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第79話 グラートと尊大なラブリア領主

 オドアケルの者たちの夜襲によって、陣地の東側がこわされてしまった。


 ウルフカットのルーベンという男が見境もなく地面を掘りおこしてしまったため、地面は穴ぼこだらけだった。


 この状態では、カゼンツァの攻略などすることはできない。


 陣地を建てなおし、ヴァレンツァから来た兵たちをしっかり休養させるのが先決だ。


 そのためにテントを張りなおしたいが、テントを張るのは地面をならした後か。


「ああ、もうっ。あいつら、ふざけんなよ!」


 陽がのぼり、スコップをもつジルダの不満が青空に消えていく。


「昨日、やっとここに着いたっつうのに、なんでいきなり、こんな重労働をさせられてるんだよ!」


 ジルダのまわりで作業する兵たちも、面倒な作業に嫌気がさしているか。


「しかたないだろ。敵に夜襲されたんだ。こわされたものは、なおすしかない」


 シルヴィオもジルダの近くで作業しているが、昨日のけがが治っていないか。


「だけどよぉ」

「敵がいつ攻めてくるか、わからないぜ。だから、早く……うっ」

「へ、へいきか!?」


 シルヴィオの手からスコップが落ちてしまった。


「シルヴィオ。お前はテントで休むのだ」

「へ、平気です。このくらい」

「このような雑務を、けが人のお前が無理にこなさなくていい。これは命令だ。後ろのテントで休め」

「は、はい……」


 シルヴィオはスコップを近くの兵にわたして、陣地の奥へとさっていった。


「あいつ。へいきかな」

「大きなけがではないだろう。しかし、次の戦いにそなえてもらわなければならん」

「そ、そうだな。オドアケルの連中が、いつ襲ってくるかわかんねぇもんな」


 敵はまた、ここを襲撃してくるだろう。


 シルヴィオをここで失うわけにはいかない。


「そういえば、昨日はたすかったぞ、ジルダ」

「へ。何が?」

「オドアケルの者たちに、俺を弁護してくれたことだ。とても力になったぞ!」

「へ、ああ……」


 ジルダの顔が、なぜか紅潮した。


「べっ、べつにっ、あんたをたすけたいから、言ったわけじゃねぇかんな。かんちがいするなよ!」


 ジルダは、なぜ取り乱しているのか……。


「かんちがいなどしていない。俺は騎士になったことにとらわれて、民の気持ちが見えなくなってしまったのかと、自分をうたがっていたのだ。だが、ジルダの言葉ですくわれた。感謝する」

「お、おう! そんなの、気にすんなよっ」


 ジルダは真っ赤な顔で胸を張った。


「あんたが民から慕われてるのは、ドラスレ村を見てればわかるだろ? グラートはむかしっから、ぜんぜん変わってないって」

「そうだろうか」

「そうさ! つうか、騎士になったんだから、もうちょっと贅沢してもいいとぼくは思うぜ。それなのに、アダルもあんたも、村人とおんなじもんばっか食ってるんだもんなぁ。贅沢なんか、ちっともしてねぇじゃん!」


