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第27話 ドラゴンスレイヤー VS ゴールドドラゴン

 ヴァールのような高位の魔族は亜人の形態に変化へんげできるのだという。


 ドラゴンはその巨体ゆえ、ドラゴンの状態で生活するのは不便なのだと、ヴァール自身が言っていた。


 ゾルデも、ヴァールとおなじ理由で亜人の姿をしているのか。


「グラートさんっ」


 シルヴィオが、戦場で倒れる魔物たちをどかして、姿を見せた。


 アダルジーザも……無事だったかっ。


「グラートさんっ、助太刀します!」


 シルヴィオが双剣をかまえて、ゾルデに斬りかかるが、


「ザコはひっこんでろ!」


 ゾルデの重たい一撃で、シルヴィオがはじき飛ばされた。


「ぐうっ」

「やめろ!」


 ゾルデが腕をだらりとさげて、細い首を動かす。


「心配するな。人間のザコなどに用はない。俺が抹殺しなければならないのは貴様だけだ」


 俺をねらい打ちにするのか。ならば、都合がいいっ。


「しねぇ!」


 ゾルデが右手の一本だけで、グレートソードを斬りつけてくる。


 とてつもない力だ。


 俺の力をもってしても、グレートソードを片手だけであつかうのは容易ではないっ。


「これが、魔物随一の力をほこる、ドラゴンの力か」

「ほざけ!」


 やつの攻撃をヴァールアクスで受けるが、勢いを相殺できない。


「俺は貴様をほうむることだけを考えて生きてきた」


 後ろの城塞に背をぶつけてしまった。だが、この程度なら、まったく問題ない。


 ゾルデが歩みよってくる。


「人間どもの、街などいらん。貴様を殺して、その首を……ヴァール様に捧ぐっ!」


 常軌を逸した、ヴァールへの忠誠心だ。


「お前の目的はヴァレンツァの占拠ではなかったのかっ」

「そうだ! アルビオネも、こんな街も、どうだっていいっ。お前を殺せば、ヴァール様がおよろこびになる!」


 この男の忠誠心は異常だ……。


「そんなことをして、ヴァールが本当によろこぶと思っているのかっ」

「だまれ!」


 ゾルデの一撃が城塞を吹き飛ばす。


「ヴァール様は俺のすべてだった。あのお方が俺をひろい、今日まで育ててくれた。俺がアルビオネでえらくなれたのも、すべてヴァール様のおかげだったんだ」


 まるで、俺自身ではないか。


「奇遇だな。俺も孤児だった」

「ほざけ!」


 ゾルデが怒りにまかせてグレートソードをはらうが、その攻撃は何度も受けている。


 ヴァールアクスを右手でもち、あいた左手を地面につけて全身をかがめた。


「なにっ!?」

「くらえっ!」


 ヴァールアクスがゾルデの胸をとらえる。


 今度はお前が吹き飛ばされる番だ!


