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No More Goodbyes  作者: ちくわ犬
***番外編***
34/34

ライバルはパパ

アリスとエルラードのその後です。

寄宿学校に通う様になってから分かり始めたんだ。俺たち兄弟は父様に愛されてないって。


俺、アドニス。13歳。

妹はセレン。7歳で妖精ちゃんって呼ばれるのが全く違和感のない父親似の美少女。

その下の弟2歳で双子のラニーとトニー。

父様は外では美形で天才魔道士。家柄だって羨望の的だから昔から皆に羨ましがられる存在の俺。

小さいころはそれでも父様を尊敬していたけど遊びに連れて行ってもらった記憶なんかない。テーマパークも式典のパレードも一緒に行ったのは母様とシンシア大叔母様とだ。


ああ。愚痴になった。


なんせ、俺の参観日やら、音楽会やらに父様が来た試はない。いつも母様にべったりで母様の事だけは優先するけど。


父様は母様依存症なんだ。

母様が居なかったら完全に「引きこもり」だ。俺が早くから寄宿学校に通わされたのも母様の愛情を少しでも自分に向けたいが為にやったとしか考えられない。

俺だって母様みたいなひとと結婚したいって思うけど、あんな重い愛し方は絶対にしない。


そんな父様と戦う日がやってきた。



*****



春休みに家に戻ってくると妹のセレンが涙目で俺に訴えてきた。セレンの参観日と父様の会社の設立記念パーティの日が重なったのだ。父様が母様を連れて行くと言い、訴えようにも母様は双子が続けてインフルエンザにかかったためにそちらにつきっきりだった。


「こういう時の兄様の参観日って誰が来てたの?」


「メリー。しかもシオンの参観日と重なっていたのに。それが分かってからはさすがに母様が怒って一度だけ父様付きで来た。」


「……父様が来るの?」


「うん。父様は有名人だろ?真っ黒いフード被って廊下でコソコソ隠れてるんだ。で、結局母様は心配になって父様のお守に行ってしまって授業なんて参観できない。」


「うげ。……なんとか母様だけ参観に来てもらえないかな。」


俺を見上げるセレンは可愛い。まさに妖精だ。でもこんな可愛いセレンも父様にとっては所詮母様の次でしかない。


「作戦を練るぞ、セレン。設立記念パーティに父様が出ないとなるとそれも問題だろうから母様をそちらに取られる可能性が大きい。しかも、母様が参観に来れたって父様付きでは意味がない!状況はこちらが不利だ。」


「うん。」


「紳士だとか言われてるけど父様は母様を獲得するためなら何でもする。絶対気を許しちゃいけない!」


「うん!」


こうして俺たちは二人で「母様獲得作戦」を練ることになった。



******



ホントは母様に直接言ったらすぐすむ話だというのに敵も然るもの。俺たちを母様に近づけないように何かと用事が次から次と出てきた。一方、軽く咳をしていた母様の方も双子の病気をうつさない様俺たちを避けていた。


