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第88話 ストロス攻略の鍵

 ストロスは巨体だが、かなり素早い。


 ただでさえ攻撃があてにくい上に、ダメージを負わせるとすぐに上空へと逃げられてしまう。


 羽根の雨をふらす攻撃は何度もできないようだが、近接攻撃と空への回避運動をくり返されたら、俺たちに勝ち目はない。


「くそっ」


 シルヴィオが幻影剣でストロスを斬りつける。


 彼の高速剣術はストロスの白い身体をとらえるが、深い傷は負わせられないかっ。


 ストロスが柱のような足でシルヴィオをけりつける。


「ぐっ」

「シルヴィ!」


 シルヴィオは胸をけられて、戦場の遠くまで吹き飛ばされてしまった。


「ちくしょう!」


 ジルダが両手から真空の刃をとばす。


 ちいさい刃は高速で旋回して、ストロスの頬を斬りつけた。


「どんなもんでい!」


 いや……やはり、ストロスに致命傷をあたえられていないっ。


 ストロスがジルダのそばに寄って、二枚の翼を羽ばたかせ――


「ジルダ、逃げろ!」


 ストロスが白い翼をむけた瞬間、つむじ風がジルダの目の前に出現した。


 つむじ風は一瞬で砂塵を舞い上がらせる。


 強烈な力でジルダを吹き飛ばしてしまった。


「いい加減にしろ!」


 ストロスにつめ寄って、ヴァールアクスを斬りはらう。


 彼女が攻撃した直後の、一瞬の隙を突いたはずだったが……すぐ上空へと逃げられてしまった。


 ストロスがまた上空で大きく旋回する。羽根の雨か!?


 だが、彼女は羽根の雨をふらせてこない。


 ストロスが雲のかなたへと消えて、少し間をおいてから黒い鳥たちが大勢、曇天の一部をおおいかくした。


「あれは、ストラかっ!?」


 無数のストラが高速でとびおりてくる!


 彼らは金切り声を発して、俺に身体をぶつけてくる。


 ストロスの突撃とくらべれば、ストラ単体の突撃はたいしたものではないが、何度も攻撃されるとダメージが蓄積されていってしまうっ。


「はなれろ!」


 ヴァールアクスをふり、ストラたちを斬りはらう。


 彼らは一撃で斬りふせられるが……数が多いっ。


 無数のストラにまとわりつかれて、前が見えない……。


 突然、俺の足もとが爆発したっ。


 爆発……いや、ストロスの突風の魔法だ! ストラに気をそらされて、やつに攻撃をあたえる隙をつくってしまったのか。


 するどく回転する視界の中で、全身を大きくのばして回転の勢いを弱める。


 ヴァールアクスを重りにして、両足でかろうじて着地する。


 まずいぞ。さきほどから後手をふんでばかり――ストロスが俺に急接近してきたっ!


 ストロスも奇声を発して、俺を右肢でけりつけてくる。


 巨人の殴打に匹敵する攻撃だっ。なみの武器では、受けた直後に刃が折れてしまうだろう。


 ヴァールの力を秘めたこの斧なら、ストロスの強撃でも受けられる。ヴァールよ、たえてくれ!


「はっ!」


 ストロスの攻撃がやんだタイミングで反撃する。


 高速の斬りはらいでストロスの左足に傷をつけたが、それでも致命傷にはならないかっ。


「シルヴィオ、ジルダっ。無事か!」


 ストラたちを追いはらいながら声をはりあげるが、ふたりとも返事をしてくれない。


 戦場からはなれた場所で、シルヴィオが倒れている。気をうしなっているのかっ。


 ジルダもはるか後方で、うつ伏せになっていた。


 まずい。このままでは、ストロスに負けてしまう。


 どうする。どうすれば、ストロスを倒せる!?


 ストロスは二枚の大きな翼をうごかして、無限にひろい空を駆けめぐっている。


 羽根の雨をおとすときも、二枚の翼をうごかして攻撃がはじめられている。


 高速の急降下も、そうだ。つむじ風を発生させるときも、二枚の翼によって風を発生させていた。


 ストロスの命綱は、あの翼だ。


 あの翼さえ斬り落としてしまえば、ストロスはほとんど身動きがとれなくなってしまうはずだっ。


 ストロスが二枚の翼を前に出して、巨大なつむじ風を発生させる。


 はげしい気流がストラたちを吹き飛ばすが、俺はすぐに後退して難をのがれた。


 ストロスが猛り、俺にちかづいてきた!


