86日目 難民との合流
●86日目(グリウス歴863年7月28日)
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
朝になり、2人が起きてきた最初の言葉だった。
「別にいいよ。その代わり、道中馬車で寝かせてもらうから。護衛は2人に任せたよ。」
「任せて。」
マリアは軽く請け負った。
「ちゃんと護衛してアーくんの役に立つから。」
アンジェもそう答えたが、
今度、マリアにアンジェの事を詳しく聞いてみようと思った。
バサッとテントからケイトとロルトが出てきた。
「おはよう・・・ございます。」
姉のケイトが挨拶をしてきた。
弟のロルトは姉の後ろに隠れるようにくっ付いている。
「2人ともおはよう。これから、このお姉さん達が朝ご飯を作ってくれるから、その辺で座って待ってな。」
そういうと、アンジェとマリアは慌てた様に朝食の準備に取り掛かった。
ケイトとロルト含め全員で朝食を済ませる。
2人は昨日に比べてだいぶ表情が柔らかくなった気がした。
食事の後、出発の準備を進める。
ケイトとロルトケイトとロルトも手伝ってくれている。
「アンジェ、マリア。午前中は護衛を二人に任せるよ。俺は後ろで仮眠を取らせてもらうから、頼んだよ。」
「ええ。大丈夫。任せて。」
「危険な時は遠慮なく起こしてくれ。」
「わかった。」
出発の準備が整った所で馬車につなぐ馬を召喚する。
「6時間経つと召喚した馬は消えるから時間にも気をつけて欲しい。」
「うん。大丈夫よ。それよりみんな、乗って乗って。」
ケイトとロルトそして俺は馬車に乗り込む。
アンジェとマリアは御者席に座った。
ゴトゴトゴト・・・。
ウトウトウト・・・。
舗装されていない道の馬車は揺れが激しい。
それでも結局、徹夜状態なので、
熟睡できるような状態ではないがある程度眠ることができた。
「アーくん。お昼出来てるよ。」
「ふぁあああ。」
大きな欠伸と共に目を覚ます。
外を見ると日が中天に差し掛かっていたので昼前だとわかる。
「あまりよく眠れなかったみたいだけど、お昼食べるよね。」
アンジェが起こしに来てくれた。
どのみち、この時間だとそろそろ召喚した馬も
消えてしまう時間になるだろう。
「うん。食べる。」
そう言って馬車から這い出た。
他のみんなはすでに食事をしている。
俺も食事に加わり、食べながら様子を確認する。
「時に問題なかったみたいだね。」
「ええ、途中、森を出た直後に狼を数匹見たけど、無事やり過ごせたわ。それ以外は問題なしよ。」
マリアがお茶を飲みながら答える。
後ろを見ると森から結構離れた場所に出ていた。
「この調子で行けば、明日の朝には橋の砦に到着できると思うわ。」
食事を済ませた後、再び馬を召喚しなおして再度出発する。
今日は、日差しも強く、非常に暑い。
木陰らしい場所もなく、馬もきついだろう。
時々止まっては、水分補給をさせながら移動する。
水はマリアの魔法で出せるので、交代で水を出す。
「アーくん。あれ。」
アンジェが遠くを指さす。
2回目の水分補給をさせている時に、
左手、南の方角に移動する集団が見えた。
距離はかなり離れている。
遠目で見ると馬車が数台移動しているようにも見える。
「何だと思う?」
アンジェに問いかける。
「・・・馬車かな?馬車の数からしてどこかのキャラバン、商隊かも。」
「アンジェは目がいいんだな。向かってるのはこっちの方?」
「そうみたい。どうする?」
まだ索敵範囲には入っていないので、詳細はつかめない。
「マリア来てくれ。」
マリアは後方の警戒をしていたので、こちらに呼んだ。
「どうしたの?」
「向こうに馬車の一団が向かってきている。普通の商隊なら問題ないけど、こんな所でしかもこんなご時世にただの商隊とは考えられない。盗賊の集団という線もある。とりあえず、俺が偵察に向かうから、2人はそのまま馬車を進めておいて欲しい。」
「わかったわ。」
