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第100話 暗殺者たちを蹴散らせ!

 オドアケルの女たちが、一斉に矢をはなってくる。


 彼女たちは片膝をつき、洗練された姿勢でボウガンをかまえている。


 高速で飛来する矢を、俺は横にとんでかわした。


「みんなっ。ドラスレさまをたすけて!」


 ビビアナの指示がとび、兵たちが岩陰からおどり出てきた。


 彼らは喊声をあげて、ボウガンをかまえるオドアケルの者たちに斬りかかった。


 オドアケルの隊列がすぐにみだれる。


 ボウガンは矢を一度発射すると、二発目を発射するまでに時間がかかる。


 矢をボウガンに設置する無防備なタイミングをねらうのは、とても理にかなっているぞ!


「くそっ、何してんだ!」


 サンドラが刃のまがったダガーで兵を斬りつける。


 彼女の太刀筋は、速い! 目で追えない速さだっ。


 兵はサンドラの高速剣技で首すじを斬られて、大量の血を噴出してしまっ――。


「くっ、させるか!」


 ヴァールアクスをとって、突撃する。


 肩とわき腹に激痛が走るが……耐えてくれ!


「ふっとべ!」


 サンドラの脳天をとらえ、ヴァールアクスをふりおろす。


 これで仕留めたと思ったが、彼女に軽々とかわされてしまった。


「ききっ。なんだぁ、その攻撃は。止まって見えるぜ!」


 後退していたサンドラが地面を蹴って、俺にまっすぐ向かってくる!


 彼女は俺にぶつかる直前、右にとんで横から刃を斬りつけてきた。


「くっ」


 シルヴィオと同等……いや、それ以上かっ。


 目にも止まらぬ高速剣技は、どのようなものにも例えられない。


 サンドラがふるうダガーは、その切っ先がまったく視認できない。


 びゅん、びゅんと風を切る音だけが俺の前にひびいて、その直後に俺の頬から熱い血が流れ落ちているのだ。


「お前も、預言石で潜在力を解放された者かっ」


 高速で右手をふっていたサンドラが、止まった。


「なんで、そのことを知ってるっ」

「ヒルデブランドから聞いたのだ。ラヴァルーサで、直接な」


 サンドラの目じりがつり上がっていく。


「人間には、アルビオネのドラゴンすら圧倒するような能力が潜在している。その力を解放すれば無限の力を得られるのだろう。ヒルデブランドは、とんでもないものに目をつけたものだ」

「けっ。お前ら王国の騎士どもをぶっ殺すためには、すげぇ力が必要なんだ。この力はな、神様がお前ら騎士どもをぶっ殺すために用意してくれたもんなんだよ!」


 預言石による潜在力の解放を、神の恩寵おんちょうと同一視するとは……。


「ようするに、天におわす神が、俺たち騎士を怒っているということか」

「そうだよ! お前らが貧しいやつらを無視して、贅沢三昧を続けてるから悪いんだろっ。ヒルデさまはな、この間違った世界を変えるために、立ち上がってくれたんだ!」


 サンドラが急接近してくる!


「ドラスレさまっ!」


 目にも止まらぬ速さでくり出された突きが、俺の腹を刺す――寸前で、俺は身体をねじってそれをかわした。


 だが、ダガーの鋭い刃が俺の腹を裂いた。血がながれているのを感じる。


 サンドラの手をつかんだ。


「くそっ、はなせ!」

「サンドラ。お前は、正気で言っているのか。ヒルデブランドは、そんな善人ではないぞ!」

「なんだとっ」

「あの男が貧しい者の上に立つと言っているのは、建前だ。あの男が真にのぞんでいるのは、自分の理想とする世界の創造だ!」


 脇腹から血がながれていく。サンドラによって斬られた傷は、かなり深かったかっ。


「あの男は、預言士の末裔なのだという。預言士はかつて、この地上で高度な文明を築いた者たちなのだと、あの男が言っていた。ヒルデブランドは……あの男は、お前たちのことなど、少しも気にかけていないのだっ」


 血がながれているせいか、肩や頭から力が抜けそうになる。


 この場で眠りこけたくなる衝動にかられるが、我慢だっ。


「ヒルデブランドは、ひとりよがりな男だ。あの男はお前たちの命よりも、おのれの野望を優先する。そんな者につき従って、お前たちは幸せになれるのか!? 一度立ち止まって、よく考えるのだっ」

