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第78話 ドラスレとルーベンの力くらべ

「シルヴィオは俺の支援を。ジルダはロンゴ殿をまもってくれ!」

「はっ」

「わかったぜ!」


 ルーベンが、まっすぐに飛びかかってくる。


 鋼鉄の柱のような槌を大きくふりかぶって、


「死ねやぁ!」


 俺の首もとをめがけて槌をたたきつけた。


 その攻撃をヴァールアクスで受け止める。


 ものすごい衝撃だっ。片手では受け止めきれない!


「てめぇは心底、見そこなったぜ。ドラスレ、ドラスレって、みんなが言ってやがったから、もうちょっとマシなやつだと思ってたのによぅ」


 俺は今まで、膂力りょりょくで負けたことがない。


 相手がドラゴンであっても、対等にわたりあえていたのだが。


 この男の力は、ドラゴンの力を凌ぐか!


「きさまっ、グラートさんからはなれろ!」


 シルヴィオが二本の幻影剣を出現させて、衝撃波をルーベンにはなつ。


 ルーベンはすぐに俺からはなれて、衝撃波を難なくかわした。


「お前はドラスレの仲間か。ふん、そろいもそろって、腐った領主なんぞにしっぽをふりやがって」

「グラートさんは、そんな人じゃないっ。何も知らないやつが、勝手なことばっかり抜かすな!」


 シルヴィオが幻影剣を下げて、ルーベンに突撃する。


 幻影剣の紫色の刀身が、ルーベンの首もとをとらえるが、


「ふんっ」


 ルーベンは長い槌を倒して、幻影剣を器用に受け止めた。


「なにっ」


 この男……やはり、ただものではない。


「お前、たいした力じゃねぇな。もっと本気でこいよ」

「ふざけるな!」


 シルヴィオが身体を旋回させて、おどるように幻影剣を斬りつける。


 紫色に光る剣が、夜の陣地に優雅な弧をえがく。


 それは花のように闇の中で咲きほこるが、ルーベンはその斬撃を見さだめて後退する。


 言葉と風貌は乱暴そのものだが、判断力はかなりしっかりしている。


「ほぇぇ。速さはすっげぇけどよ。あたんなきゃ、意味ねぇぜ」

「何をっ」

「攻撃っつうのはよ、こうやるんだよ!」


 ルーベンが地面を蹴ってシルヴィオに急接近する。


「シルヴィオ、よけ――」

「おせぇぇぇ!」


 ルーベンが巨大な槌をふりおろす。電光石火の速さで。


 シルヴィオは二本の幻影剣をクロスさせて、男の重たい一撃を受け止めるが、


「ぐわっ!」


 巨獣の突進のような一撃を相殺できず、吹きとばされてしまった。


「やめろ!」


 ヴァールアクスをかまえて、ルーベンに斬りつける。


 彼は槌を立てて、俺の攻撃を真正面から受け止めた。


 ルーベンは強烈な力でヴァールアクスを押し返しながら、にっと笑った。


「あんたは、やっぱつえぇな! 力の入り方が、さっきの坊主とぜんぜんちがう。ドラゴンバスターってぇのは、だてじゃねぇなぁ!」

「お前はさっきから、何を言っている。俺に失望したと思ったら、次に出る言葉が称賛とはな」

「なぁに。俺があんたに失望したのは、あんたがあの腐れ領主なんかの言いなりになってるってとこだけだ。あんたの強さまで失望してたわけじゃねぇぜ!」


 ルーベンの渾身の力が……持ちこたえられない!