 ストロスは長い右肢をのばしてくるが、それをヴァールアクスで受け止めない。


 強烈な攻撃を受け止めたら、すぐに反撃できない。それでは、やつの翼を斬り落とせない。


 さらに後ろに引いて、ストロスが空ぶりするのを待った。


 ストロスが空中で態勢を立てなおす、この一瞬の隙をつく!


「くらえ!」


 右足で地面をけって、ストロスの頭上まで飛び上がった。


 ストロスは俺の攻撃に反応して、身体をわずかにかがめるが……お前の頭など狙わん!


「そこだ!」


 ふりあげたヴァールアクスを、上空でふりおろす。


 ストロスの右の翼の根もと……翼と身体の付け根にヴァールアクスの刃がくい込んだ。


 ストロスが悲鳴をあげて、上空で俺をけりとばす。


 俺は腹に攻撃を受けたが、ストロスのとっさの反撃にたいした力はなかった。


 背中を地面に強く打ちつけたが、腹部のダメージはさほど大きくない。


 ストロスは空の上に逃げていた。


 しかし、右の翼をうごかせないのだろう。飛び方があきらかに不自然だ。


 左の翼を懸命にうごかして浮遊しているが、素早くとぶことは、もうできないだろう。


 自力でこじあけた勝機をつかむっ。


 ストロスが降下して、風の魔法を俺にむけてくる。


 地上に発生した三つのつむじ風が、交差しながら俺に襲いかかってくるが……風の勢いが明らかに弱まっていた。


「こんなもの、よけるまでもないっ」


 腰をおとして、ヴァールアクスを低くかまえる。


 三つのつむじ風は音を立てて、俺にぶつかる……だがっ、この風をここで相殺する!


「はっ!」


 ヴァールアクスと、俺の腕がつむじ風とぶつかる。


 つむじ風は巨獣の突進のように、重い。


 プルチアの、グランドホーンの突進と、おなじかっ。


 グランドホーンなら、俺はねじふせてきた。


 こんな弱い風に、俺がやられるか!


「消えろ!」


 右足をふみ込んで、ヴァールアクスをふりはらった。


 三本の風のながれが、一文字に分断される。


 幾重もからまったひもがふりほどかれるように、風のながれが一瞬でおさまった。


 ストロスの風の魔法も、克服した。


「ストロスっ。全力で俺にぶつかってこい!」


 顔をあげて、ストロスを大喝する。


 上空で翼をうごかしていたストロスの身体が、ぴたりと止まったような気がした。


「そんな魔法では、俺を倒せんぞ。お前の全力を俺にぶつけてこいっ」


 やつに俺の言葉は通じないだろうが、意図はつたわるだろう。


 ストロスは全身をふるわせて、急降下をはじめた。


 右の翼を負傷した急降下は遅い。


 俺の前で上体をおこして蹴りつけてくるが……力が弱まっているぞ!


「こんなもの!」


 続けて蹴りつけてきたストロスの右足を左手でつかむ。


 そのまま、力まかせにストロスを後ろに投げとばした。


 ストロスの巨体が、ずしんと音を立てて地面に落ちる。


 大量の砂ぼこりが宙を舞った。


 ヴァールアクスをもちなおして、ストロスに接近する。


 ストロスは想定外の事態に直面したのか、地面で巨体をもぞもぞとうごかしていた。


 あきらかに、うろたえている。


 大量の砂がついた背中が、がら空きだ!


「ストロスよ、さらば!」


 ストロスに接近して、ヴァールアクスをふりおろす。


 彼女の身体は、かたくない。


 ヴァールアクスのするどい刃が、ストロスの身体を斬り裂いていく。


 お前にもともと恨みはないが、これが戦いだ。


 ストロスは激痛で絶叫するが……ゆるせ。


 ヴァールアクスを何度も打ちつける。


 ストロスの返り血で前が見えなくなっても、かまわない。


 十回ほど、打ちつけたのだろうか。ストロスの怪音とも言うべき悲鳴が、やがて聞こえなくなった。


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