「はなせ!」


 サンドラに左手で押し出されてしまった。


 大量の血がながれてしまったせいか、彼女の決してつよくない力を受け止めることができなかった。


 尻もちをつく俺の前を、ビビアナと兵たちがまもってくれる。


「ヒルデさまを何も知らないやつがっ、勝手なことをぬかすな!」


 サンドラの少女のような声が、空にひびいた。


「ヒルデさまは、あたしたちを救ってくれる人だ。ヒルデさまは、あたしたちにパンをくれて、住む場所もはたらく場所も用意してくれた。ヒルデさまがいたからっ、あたしたちは今まで生きてこれたんだ!」


 ヒルデブランドが、サンドラやオドアケルの者たちをやしなってきたというのか。


「お前みたいなっ、ヒルデさまを何ひとつ知らないやつが、勝手なことをぬかすな! お前らなんかより、ヒルデさまが上に立つべきなんだ!」


 サンドラがまた攻撃をしかけてくる!


「逃げろ!」


 ビビアナと兵たちでは、サンドラに勝てない!


 だが、ロングソードをかまえて全身をふるわせていたビビアナが……サンドラの攻撃を受け止めた!


「きゃっ!」

「このっ、この!」


 サンドラが高速でダガーをふるう。何度も。


 ビビアナは剣を前に出して、サンドラの攻撃を受け止めているだけだが、すべての攻撃を防いでいた。


「だれだよお前っ。邪魔すんなよ!」

「だめですっ。ドラスレさまは、あたしたちの希望なんです!」


 ビビアナ……。


「ふざけんな! ヒルデさまが希望だっつってんだろ!」

「ヒルデ……あの人は、希望なんかじゃない! まずしい人たちを利用してる、むごい人ですっ」


 ビビアナの腰は引けているし、かまえも素人同然だ。


 だが、サンドラの凶刃を受け止める勇気は、すばらしいぞ!


「こんの、くそザコが……っ」


 まずい。サンドラが正気をとりもどしたら、ビビアナでは攻撃をふせげないっ。


 俺は力をふりしぼって立ち上がった。


「ビビアナ、どけ!」


 ビビアナがふりむくのと同時に、俺は彼女を左手で押しのけた。


 脇腹の傷口がさらにひろがったような気がしたが……耐えろ!


「はっ!」


 左手でヴァールアクスの石突きのあたりをにぎりしめて、刃をサンドラにふりおろした。


 彼女の意表をつく攻撃であったはずだが、また寸前でかわされてしまった。


 ヴァールアクスの重たい刃が、かたい地面を粉砕する。


 大量の土を起こし、砂塵を空に舞い上がらせる。


 この悪くなった視界を逆に利用されるか。身動きのすばやい者と戦うのは、苦手だ。


「ドラスレ、さまっ」


 全身の痛みをこらえ、息をひそめてサンドラの反撃を警戒した。


 砂塵はすぐに地面へと落ちて、視界がもとにもどった。


「サンドラは、逃げたか」


 サンドラの姿は、どこかに消えうせていた。


 なんとか、窮地を脱することができたか。


 全身の力が抜けて、気を失いそうになる。


「ドラスレさま!」


 まずい。この戦いで血をながしすぎてしまった。


「ドラスレさま、だいじょうぶですかっ」

「だいじょうぶ、だ。なんとかな」

「だいじょうぶには、見えませんよ……」


 ビビアナが、倒れそうになる俺の身体を支えてくれる。


「さっきの戦い、みごとだった。サンドラの攻撃を、よく受け止めてくれた」

「えっ。そ、そんなこと、ないですって……」

「あそこできみがサンドラの攻撃を受け止めてくれたから、俺も反撃する隙がつくれたのだ」


 ビビアナがあのとき身を挺してくれなかったら、俺はサンドラに命をうばわれていたかもしれない。


「よくおぼえてないんですけど、あたしががんばらなきゃって、思ったんです。それで、なんとか、必死に……」


 頭で考えて行動した結果ではなかったのだな。


「はっ! そんなことより、どうするんですかっ。こんな状態で、ロンゴ様に会いに行くんですかっ」

「もちろんだ。サンドラは、またすぐにもどってくる。俺たちがここで立ち止まっていたら、またやつらに命をねらわれるぞ」

「そ、そうかも、しれませんけど」


 ビビアナがまるい顔を青くする。


「でも、歩けるんですか。傷口くらい、ふさいだ方がいいですよ」

「そうだな。傷薬と包帯は、まだ残っているか?」

「は、はい! たぶんっ」


 ビビアナがさっと立ち上がって、救急箱をさがしに行った。


 俺は支えをうしなって、その場に倒れ込んでしまった。


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