「ぐっ」


 俺も彼の勢いを相殺できなかったが、左足でふんばり、かろうじて転倒をさけた。


「まだまだぁ!」


 ルーベンがフルスイングで鋼鉄の槌をふりまわしてくる。


 その鉄球のような一撃を受け止めるたび、両手が感電したような衝撃が走る。


「俺はなぁ、つえぇやつが好きなんだ。あんただったら、俺の気持ち、わかんだろ?」

「わかる……と言ってやりたいところだが、理解しかねるな。お前は何がしたいのだ。強い者と戦いたいのか。それとも飢えにくるしむ者をたすけたいのか」

「両方さ!」


 ルーベンが槌をたたきつけた。


「あんたはつえぇし、民の上に立つ男でもあったからよ。あんたに憧れてたんだぜ。あんたみてぇな、すげぇやつがいるんだから、この国もまだ捨てたもんじゃねぇってな。

 それなのによ。騎士なんぞになっちまって、今じゃ贅沢三昧の毎日かよ。言っとっけど、あんたに失望してるのは、俺だけじゃねぇぜ」


 そうなのか? 俺は騎士になって、民から失望されてしまったのか――。


「グラートは、贅沢なんかしてない!」


 戦場のむこうでさけんだのは、ジルダか。


「グラートのこと、なんも知らねぇやつが、勝手なことばっか言うな! グラートはな、荒れた土地を国から押しつけられて、自分で汗水たらしながら土地をたがやしてるんだ。

 結婚したのに、アダルといちゃいちゃしてる時間はねぇし、住んでる家だって、今でもぼろぼろの小屋みてぇな家なんだ。こんな、デブな領主なんかとおなじなわけないだろ!」


 言いながら、ジルダがロンゴ殿を指す。


 ロンゴ殿がジルダの後ろで、びくりと肩をふるわせた。


「へぇ。あのガキも、あんたの子分か? うまくしつけてるじゃねぇか」


 ルーベンが、へらへらとうすら笑いを浮かべる。


「よく知らねぇが、ドラスレはガキのおもりがうまいようだな。おもり大好き野郎にでも、改名した方がいいんじゃねぇの?」


 ルーベンが、がははと笑うが、


「それ以上、きたない口をひらくな」


 シルヴィオやジルダを侮辱されるのは、我慢ならん。


「ぁあ? それ、俺様に言ってんのか?」

「そうだ」


 ルーベンがうすら笑いを止めた。


「ドラスレさんよ。わりぃが、あんたはここで死んでもらうぜ。醜いあんたを、これ以上見てらんねぇからなぁ」


 笑っていた男の空気が、一変する。


 槌を両手で持ちなおして、俺になぐりかかってくるが――こんなものっ!


「ふんっ」


 左手をのばして、ふりおろされた槌を受け止める。


「な……!」


 槌とルーベンの全力がものすごい圧力となって、俺の左腕を押しつぶそうとするが……俺の力は、こんなものではないぞ!


「どうしたっ。お前の力は、その程度か」

「な……んだとっ」

「俺もどうやら、お前の力をどこかで見くびっていたようだ。だが、お前の強さはわかった。ならば、ヴァールを討滅したこの力で、お前を相手してやることにしよう!」


 こんなもの……邪魔だ!


「うわぁ!」


 槌を彼ごと、後ろへ吹き飛ばす。


 プルチアのガレオスの全体重を受け止めたときとくらべれば、この程度の重さなど、たいしたものではない。


「グラート……すげぇ」


 ジルダは、ロンゴ殿といっしょに絶句していた。


 シルヴィオも、ぶじのようだ。


「オドアケルの者よ。俺の批判や苦言であれば、俺はどのようなものでも聞き入れよう。しかし、俺の大切な臣下を侮辱するのはゆるさん」

「う、うるせぇ!」


 ルーベンの顔色が変わる。


 目がふるえ、血色のよかった顔から血の気が引いている。


「ドラスレがなんだ! 土地をもらって調子こいてるやつなんぞに、俺様が負けるかっ」


 ルーベンの攻撃は、あいかわらず重い。


 両手に込められた力は、山すらくだくだろう。


 だが、この程度で俺を倒すことはできない!


「ぐわっ」


 ルーベンのがら空きになった胴をけとばす。


「よけろよ!」


 ヴァールアクスを引いて、夜空に跳躍した。


「う、う……うわぁ!」


 ルーベンがうずくまる地面のわきを、ヴァールアクスでたたきつけた。


 アルビオネのドラゴンたちを粉砕してきた一撃だ。


 瞬間的に生み出された圧力はかたい地面をこなごなにして、すべての敵を彼方へと吹き飛ばす。


 ルーベンも得物をわすれて、陣地の外へと吹き飛ばされてしまった。


「しまった。あの男から事情を聞こうとしていたが、戦いに熱中してしまった」


 ヴァールアクスを彼に直撃させなかった。あの男は生きているだろう。


 陣地の中央で尻もちをついているロンゴ殿と兵を見やった。


「ロンゴ殿。何をしておられます。オドアケルの者たちは重要参考人。捕縛の指示を!」


 ロンゴ殿と兵たちは、しばらく呆然と俺を見つめていた。


 俺の指示を他人ごとのように受け流していたが、ロンゴ殿がやがてわれに返った。


「お、お前たちっ。夜襲してきた敵を早く捕らえろ!」


 兵たちもやっと剣を腰から抜いたが、オドアケルの者たちはすでに闇の中へ溶け込んでいた。


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