追放少女と超斬撃
ドラゴンが大きく喉を震わせる。
次の瞬間、炎を超えた熱波が、暴風のように辺りを薙ぎ払った。
「っ……!」
凪咲とミナは寸前で飛び退く。
だが、完全に避けきれるものではなかった。
周囲の石畳は赤熱し、倒れた冒険者たちに余波が及びかける。
もしこのまま長引けば、彼らは間違いなく死ぬだろう。
焦燥が胸を焼く。
(早く、倒さなきゃ!)
けれど、ドラゴンの鱗はあまりにも堅牢だった。
どれだけ鋭い攻撃も、その厚い装甲に阻まれて届かない。
凪咲は自問する。
(私は、なぜ剣を振るえなかった?)
それは「人を傷つけるのが怖い」からだと思っていた。
だが、違う。
本当は――
(私は、"斬れてしまう"のだ。)
どんな盾も、どんな鎧も、私の剣の前では無力だった。
あの時、もしリーダーたちが立ち塞がっていたら――鎧ごと、あっさりと斬り裂いてしまっていただろう。
だから、怖かった。
力を出し切ることが。
しかし今、彼らは誰も動けない。
床に倒れ伏し、微かに息をするだけだ。
(なら――もう、迷う理由はない)
凪咲は刀を抜き、居合の構えを取る。
その小さな呟きが、静かに空気を震わせた。
「斬れる」
ドラゴンが咆哮を上げ、凪咲に狙いを定める。
大きく喉を膨らませ――全力のブレスを放った。
灼熱が一直線に凪咲を焼き尽くさんと押し寄せる。
だが。
「おねえちゃん、まかせて!」
ミナが飛び込んできた。
スライムの身体で凪咲を包み、炎から守る。
その柔らかくも確かな壁が、凪咲の肌を一切傷つけることなく、全ての熱を受け止めた。
そして。
凪咲には、もう何の音も聞こえなかった。
ブレスの轟音も、石の割れる音も、血の匂いも、すべて遠い世界のもの。
彼女の世界にあるのは、ただ一つ。
――無音の斬撃。
踏み出した瞬間、凪咲の姿が消えた。
一瞬後。
「チン」
刀が鞘に収まる、わずかな金属音が空気を震わせた。
次いで、ドラゴンの首が宙を舞う。
黒い巨体がぐらりと傾ぎ、地響きを立てて崩れ落ちる。
さらに。
ドラゴンの背後にあった次の階層への巨大な石扉――
それすらも、凪咲の斬撃は断ち切っていた。
扉は綺麗に縦半分にずれ、崩れ落ちる。
「……すごい……」
ミナが呟いた。
そして、わずかに意識を取り戻していたアレンは。
この光景を見届けた直後、瞳を見開いたまま、静かに気絶した。