「隣んちのサルマンなんてここ5年ほど会ってないのになんでヨットで遊ぼうなんて言ってくるんだよ。どう考えてもおかしいだろ。寒いし。シオン、お前は俺の味方だよな」


シオンはメリーの息子で生まれてこの方ずっと親友で俺の半身のような存在だ。ちょっと不思議な雰囲気をもっている落ち着いた奴。


「僕は君の味方だよ。お父様を敵にしてもね。」


即答するシオンと拳を合わせる。俺たちの友情の証だ。シオンの父親は父様の執事だから父様の情報を得易い。


「どうにか母様だけ参観に行かせれないかな。」


「アリス様に話さないといけないと思うよ?君を妨害してるのはきっとうちのお父様だもの。」


「えっ!ミノスさんがどうして?」


「ミノスは父様の言うことなら何でも聞くんだよ。」


驚くセレンに教えてやる。いつだってやりすぎるくらい父様に尽くすんだミノスは。


「でも、お母様はアリス様に甘いんだ。」


ニヤリと笑ったシオンがそう言った。……普段は中性的でナヨナヨして見えるのに結構策士なのだ。敵には回したくないな。ブルッ。


そうして俺たちは母様に直談判するために城の地図を作って母様確保へと乗り出した。



*****



「よし、父様は書斎でお客様だ。行動を開始するぞ!」


「お~っ!」


「では僕はここで見張っています。」


シオンを見張りに残して俺とセレンは母様の部屋に突入するためにドアノブに手をかけた。


「ちょっと、まって。兄様。なんか、中から男の人の声が聞こえる……。」


「母様にもお客様?」


「待って……なんか、鳴き声も聞こえる……。」


セレンのその言葉で俺たち3人はドアに耳をつけた。


……だから、すぐ帰りますから………


……泣かないで……


……困ったなぁ………くん……


「ちょっと、母様が何とかくんって言ったよ!?」


「……。」


母様の部屋で誰かが?


「ちょっと、開けない方が!!」


シオンの制止も聞かずに俺は反射的にドアを開けてしまった。



バン!



「……あ……。」


そこに居たのは書斎に居るはずの父様だった。



*****




「みんな、そこで何してるの?」


母様がキョロキョロと俺たちを見渡した。

俺は母様の腰にくっついてしくしくやってる人物から目が離せない。


「アリス……僕を置いて行くなんて……ヒドイです……。」


「ちょ、エルラードくん、こ、子供が見てるから!」


「アリス……。」


「だから、みんな見てる!ほら、父としての威厳が!」


「そんなもの、僕はいりません!アリスと一緒に居たいんです!」


「……。」


まるでラニーとトニーの様に母様の腰に巻きついてしくしくと縋っている父様を見て声も出ない。


あ、


あ、


アレが父様?


偉大なるこの国の最高位魔道士?


ストイックで王子様だと騒がれてる?


きっと俺の隣の二人もそう思ったに違いなく、口を開けて父様を見ていた。



コホン。


母様の咳払いでその場の皆が我に返った。



「とにかく、善処します……だから、離れて。」


「行かないって言うまで駄目です。」


「あ、あのね……


(コソコソ:子供が見てるでしょうが!ガンミで!!今までの努力は!?)」


「今、アリスと一緒に居る方が僕には大事なんです。それでなくとも最近、風邪がうつるって一緒に寝てくれないじゃないですか!アリスが欠乏です。もう我慢の限界です!」


「も、もう!だから!!はあああ……。」


脱力した母様はもう諦めたのか俺をまっすぐ見た。腰に抱きついた父様をそのままに。どうやら父様も母様が部屋に戻ってくるのを狙っていたようだ。


「アドニス、セレン。どうしたの?……シオンもいるようだけど。」


「それより、母様、その……良いんですか?」


「……。その……ちょっと今日の父様は変ねぇ……アハハハハ………。(コソコソ:だから、離れてって……!)」


さりげない風に母様にグリグリと肘で突かれても尚金髪の男は腰から離れる気は無いようだった。……いや、父様なんだけども。


「用事があるなら聞くわ。ちょっと動きずらいけど……。」


「は、はあ。新学期のセレンの参観日が創立記念パーティと重なってる日だったから母様が参観に来てくれないんじゃないかってセレンが悩んでたんだ。」


その言葉に母様がキョトンとした。そうしてちょっと考えてから眉にしわが寄った。


「なるほど。」


ギョッとするような母様の低い声に腰についている生き物が分かりやすくビクリとした。……だから、父様なんだけども。


「アドニス。もしかして貴方たちの学校は新学期ごとに参観日が有ったのね。」


「そうだけど。」


「ふうん。」


増々低くなる母様の声……女神と言われた女の人とは思えないほどの怒気を放っていた。


「わかりました。大丈夫よ。セレン。参観日には母様がちゃ~んと行きますから。も、ち、ろ、ん薄情な父様は置いてね。心配しないでいいわ。じゃ、一旦皆部屋から出て父様と二人きりにしてくれるかな?」