「ぐ……っ。ザコの分際でっ」


 ゾルデは後ろで戦いを止めていた魔物たちに激突した。


 この程度の一撃で、倒れるような者ではないだろう。


「お前の気持ち、よくわかった。お前には俺をねらう確固たる動機がある。ならば、お前の刃を何度でも受けることにしよう」

「ふざけるな!」


 ゾルデがすぐに身体を起こしてとびかかってくる。


 グレートソードの一撃は地面を割り、生じた衝撃波が北門の城塞を破壊する。


 おそろしい力だ。この圧倒的な力は俺を……いや、ヴァールすらしのぐかもしれない。


 だが、


「そこだ!」


 ゾルデの攻撃をかいくぐり、ヴァールアクスの渾身の一撃をくらわせる。


 ゾルデは俺をにくむあまり、冷静さを欠いているのだろう。


 すべての攻撃が大ぶりだ。よけるのは簡単だ。


「お前の攻撃はすさまじい。だが、そんな大ぶりでは俺を倒せない」

「なんだとっ」

「怒りにまかせた攻撃は正確さを失わせる。どんなに力強くても、当たらなければ脅威にならないのだ」

「ふざけるな!」


 ゾルデのグレートソードが城塞と街道の石だたみを粉砕する。


 だが、俺は倒れない。ヴァールアクスがゾルデを吹き飛ばし、ゾルデのかぎりある体力を確実にうばっていく。


 ヴァールと戦ったときと同じ。持久戦だ。


「くそっ」


 ゾルデがグレートソードを投げすてた。


「なんで、やつを倒せないんだっ。なんでだ……」

「さっき、言ったはずだ。怒りだけでは俺を倒せないと」


 ヴァールアクスを地面に突き立てる。


 ゾルデは両手を地面に押しあてて、唇をわなわなとふるわせていた。


「ふざけやがって。……ドラゴンの力を、なめるなよ」


 ゾルデが金のマントをぬぎすてる。


 両手を地面に押しあてた体勢で、強大な力を放出しはじめた。


「何が、起きてるんだ……」

「グ、グラートっ」


 この力の放出……見たことがある。


 亜人の姿をやめ、ドラゴンの姿にもどる気だ。


「グ、グラートさんっ。今のうちに、攻撃した方が……」

「やめるんだ。ドラゴンの力で吹き飛ばされるぞ」


 ヴァールと戦ったときと、同じだ。


「うおぉぉぉ!」


 ゾルデの全身が、金色の絹のような力につつまれる。


 黄金色のたまごがその場で光をはなっていたが、左右から二枚の大きな翼があらわれて、たまごの殻をつきやぶった。


「す、すごい……」


 ゴールドドラゴンの巨体が、ゆっくりと姿をあらわす。


 ガレオスや岩の巨人をしのぐ巨体に、金塊を身体じゅうにはりつけたような、頑強な鱗。


 雄々しい顔や翼には金の角がするどく伸びている。手足の爪も、一本一本が剣のようにとがっていた。


「人間ごときに、この姿で戦いたくはなかったが……貴様をここでかならず殺す!」


 ゾルデが剛腕をふりおろしてくる!


「くっ」


 ヴァールアクスで受け止めるが……とてつもない力だっ!


「グラート!」


 城塞に何度も激突するのは危険だ。


 空中で身体を旋回させて、城塞に両足で着地する。


 城塞をけり、その反動で攻撃態勢にうつる――。


「グラートさん!」


 目の前にせまるゾルデの影!


「しねぇ!」


 ゾルデの攻撃を、肩に受けてしまった。


 吹き飛ばされて、城塞に背中を強打する。


「ぐうっ」


 左の肩がはずれたか。力が入らない。


 背中の筋からも痛みが走る。


 アダルジーザのたすけを借りたいが、ゾルデの怒涛の攻撃がおさまらない。


「さっきの勢いはどうした! 俺に反撃してみろっ」


 やはり、ヴァールに匹敵する攻撃力と強靭さだっ。


 ゾルデの勢いにのまれて、戦いを続けている者は他にいない。


「くっ、ちょこまかと……」


 ゾルデが身をひるがえして、塔のように長いしっぽをふりまわし――。


「くっ!」


 眼前にせまる巨大なしっぽの攻撃をよけることができないっ。


 また吹き飛ばされて、城塞に肩と背中をうちつけてしまった。


 まずいぞ。想像以上のつよさだ……。


「貴様……本当に、ヴァール様を倒したのか?」


 ゾルデが翼をはためかせて宙に浮く。


「ヴァール様のお力とくらべれば、俺の力など子ども同然。ヴァール様の足もとにもおよばんというのに。この程度の人間で、ヴァール様が倒されたなんて、とても考えられん」


 この体たらくではゾルデにののしられても文句は言えない。


「そうだな。ヴァールを倒したのは奇跡だったのかもしれない」

「奇跡などでヴァール様が倒されるものか!」


 ゾルデが大きな口を開く。


 炎をはく気か――ちがうっ。この紫色の光は電撃か!


「ぐわっ!」

「言え! 貴様はヴァール様をどこかに隠したなっ。素直に白状しろ!」


 この男は何を言っているんだ……。


「ヴァールを隠すことなど、できるわけがなかろう」

「じゃあなんでヴァール様がこの世にいないのだ。おかしいだろう!」


 この男はヴァールへの忠義を暴走させている。


 この世を去った者にすがるのは忠義ではない。異常な執着と現実逃避だ。


「ヴァールは俺が倒した。やつの巨大な肉体はすでに土へ還っている」

「うそだ! 貴様ごときにっ、ヴァール様が倒されるはずがない!」


 ゾルデが電撃の嵐をはき出す。狂ったように。


 紫電の雨は城塞を破壊し、ヴァレンツァの建物まで倒壊させている。


「やめろ!」

「貴様を絶対に殺す。人間どもの街も、すべて焼きつくす! ヴァール様のためにっ」


 この男の暴走を止めなければ……。


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