 早口でまくしたてるジルダが、おかしかった。


「そうだな。では、ドラスレ村に帰ったら、多少の贅沢を検討してみよう」

「お、おうっ」


 ジルダや兵たちと会話しながら陣地の修復作業をしていると、別の兵に呼び止められた。


 ロンゴ殿が今後の作戦について、俺と話したいようだ。


 ロンゴ殿が待つ指揮官用のテントは、陣の西側に設置されている。


 ここは昨日の夜襲を受けなかったから、テントはひとつも倒れていない。


 東側の惨状をよそに、談笑したり、あくびをしている者たちの姿が目立つ。


「サルン領主グラートです。入ります」

「おお。入ってくれ」


 指揮官用のテントは、兵が寝泊まりするテントの三倍以上の広さがある。


 四本のかたいポールで高い天井が支えられている。


 テントの中央に置かれたテーブルをかこむように、ロンゴ殿と幹部たちがあつまっていた。


「ドラスレ殿も兵たちの作業をてつだっていたのか。そなたは、そのようなことまでしなくていい」

「は。しかし、陣の東で寝泊まりしていた者たちは、昨夜の夜襲の被害をもろに受けています。ですので、被害に遭った陣を復旧するのが急務だと、わたしは考えます」


 テントの奥で肘をつくロンゴ殿が、いやな顔をした。


「俺の陣を建てなおすために、そなたを遠い場所から呼んだわけではない。そのような雑務は、兵にまかせておけばよろしい」

「は。承知いたしました」


 ロンゴ殿は、典型的な騎士か。


 カゼンツァで住民がさわぐ原因が、わかったような気がした。


「昨日の襲撃で、われらが悩みをかかえる理由がわかっただろう。あのバケモノが、カゼンツァの反乱軍を味方しているから、われらは手をこまねいているのだ」


 ルーベンのことか。


「オドアケルの者たちですね。リーダー格のあのルーベンという男は、かなりの手練れのようだ」

「手練れ……ただの乱暴者だと思うがな。それより、オドアケルというのは、なんなのだ?」

「オドアケルは、ヴァレンツァを拠点とする地下ギルドです。武器の密売や要人暗殺などを手がける闇の集団です」

「そんな者たちが、都で跋扈ばっこしているのか?」


 ロンゴ殿が唖然とする。


「はい。このあいだ、ヴァレンツァで宰輔サルヴァオーネが大逆を犯す反乱をくわだてましたが、その反乱の裏で糸を引いていたのも、オドアケルです」


 ラブリアの住民反乱が、ヴァレンツァの大乱と線でつながった。


 オドアケルは、王国のよごれ仕事を請け負うだけのギルドではない。


 ラブリアの住民反乱は、ヴァレンツァの大乱とかならずつながっているはずだ。


「都でヴァレダ・アレシアをゆるがすような者たちが、反乱軍に加わっていたとは」

「どうりで、いつまで経ってもカゼンツァを取り返せないわけだ……」


 ラブリアの幹部たちも息をのんだ。


「こたびのカゼンツァの反乱は、敵の統率がとれすぎています。そこにずっと疑問に感じていました。オドアケルが裏でカゼンツァの民兵をあやつっているのであれば、カゼンツァの奪取は容易ではなくなるでしょう」

「なるほど。ドラスレ殿の言う通りかもしれない」

「しかし、オドアケルが裏で糸を引いていたとわかれば、対処の仕方は単純です。オドアケルの者たちさえ排除できれば、反乱軍は統率力をうしないます。そうすれば、カゼンツァの奪取は目前となりましょう」


 カゼンツァの民兵たちに、戦闘の知識や経験があるとは思えない。


 オドアケルの者たち……なかでも、リーダーのルーベンを捕らえるのが最優先事項となるだろう。


「そ、そうか! ドラスレ殿の、言う通りだっ」

「ルーベンという男は、他者を寄せつけない戦闘力を有していました。あの男に安易にぶつかるのは危険です。わたしがルーベンを捕らえましょう」

「おおっ、やってくれるかね!」

「もちろんであります」


 ロンゴ殿と幹部たちから、ちいさな歓声が上がった。


「さすがはドラスレ殿だっ。都をすくった勇者は、やはり別格だ!」

「そんなことはありません。わたしは多少、ロンゴ殿や皆様よりも異能者と戦う経験をもっているだけです。ルーベンは短気です。挑発には応じやすいでしょう。

 わたしがあの男を挑発して、カゼンツァから引きはなします。そうしたら、ロンゴ殿が別動隊を指揮してカゼンツァを攻めおとします。オドアケルがいなくなれば、カゼンツァはすぐに落ちるでしょう」

「おおっ、その通りだ!」


 ロンゴ殿が子どものような声をあげる。


「そなたは軍神かっ。戦術まで心得ているのか!?」

「このような作戦なら、並みの冒険者でも思いつきます。わたしは偉大な冒険者であった義父から、作戦の立て方などをおそわったのです」

「そ、そんなことまで、おそわってるとはな……」


 これだけはなせば、この者たちも納得しただろう。


「ですから、兵の休養が急務です。兵が疲れはてていたら、せっかくの作戦が水の泡となってしまいます」

「うむ……ドラスレ殿は、そこまで考えておられたのだな」

「作戦の具体的な部分まで考えていたわけではありませんが、兵をただちに休ませるべきだと思っていました。

 陣を早急に立てなおし、兵の士気をもどすのが最優先です。その次に、夜襲の警備を強化する。あの手の者たちは、おなじ手を何度も使ってきます。今夜からさっそく警備した方がいいでしょう」

「そうだな。都をすくわれた、ドラスレ殿にしたがおう」


 ロンゴ殿がテーブルに肘をついて、にがにがしく言った。


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