そう言うと母様が微笑んだ。


「ア……アリス?」


その時怯えた紅い瞳が一瞬、縋るようにセレンと俺を見た。


バタン……。


その後、夜までその扉は開かず、延々と母様に説教される男の唸り声が聞こえた……いやいや、もちろん父様なんだけども。



*****


あの事件が起きてから参観日は母様がきっちりと見に来てくれるようになった。他の行事も然りだ。

あの時俺とセレンは幼かったのでよくわからないまま物事が改善したことだけ喜んでいた。


18歳になった時、父様の両親の話を母様に聞かされた。


確かに父様は対人恐怖症だったけどそれには恐ろしい過去が父様を蝕んでいたんだ。


母様のそばに居ることと昼寝することにしか力量を発揮しない父様をなんとか立派に見せようと、俺が生まれてから周りも父様も頑張っていたらしい。それが、俺たちにはちょっとそっけなく感じていたんだけど。人がたくさんいる場所では父様は母様が傍に居ないといけないんだ。もちろん……といってもいつもなんだけど。


「ちょっとは繕ってみたらどうなのかなぁ?」


「自然体が一番だって悟ったんです。」


「アドニス、いざって時は父様は凄いんだからね!?」


「……母様、もう、良いです。父様の昼寝好き、怠け好きはもうバレてるんだから。」


「はあ。……貴方たちはマネしちゃダメ。」


「俺も池で釣りしてくるよ。」


「ついでにラニーとトニーがセレンに悪戯してたら止めて来て。」


「わかった。」


ピクニックシートから腰を上げて池の方に居る妹たちのところへ向かう。あれから城の庭で時間が有るときは家族でピクニックをするようになった。


母様の手作りのサンドイッチを頬張って、いつも父様は母様の膝枕で昼寝する。

妹たちが小さいころはそれでも母様の膝は取り合いで……。

でも、その分、父様も膝を空けてくれた。……13の春一度だけ俺も父様に膝枕してもらった。



「どうしたんだよ?そんなとこで皆固まって。」


「トニーの糸が私の糸に絡まっちゃったのよ。」


横目でトニーを見ると首をひっこめた。


「大方、セレンの髪に引っ掻けようとしたんだろ?トニーお前の糸の方を切るぞ。」


「ちぇ。アドニス兄ちゃん、ごめんなさい。」


「だから、止めとけって言ったんだ。」


ラニーは知らん顔で自分の竿を池に垂れている。


「兄様、お見合いの相手誰にしたの?」


糸を切りにかかるとセレンが俺にそう言う。他の二人もキラキラした目で興味深そうだ。


「20歳になるのは1年先だし、父様も元気なのにまだ結婚しなくたっていいんだよ。」


「あら、父様が母様に出会ったのは19の時だそうよ?」


「ふん、そんな人がいたらな。」


「まあ、兄様の理想は母様みたいな女の人だろうしね。……私は父様みたいな旦那様は重いからイヤ。」


相変わらず妖精のような風貌のセレンも父様の情けないまでの母様デレデレには我慢できないらしい。


「あんなに誰かに想ってもらえたらって思う時はあるけどね。」


セレンの視線がピクニックシートの方に移動した。そこには幸せそうな夫婦が座っていた。


もう父様に以前のような威厳は感じなかった。

子供じみた独占欲の塊の父様。

まあ、俺たちにバレてからは父様は俺たちにも身近になった。

呆れるけど、いつになっても子供だけど、父様がなんだか羨ましい気もした。


昨年、父様たちが念願にしていたボノアールの土地を買い戻した。お祖父じい様とお祖母ばあ様が眠る土地……。

昔、城が有ったというその野原に父様は石碑を立てた。……お墓にしなかったのは一緒にしたくない人もそこで亡くなったからだと父様は言った。その地に立った父様は震えていた。母様が優しく父様を抱きしめていた。


「わ、かかった!」


その声で俺はラニーの方を見た。どうやら大物らしい。


「待ってろ!網ですくってやるから!」


絡まる糸の行方を追っていたトニーも興奮して網を掴んでラニーに駆け寄った。


「やった!やった!!」


大きな獲物を手にした双子は網を抱えて大喜びだ。


「「母様に見てもらおっと!!」」


走り出す双子の背中を見ながらセレンと顔を見合わせて、笑った。


もう数年は父様も母様の取り合いを頑張らなくてはならないだろうと。



ホントはもっと早く番外をアップしてから完結にしようと思っていたのですがダラダラと引き伸ばす形になってしまいました。他に書きかけの物も有ったのですがしっくりしなくて止めました。この話でいったん完結とするつもりです。長々と失礼いたしました。読んで頂いた気さくな方、どうもありがとうございます。

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