野宿
平原の街道を進んでいく。
出発したのが陽が登りきってしばらくしてからということもあり、リバレスが見えなくなるほど離れたときには夕方になっていた。
「そろそろ日が暮れますね。今日はこれ以上進むのはやめておいた方がいいかと」
「そうだね、私もそうしたほうがいいと思うよっと」
御者席に座るシカナが馬を進ませながら、バリの発言に同意した。
客室は吹き抜けの窓があり、それ越しに御者と客は会話が十分にできる仕組みだ。
「そんなもんなのか?」
ジーンの問いにシカナが答える。
「ここからもうちょっと先に森があるのが見える?」
「ああ、見えるよ」
「あそこが、賊が出るって噂の森なんだ。森の中に道はいくつかあるけど、どのみち森を回避していく陸路はないからさー」
「夜になるとそれだけ危険ですからね。森を進むのは明日明るくなってからがよいかと」
シカナとバリの言葉に、ジーンは頷く。
「了解。そういうことなら、ここまでにしようぜ」
「はーい」
シカナは馬車を誘導し、すぐ近くの小川の方に向かう。客室は荷物を入れて二人座ると余裕がほとんどないため、野宿する必要がある。
そういうわけで、小川のそばはぴったりな場所といえた。
馬を近くの木に繋ぎ、各々準備をしていく。バリは食料を馬車からおろし、木の器に並べていく。ジーンは小川から石を拾い、丸く並べる。シカナが集めてきた枯れ枝をその上に並べる。さらに枯れ葉で蓋をした。
「ジーンかシカナさんは火を点けれますか? ぼくは火の魔法はからきしなんです」
「火なら私が点けれるよ!」
「シカナ、できるのか。俺は火はダメだ。バリと同じ」
「ふっふっふ……」
不敵に笑うシカナが取り出したのは手のひらにおさまるような小さな箱。
「わたしね、ほとんど素質がないから魔法使えないんだ」
「それじゃあどうやって火をつけるんだ?」
「それを今からやってみせるのよ!」
ふふん、と大きくはない胸をはると、シカナは小さな箱の中に入った枝のように細い木の棒を取り出した。
その木の棒の先端を箱の側面ーー色が変わっているところーーに何度か擦りつけると、ジュッと音がして木の棒の先端に火がついた。その際、奇妙な紋章が火に浮かび上がった。
「マッチっていうんだって!」
「すげえ、魔法使わなくても火がつけられるなんて!」
「でしょでしょ!? 火の管理もいらないから、使うときにジュッとやればいいだけなの!」
「……これは、魔法科学ですか」
バリが驚いたように声を上げる。
「魔法科学?」
ジーンが訊ねる。シカナもきょとんとしている。
「ここ数年で広まってきたようでして、新しい魔法の体系とでもいうべきでしょうか。……シカナさん、火を枝に移してください」
「あ、うん」
枯れ葉にマッチの火をうつすとメラメラと燃え広がっていく。さらに枯れ葉から枝にまで火が移りパチパチと炎が爆ぜていく。
「で、魔法科学ってやつの続きを頼む。腹減ったし、食べながらな」
「ぼくも詳しくは知りません。ただ、魔法が使えないひとに魔法を使えるようにするモノ、らしいです」
「使えない人が使えるようになる……」
昼間に市場で買った、すこしかためのパンを咀嚼、果実水で飲み込む。
「そうです。さきほどの……マッチでしたか、それがいい例です。火の魔法の素質がなくても、火を点けれる。おまけに本人の魔力を使わないで道具が魔法を発動させますから、疲れないらしいです」
「あ、確かに疲れないよ? 魔法使えないからどんな疲れ方するかわからないけど!」
シカナは確かに大丈夫そうだ。
「……すげえな」
ジーンは素直に驚き、声を漏らした。
通常、魔法は自らの魔力を使う。種類にもよるが、気だるさを感じたり、しばらく動けなくなったりすることもある。
それがないのは戦闘だけでなく生活においても大きなメリットだ。
「……あと、一瞬、独自の紋章が浮かび上がりましたよね?」
「火の魔法はいくつかみたことあるけど、あんな模様の紋章は知らないな」
「ぼくもです。……魔法の使用時に紋章が何かしらの形で顕れたりすることは普通ですが、あんなのは知らないです。それが、特徴らしいです」
「なるほどな、ほかには?」
「うーん。魔法学園にも、魔法科学を使ってるひとが多少はいるらしいですよ」
「へえ。面白そうだな。はやく自分の実力を試してみたいぜ」
ジーンは不敵な笑みを浮かべた。バリにもまだ話していないが、ジーンは勇者の孫である。実力にはかなりの自信があった。
(ちなみにネタバレだが彼の実力はタイトルの通りである)
「まあ、楽しみはとっておいてください。今日はゆっくり休みましょう。……ぼくがひとまず火の番をしておきますから、二人は食べ終わったら寝てください」
「わかった。しばらくしたら起こしてくれ。……あと、シカナは客室の中ででも寝ておいてくれ。ひとりならなんとか寝れるだろ」
「え、なんで?」
「その、なんだ。御者は昼休めないし……あと、女なんだからほら、外で寝るのはな?」
「あ、そ、そっか……あはは」
シカナは今になって男女を意識したのか、恥ずかしそうに俯く。
「ぼくもジーンに同意見です」
「えっと、二人ともありがとうね。お言葉に甘えるね」
そういうと、シカナは馬車の質素な客室に入っていった。




