第十九話 それぞれの出来るコト
「一緒の班になる事だし、改めてお互いの出来るコトを知っておきたいのだが……どうだろうか?」
「そうね。お互いを補い合えるからこそチームを組む意味があるんですもの」
戦闘面では困らず、本気を出せば森なんて一人で踏破できるトファリが言うと皮肉にも聞こえるが、良いことを言っている。
それぞれに得意な事、不得意な事はある。俺は守るのが得意で攻めるのが苦手だったり。助け合う為のチームならば、お互いについて知っておかないと意味がない。ついでに言うなら、補えない部分はみんなのお金で解決しないといけないし。
「では、あたちから~。あたちは魔法が……特に風魔法が得意でして、食べられる植物は直感的に分かりますよ~」
「なるほど。ミーニョさんはめちゃくちゃ頼りになりますね」
森と妖精族というよりは植物と妖精族の相性がバツグンなのだろう。森と言えばエルフというイメージがあったけど、ミーニョさんの能力は不測の事態に陥った時にでも頼りになる。
「妾は戦えるゾ! 本気を出せば| 木も岩も切り裂けるし、妖術で火も操れる! どうだ子分! 凄いだろ!」
「森の戦闘で火とか使わないでくださいよ?」
「妾にも頼りになると言うのダ! 親分だゾ!」
「戦いにおいては~リベに任せると思うので~頼りに~してます~」
「ンフー、しょうがないなァ! 子分が弱っちいから妾が助けてやるゾ!」
他のみんなは可哀想にリベを見ているが、本人が嬉しそうだからあんな言い方でも良いのだろう。
絶対に森で勝手に走り出すタイプだが、戦闘面では本当に頼りにはしている。ただ、勝手に居なくなったら放置しようとは思うけど。
「次はルー? ルーはね、沢山食べれるよ!」
「流石ルーだな」
「凄いわね、ルーは」
「おい子分! おい人間! どうして獣人にはそんな甘いのダ!」
そんなのは、ルーが愛嬌の塊だからに他ならない。俺とトファリの意見はそこだけ寸分のズレも無く合致している。
でも流石に、それだけじゃ情報が少ない。というが実質新しいのがゼロだ。
「ルーは、獣人さんだから何か特技みたいなのあるよね?」
「ルーは沢山食べれるの! 毒だってなんだって、食べても平気!」
「……マジか。まさかの上を行く凄さだった……」
「あとね、あとね! 沢山食べると速く動けて、お腹が減ると悲しいけど凄い力が出る!」
「まかさの上を行く凄さだった!」
沢山食べると凄い力が出るのかと思えばその逆。ルーはお腹が空くとその空腹が悲しくて力が出るらしい。食堂で見せたとんでも無い速さの謎が解けたな。
何にしても冒険科に在籍していて、毒をも分解できて、速さと力を状況によって繰り出せるルーは、とても可愛い……じゃなくてとても強いと言えるだろう。
「順番的に次は私ね。うーん……魔法もある程度出来るし、素手でも武器を使っても戦えるし……回復魔法も使えるし……ねぇシューゴ、私って何が出来ないっけ?」
「我慢じゃない?」
「ぶつわよッ!」
「ほらぁ……まぁ、お前は基本的に何でも出来るけど淑女の嗜み系とか料理とか生活能力は無いだろ?」
「……くっ、事実だから言い返せないッ」
トファリは問題ない。体力もあるし、一人で魔物を倒した経験だってある。
この中で唯一問題があるとするなら――それは、おそらく俺だけだろう。
能力は隠してナンボだけど、チームを組む相手には最低限の情報を提供しなければ連携とかの前に不信感から成り立たなくなってしまう。隠しておきたい能力のバリアについて、話さなければならないだろう。
「みんなには悪いけど、俺は守れるけど戦いでは足を引っ張ると思う。魔法は食魔法だけだし、あとはバリアとか生き物と話せるだけだし」
「シューゴ食べ物沢山出せる! すごーいよ?」
「子分……ばりあ? とはなんじゃ?」
「……生き物と話せる?」
トファリ以外の三人がそれぞれ違う反応を示した。全てを知ってるトファリだけがなんか得意気な顔をしている。
「バリアっていうのは魔力感知能力がそうとう高い人じゃないと見えない盾みたいなものだ……えっと、こんな感じ」
指をパチンと鳴らす。トファリは置いておくとして、リベとルーが困惑した表情を浮かべる中で、唯一反応を見せたのは妖精族のミーニョさんだった。
「な、なななんという高密度で綺麗で純度の高い魔力でしょうか~……ほわぁ~ほわぁ~~」
うっとりと恍惚とした表情で空間を見ているミーニョさん。何も見えない人からするとミーニョさんがおかしくなってしまった様に見えるだろうが、確かに俺がバリアを出した場所に視線を向けて手を伸ばしている。
……リベを取り囲む様に四方に出したバリアに向けて。
「な、なんじゃちっこ……妖精の! 妾を見て頬を染めよって! 怖いゾ! 子分助け……ン? なんじゃコレは!?」
