追放少女と弱者の死に方
蛇竜の咆哮が、ダンジョン全域に轟く。
幾度も穿たれた地を揺らすたびに、天井が軋み、石が落ちる。
それでも、アレンたちは立っていた。
既に、仲間の半数以上は倒れ伏し、立っている者たちも血と疲労にまみれている。
弓使いリアの呼びかけでようやく整った戦線も、蛇竜の再生により再び押し崩されようとしていた。
「また頭部が開く……!」
誰かが叫ぶ。
螺旋状の甲殻が再び展開し、魔晶核が光を帯びて脈打つ。
リアは腕を負傷し弓を引ない。
阻止する手段がない。
光が、集まる。
次に撃たれれば、戦線は瓦解するだろう。
その時だった。
「下がれッ!」
アレンが叫んだ。
誰よりも早く前に出ていた。
脚を引きずり、剣を引きずり、それでも、前に。
「おい、待てアレン!お前、その傷じゃ!」
「黙ってろッ!」
仲間の声に振り向きもせず、叫ぶ。
背中に、無数の血痕。
胸にはすでに光線を受けた傷が穿たれていた。
それでも、その足は止まらなかった。
「これ以上、誰かが死ぬのはまっぴらだ!」
叫びと共に、アレンは跳んだ。
盾も鎧も投げ捨て、剣だけを手に。
魔晶核が咆哮と共に光を放つ。
剣を振るうよりも早く、全身を焼かれる。
それでもアレンは、突き進んだ。
焼け爛れた腕で――魔晶核へ剣を突き立てる。
爆ぜる光。
眩しさのなか、仲間たちはアレンの姿を見失う。
そして。
アレンは最後に凪咲の顔を思い浮かべる。
彼女の力であればこの程度の敵を倒すのにここまで苦労はしなかっただろう。
だが、今ここでコイツを倒したのはお前ではない。
「本当に、イラつくヤツだったよ」
アレンの呟きは声にならず消え。
蛇竜の頭部が、悲鳴のように軋み、崩れ落ち。
魔晶核が割れ、爆発が吹き荒れた。
巨体が痙攣しながら、地に倒れる。
完全な、撃破だった。
だが、その場にアレンの姿は、もうなかった。
静かに降る瓦礫の下、誰かが呟いた。
「最後まで、剣士だったな」
突出した強さを持っていたわけではない。
けれど、誰よりも仲間を見ていた。
誰よりも人間として戦った。
それが、アレンだった。
「アレン……」
折れた右腕を庇い、弓使いのリアは声を震わせながらも、後退を命じた。
自らも深手を負い、仲間の負傷も激しい。
これ以上の戦闘は、死へ向かうだけだ。
「……引くよ、生きて地上に伝えなきゃアレンが浮かばない」
誰も反論はしなかった。
血に染まった戦場に、彼らは背を向けて去った。
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今月中には再開予定。




