32話
フォルク様が目覚めたのは、既に太陽が真上にかかる程の時だった。
その頃には私が連れてきた侍女たちにより、サッセルン侯爵家の執事を発見して事のあらましを聞いていた。
執事からの話を聞いてやはりフォルク様から話を聞かなければ分からないのだと理解をしていた。
「⋯⋯⋯こ、此処は?」
「フォルク様、私がおわかりになられますか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ホリシオンだ」
「えぇそうです。良かった、昨夜のままのフォルク様でいらっしゃいますね」
「⋯⋯⋯そうらしい。ひょっとして執事から?」
「少しだけ伺いました。フォルク様の様子の事を⋯。ですがやはりフォルク様から聞かなければならないと」
「⋯そうだな、すまなかった。本来なら婚姻前に話すべき所を、有耶無耶にしてしまった」
「あとでゆっくり聞きたいところなのですが⋯⋯」
「いや、今話す。自分が分からなくなってしまえば話す機会を逸するかもしれないからな」
「では、このまま⋯お水を飲まれますか?」
私が水差しからカップに移したものを手渡すとフォルク様は、それをゆっくりと口に含んだ。
それを見届けてから温めたタオルを渡すと彼はそれで目覚めたばかりの顔を拭いた。
少しばかりスッキリしたような表情になってから、フォルク様は改めて私達に向き直った。
私はベッドサイドの椅子に腰を下ろしていた、その後ろにはケトナー卿と侍女のシルとイザベルが控えている。
反対側のベッドサイドにはスタンピン伯爵家お抱えの医師がフォルク様の脈を常に取っていた。
様子が変われば直ぐに対処出来る様になっている。
大きく息を吸い込み吐き出す、それを2度繰り返しフォルク様は自分の身に起こった事を話し始めた。
「私は時々自分の意識が体の奥底に入り込む感覚を感じる事がある。その時は体中が何かに支配されていて自分の意志とは違う事をしているんだ。それは両親と共に領地で過ごしていた6歳の夏頃からなんだ」
「ご幼少の頃にはそれを理解されていたのですか?」
フォルク様は私の問に首を左右に振った。
「理解など出来ていなかった。その頃は夢を見ていると思っていたんだ。今考えればそんな筈はないんだ、だって腹が減っていたのに満腹だったり、汗まみれで遊んでいたはずなのに湯浴みしたあとのように体がスッキリしていたりしていたから。ただ自分が夢の中で体験したことが実際に起こってる、そういうふうに感じていたんだ。でも⋯⋯違っていた。私が夢の中と思っていた事は私ではない誰かが私の体を使ってしていた事だと理解したのは両親が死んだ時だった」
フォルク様は苦しそうにそう言って掛布の上に置いていた手は握り拳を作り震えていました。




