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第38話 ドラゴンスレイヤーは都の有名人、祭司長ジェズアルドあらわる

 三日目の昼に都ヴァレンツァへ到着した。


 都の舗装中の北門をくぐり、黄金の街並みへと入る。


「ひゃー。ひさしぶりだなぁ……て、家とかめっちゃ建て替え中だけど」


 ジルダが馬を引きながら、市街を見まわしている。


 ヴァレンツァの北門もそうだが、北門の付近にあった建物はまだ復旧の途上にあるようだ。


 あちこちでハンマーをたたく音が聞こえてくる。


「なんで、こんなに建て替え中なの?」

「アルビオネとの戦いで、ここが被害にあったからだ」

「あっ! そっか……」


 工夫こうふたちは、鼻歌まじりで復旧作業をしている。故郷の歌だろうか。


「じゃあ、グラートがドラゴンを倒したのって、この辺だってこと?」

「そうだな――」


 そばにいた幼児が、「あっ!」と俺を指さした。


「おじさん。もしかして、どらごんすれいやー?」

「そうだぞ。俺はドラゴンスレイヤーだ」


 三歳くらいの、鼻を垂らした幼児だ。足もとに小猫をつれている。


 しゃがんで頭をなでると、幼児の顔がはち切れんばかりの笑顔で満たされた。


「おいっ。あれ」

「ドラゴンスレイヤーだってよっ」

「なんだって!?」


 まわりの工夫や通行人も、俺の正体に気がついたようだ……まずいっ。


「ほんものなのか?」

「わかんない、けど……」

「あの斧だよな。ばかでけぇやつ」


 通行人たちが立ち止まり、俺のまわりでひそひそと会話しはじめる。


 大通りの向こうからも街の者たちが集まってきて、さわぎがだんだんと大きくなってきた。


「こんなところにドラゴンスレイヤーがいるなんて!」

「騎士になったんだろっ。握手してくれ!」

「あたしもぉ!」


 街の者たちが、俺に吸い寄せられるように集まってきて、ぎゅうぎゅうに押し込まれてしまった。


 前後、左右、どの包囲からも街の者たちの顔が並んでいる。前に、進めない……。


「ま、待て。握手するから、落ちつくのだ!」

「グ、グラート!」


 ジルダは街の者たちから押し出されて、北門の方までもどってしまっていた。


「『勇者の館』の、ギルドハウスに行ってくれ! この先にあるっ」

「わ、わかった!」



  * * *



「サルンの領主になったのに、ずいぶんと軽率な行動だったな。ええ? グラート卿」


 しばらくして数人の警備兵がやってきて、俺はヴァレダ宮廷騎士団の庁舎へとつれていかれてしまった。


 騎士団長のチェザリノ殿が待ちかまえていて、待合室のような場所でおとなしくするように指示された。


「ドラゴンスレイヤーだかなんだか知らんが、勇者気どりもはなはだしいぞ、グラート卿……いや、ドラスレ!」


 チェザリノ殿はテーブルをはさんだ向かいで、眉間に青筋をうかべている。


 ヴァレダ宮廷騎士団は、王国につかえる騎士たちをたばねる組織だ。有事の際に騎士と兵を指揮する。


 俺もヴァレダ宮廷騎士団の団員である。すなわち、チェザリノ殿は俺の上役だ。


「は。申しわけございません」

「わたしに謝る者があるかっ。街でさわぎを起こし、陛下に多大なご迷惑をかけたのだ。陛下に謝りなさい!」

「はっ」


 チェザリノ殿は頭のかたい、典型的な王国の役人だな……。


「それでは陛下に面会し、直接、謝罪の言葉をのべましょう。陛下はどちらに?」

「こ、これ! 陛下はただいまお休み中である。お前ごときが、軽々しく陛下に面会できると思うな!」


 陛下に謝れと言われたから、その通りに行動しようと思ったのだが……。


「して、お前の妻は、今日も元気にくらしておるのか」

「妻、ですか?」

「そうだ! お前は耳まで遠いのかっ」


 チェザリノ殿がトマトのように顔を赤くする。


 なぜ、これほどまでに激昂げっこうしているのか……。


「妻は今日もサルンで畑仕事に従事しています。それが、どうかしましたか?」

「なにっ、畑仕事だと!?」

「え、ええ。サルンの農地を皆でたがやさないと、来年に食べるものがなくなってしまいますから」


 チェザリノ殿が真っ赤な顔で、くちびるをふるふるとふるわせている。


「あの、花のように、おうつくしい方に……そのような、ことをさせるとは……」

「畑仕事はたしかに重労働ですが、これは妻ものぞんでいることなのです。わたしは所要で都に来ましたが、サルンに帰ったら畑仕事に――」

「だったらお前もはやくかえれぇぇー!」


 チェザリノ殿の口から唾が飛びちった。


「騎士団長っ、おしずかに!」


 三人の兵がチェザリノ殿をとりおさえた。


「お前のような、けしからん人間が、どうして騎士になどなったのだ。陛下のお考えが、わたしにはわからぬ……」


 チェザリノ殿は、ウバルドに似ている。


 俺はどうして、いつも上役にきらわれてしまうのか。


「騎士は、騎士道精神を重んじる、高貴なる存在だ。王国を代表する者のみが、叙任されることをゆるされる身分だというのに……このような、野蛮な人間が、騎士になるなど……」