ミーニョさんはバリアに頬を擦り付けてうっとりして、リベはパントマイム師も驚愕するパントマイムを披露している。これは妖精族やエルフ族以外でなら稼げるかもしれないな。
「シューゴの壁はまだ私の全力でも壊せて無いわ。だから、守りに関しては安心して良いわ」
「シューゴさぁん……このバリアください~」
「ご、ごめんよ? ミーニョさん、それは消えちゃうやつなんだ」
再び指をパチンと鳴らして、バリアを消す。わざわざ鳴らす必要の無い指を鳴らすのは、やはり格好良いからだ。
「あぁ……ハッ! あたちとしたことがお恥ずかしい姿を……」
「いや、それは良いんだけど……それよりも俺のバリアが高密度の魔力という新情報が気になるな」
「あれは間違いなく魔力かと~。魔力の結晶である魔石とは違って純度が高過ぎて魔力感知に長けた種族じゃないと見えませんが~」
俺のバリアにそんな秘密があったとは。となると、実際は想像する様なバリアじゃなくて、ただの魔力出現男だったのか俺は。
自分の魔力を放出している感覚はないから、どこにでも存在している魔力を高密度に集めている操作系の技術に近いのだろう。その魔力を別の何か……食べ物以外に変換する能力が皆無だから、強力な魔法をバリアを通じて発動させるコトは出来ない。
ちょっとだけ宝の持ち腐れだな……。
「まぁ、後はミーニョさん以外は知っての通りの食魔法で、食べ物を産み出せる」
俺は指パッチンをして、見えないバリアを空中にお皿の様に出現させて、その上に一口サイズのフルーツゼリーを幾つかプルンと作り出した。
「ミーニョさん、良かったらどうぞ『新鮮フルーツのゼリー』です。毒なんかはありませんので」
「うわぁ~! 見た目も可愛くて美味しそうです~」
「ズルい! 妾も! 妾にもよこすのだ子分!」
「ルーにも! シューゴ、それルー食べたこと無い!」
一口サイズにしたのは、スプーンが手元に無いから手に乗せて食べ易い様にする為と体の小さなミーニョさんがどれくらいで満腹になるか分からなかった為である。
そして、食べ物を出すとリベとルーが騒ぐのは想定済みである。だから、指パッチンだ。
「ふおッ!?」
「いたーいっ!」
「これはミーニョさんの為のスイーツですから二人はダメです!」
「こんな壁、妾の拳でぇーー……っいたーーーいっ!」
ガンッと音がして、リベが拳の形を保ったまま痛みでしゃがみこんだ。
「だから、私でも壊せて無いんだってば……」
呆れた様にトファリがリベに言いつつ、裏でソッとゼリーに手を伸ばしていた。それを見逃す俺じゃない。
「くっ……い、一個くらい良いじゃない」
「いや、だからミーニョさんの為って言ってんだろ……トファリ、お前にはお前の為だけの料理を作ってやるからさ、今は我慢してくれ」
「そ、そぅ……ふーん。なら、良いわ……んふふっ」
「何ニヤケてんだよ……」
ちゃんと不気味だが、トファリも大人しくなったコトでミーニョさんの為のゼリーが脅かされる心配は無くなった。
ミカン、ブドウ、キウイ、モモにパイナップル。見た目は綺麗なフルーツゼリーである。妖精族は花の蜜かフルーツが主食だろうという偏った見解だが、嫌いじゃない筈だ。
モモのゼリーを小さな手に乗せたミーニョさんは、そのまま口元へと運んでパクっと食べた。
「んん~っ! 新鮮なフルーツとプルプルがとっても美味しいです~っ」
「ま、俺が出来るのってこれくらいかな。後は武器の扱いが少しと近接格闘も少し」
ミーニョさんがゼリーを食べきった瞬間を見届けてから、バリアを解除した。当然、ルーが飛び掛かって来て腕をガシガシと甘噛みしてくるが俺はトファリとは違って何でも許したりする訳じゃない。
ミーニョさんの分はミーニョさんの分だし、ルーには前からいろいろと食べさせているから今日は我慢を覚えて貰わないと。
「シューゴ、なんでイジワルするの!」
「ルー、ミーニョさんはまだ一度も俺が作った食べ物を食べたコトが無かったんだよ? ルーに意地悪してるんじゃなくて、ミーニョさんにも美味しい食べ物があるよって事を知って欲しかったんだゴメンね?」
「……うー、そうだったんだぁ。ルー勘違いしてた、ゴメンねシューゴ」
「勘違いは誰にでもあるさ。ほら、仲直りのヨシヨシしてあげようね」
「やったー! シューゴ撫でるの上手だから好きー」
「ル、ルー? 撫で撫でなら私が……」
「むー……トファリは痛いからヤっ!」
プイッとそっぽを向いて俺に撫でられるルー。俺はトファリに向けて勝ち誇った顔を向けた。
「フンッ!」
「ぐえっ!?」
頬に伝う痛み。だが、俺はルーを撫でるコトは止めなかった。
それから、リベが大剣を振るったり妖術を扱ったりするコトやミーニョさんの森で気を付ける植物系モンスターの話を聞きながら夕食までの時間を過ごした。
それぞれが遠征までにやる事も決めて、さっそく明日から行動開始だ。
◇◇