アンジェとマリアは頷いた。
「リリー。また、アンジェ達と一緒にいてくれ。何かあったら念話で伝えるから。」
「りょーかーい。」
馬車の荷台でケイトとロルトと遊んでいたリリーが飛んで来て
マリアの肩に座る。
「じゃあ、行ってくる。」
「気をつけて。」
アンジェが手を振って答える。
「テレポート!」
馬車の集団の索敵範囲ギリギリにテレポートしようとしたが、
目測を誤ったせいか、全然距離が足りなかった。
「あれっ。失敗失敗。」
しかし、ここからは馬車の集団をある程度見渡せるようになった。
馬車の集団は6台の馬車からなっていて、ゆっくりと進んでいる。
馬もかなりへばっていて、進みは遅い。
索敵では周囲に生物は見当たらない。
「ウイザードアイ!」
魔法を発動させると視覚が飛んで行く。
感覚的には自分が宙に浮いて進んでいるように感じられるが
実際には視覚だけが飛んでいる状況だ。
馬車の集団に視覚を近づける。
馬車を確認すると、馬車の中には女子供を含め、
50人くらいが乗っているようだ。
1つの馬車には箱や樽がたくさん積まれている。
食料や水などの物資のようだ。
すると、この集団はどこからか集団で移動してきた難民なのかもしれない。
武器を持った人間はほんの数人で武器といっても弓矢と粗末な槍だけで
鎧などは一切着けていなかった。
そして進んでいる方角からすると橋の砦のある方角に向かっているようだ。
いきなり近づくと混乱してしまう恐れがあるので、
離れた位置から姿を見せて接触しようと決めた。
しかし、万が一もあるので防御魔法は忘れずにかけておく。
「ミサイルプロテクション!」
「プロテクションシールド!」
「テレポート!」
馬車の進行方向100m前に跳んだ。
普通警戒していれば、いきなり現れた人間を見てビックリすると思うが、
御者をしていたものは疲れているのか、目を擦りながら、
俺の姿をようやく認識したようだ。
そして後ろに向かって何かを伝えているようだ。
まあ、現れたのが子供が一人だからか、
止まりもせずにそのまま近づいてくる。
そして数メートル手前で馬車の集団は止まった。
「おい、君。こんな所でどうした?一人なのか?」
御者の男は訊ねてきた。
後ろの馬車や荷台にいた一応武装している者が
いつでも矢を射かけられるようにしているのもみえた。
「私は、ジュノー王国の冒険者アルスと申します。皆さんは?」
一応、礼儀正しく答える。
一瞬、馬車の中がざわついた感じを受ける。
「君みたいな子供が冒険者なのか?一人なのか?」
「仲間は向こうの馬車で待機してますよ。」
そう言って自分達の馬車の方を指さす。
御者は目を細め、遠くを見るような仕草をした。
「いや、見えないが。」
「ええ、皆さんの馬車が見えたので、安全確保の為、私が偵察に来ただけですから。馬車は離れていますよ。ところで皆さんは?」
「我々は、これから法国を抜けてジュノー王国へ向かっている所だ。」
すると奥の馬車から年齢にして50~60才くらいの痩せた男が出てきた。
「アルス殿と申されたか。私はフーガと申します。私共はタイス市より東にある村から逃げてきた者達です。一度南に避難しておりましたが、南の村々では、あちこちから逃げ出した人が多く集まり、食料不足になっておりました。そんな中、私達が来ても快く思われず、居場所がありませんでした。それで、仕方なく村の者達を引き連れてまずは法国へ向かって、その後可能ならばジュノー王国までいければと考えてる次第なのです。アルス殿はジュノー王国からいらしたとおっしゃいましたが、法国とジュノー王国は安全なのでしょうか。」
「そうですね。法国は一度、帝国に侵略されましたが、今は帝国の兵をジュノー王国と一緒に追い出して、国境を封鎖していますよ。良ければ、我々が同行しますが、いかがでしょう。」
「本当ですか。それは非常に助かります。是非にもお願いしたい。」