 チェザリノ殿にも、誠意がつたわる日は来るのだろうか。


「やはり、政治は宰輔にすべておまかせすればよいのだ。世間を知らぬ陛下が政治を摂ろうとするから、不要な混乱が生まれるのだ」

「は……」

「騎士の作法すら知らぬ者を騎士にすれば、王国のよき伝統がうしなわれ、アルビオネなどの近隣の野蛮な王国と同等の、下劣な国へと格を下げてしまう。

 お前はっ、ヴァレダ・アレシアの栄えある伝統と歴史を知るまい! たかがドラゴンの一匹を倒した程度で、ヴァレダ・アレシアの栄光ある騎士を名乗るなど、本来ならばあってはならないのだ」


 俺に騎士の位をさずけると言われたのは、陛下だ。


 チェザリノ殿は、陛下のお考えをよく思っていないのか?


「そこまでにしておくのだ。チェザリノ」


 庁舎の奥から、高貴なローブに身をつつんだ男があらわれた。


 すらりと高い背に、アゴのととのえられたヒゲが目を引く。


 チェザリノ殿が、はっと背をただした。


「ジェズアルド様っ。このようなむさ苦しい場所に、おいでで」

「うむ。ドラゴンスレイヤーが都に来ていると聞いたのでな。会ってみたかったのだ」


 ジェズアルド殿の年齢は、宰輔と同じくらいだろうか。


 チェザリノ殿と違い、ジェズアルド殿は陛下のように落ち着きはらっている。


「これ、ドラスレっ。お前もジェズアルド様に礼をするのだ」

「は」

「よせ。そんなつもりで来たわけではない」


 ジェズアルド殿が口を止めて、俺をまっすぐに見下ろす。


 そして、


「きみはすごい人気だな! 国民のスターじゃないかっ」


 大きな口を開けて、俺の肩をばしばしとたたいて……!?


「ジェズアルド、さまっ」

「そんなにかたくならなくていい。わたしたちみたいな血筋だけの者より、民衆はきみを求めているのだ。うらやましいかぎりだぞー!」


 ジェズアルド殿は、あたまのかたいチェザリノ殿とはちがうようだ。


「ふむ。いい顔だ。精悍で力強い。陛下が気に入るのも、よくわかる」

「は、はあ……」

「きみは、わたしのことをおぼえていないと見えるな。叙任式の後に、一度だけ言葉をかわしたのだがな」


 ジェズアルド殿が、はっはっはと快活に笑った。


「申しわけありません。叙任式の後の酒宴では、たくさんの方からご挨拶をいただきましたので、まだ宮廷のすべてを記憶できていないのです」

「そうだろう。宮廷の人事は複雑だ。外から入った者が、おいそれと馴染めるものではない。わたしは祭司長のジェズアルドだ。ドラスレ殿」

「は。ご挨拶いただき、痛み入ります」


 あらためて、ジェズアルド殿と握手をかわす。


 ジェズアルド殿の手はほそいが、男性特有の骨太さを感じる。


「チェザリノ。この辺で、ドラスレ殿を解放してもいいだろう。悪事をはたらいたわけではないのだから」

「は。ジェズアルド様が、そのようにおっしゃられるのであれば」


 ジェズアルド殿は、騎士団長よりもえらいのか。


 チェザリノ殿ににらまれながら、騎士団の庁舎を後にする。


 ジェズアルド殿に従って、宮殿のある方向へとあるいていく。


「すまぬな、ドラスレ殿。宮廷には、チェザリノのような、あたまのかたい者が多いのだ」

「いえ。わたしはしょせん、平民上がりです。宮廷の伝統を守られている方からすれば、わたしは魔物と同等の異分子と見られても、しかたないかもしれません」

「ふむ。そういう謙虚な姿勢も、陛下がお熱をあげられる要因なのかもしれぬなっ」


 ジェズアルド殿がふりかえって、また豪快に笑った。


宮廷関連のキャラを増やしてしまい、申しわけありません。これ以上は増えませんので、ご安心ください。

宮廷関連のキャラは、陛下派か、宰輔派かで覚えていただければ、だいじょうぶです。


国王ジェレミア:女性っぽい陛下。いい人だけど政治能力は低い。

宰輔サルヴァオーネ:国政の中枢を担う人。不正で私腹を肥やす。

騎士団長チェザリノ:陛下派。だが陛下の考えに賛同してない?

祭司長ジェズアルド:陛下派。宰輔の政敵。あとで書きますが王族です。

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