁ私に忘却の呪いをかけたんだ。前世を忘れるようにとな」
えーーーー!
それって本当に救われたのですか?