「見た所、馬もかなり疲弊しているようですが、水を与えて少し休まれてはいかがですか。」
「そうしたいのは山々なのですが、水も残り少なくなっていて、自分達の分もまともに飲めない状況でして。早めに水のある場所まで移動せねばならないのです。たとえ馬を失ったとしても。」
「水なら大丈夫ですよ。私が魔法で出しますので。」
「おおー。誠にかたじけなく思います。」
それらの会話を聞いていた馬車の中の男たちが出てきて、
桶や樽を出してきた。
「クリエイトウォーター!」
桶に張った水を馬がガブガブと飲み始める。
樽に入れた水も少しずつ全員に配っていった。
「リリー。聞こえる?」
「あるすー。きこえるよー。」
「後でこっちの馬車と合流するから一旦止まっていてくれるかい。」
「うん。つたえるー。まりあー・・・。」
念話をつなげたまま、大声を出すものだから思わず、念話を切ってしまった。
一通り馬にも水分補給を済ませたので、
合流すべくアンジェ達の馬車の方へ向かった。
馬もしっかりと水分補給ができたおかげか、
先程よりも格段にスピードが上がった。
俺は馬車の一つに同乗させてもらっている。
この馬車には、3家族が乗っていた。
先程の顔役なのか村長なのかフーガと名乗った男の家族、妻と子供2人、
それと御者をしている男とその家族。
弓を携えている男とその家族、あわせて11人が乗っていた。
「他の馬車もこんな感じです。」
フーガは同行者をかいつまんで説明してくれた。
フーガ達はタイス市の東方にある農村で暮らしていたが、
隣村が魔物に襲われて壊滅したと聞いて村を捨てて
一時的に南方へ避難する事にしたそうだ。
しかし、途中で魔物に襲われたりするうちに
南方から西方に逃げるようになり、とある漁村に至ったそうだ。
そしてその漁村でタイス領が帝国に占領されて
あちこちの村が壊滅したと聞かさせた。
漁村の人間達は船で海上へ逃げるといって村を捨てたらしい。
フーガ達もそこから更に西方へ向かったが、
最南端の村周辺には難民がかなりの数押し寄せていて、
そこでは揉め事や犯罪、殺人まで起こっており、
危険を感じたフーガ達はそこから北に向かって
法国に向かう事を決断したそうだ。
最南端の村に到着するまでに半数以上の家族が
犠牲となってしまったとの事だった。
「今、法国は新しい国として生まれ変わって、難民も受け入れていますからフーガさん達も移住できると思いますよ。」
そう伝えて、長旅で疲れている皆を励ました。
アンジェ達と合流後、夕方まで橋の砦を目指して進んだ。
人数も多いので早めに野営の準備をする事にした。
平原地帯を抜けて丘陵地帯に入り込んだので、
このペースで行けば半日程度で橋の砦までたどり着けると思われる。
野営の準備を問題もなく終えて水の補給も済ませた。
食事が終わる頃には疲れたのか、大半の難民の家族はそのまま眠りについた。
難民の中から武装していた人間とはいっても、元は猟師だったり、
過去兵役で数年間だけ兵隊をしていた者達だったが、
見張りに参加してくれるというので、
マリア、アンジェ、俺の順で見張りをするが、
それぞれに1人ずつ付くことになった。
「アーくん、起きて。」
体を揺すられて、目を覚ます。
「ごめんね。少し交代には早いけど、来てくれる?」
そう言ってテントから出た。敵襲かと思い、索敵をしたが反応はない。
不思議と思いながらアンジェの後に付いて行く。
アンジェは丘の上に上がっていった。
西の空が仄かに赤く染まっている。
あの明るさは火災にあって起きているもののようだった。
アンジェは黙って西の空を見ている。
「もしかして、タイス市で火災?もしくはその手前の森で?」
明るさから言ってかなりの大規模な火災と思われる。
タイス市も森もかなり離れているので火災に巻き込まれる心配は全くないが、
もし、タイス市が火災になっているとしたら、
かなりひどい状況だと想像できる。
「アンジェ、もう交代するから、寝てくれていいよ。」
アンジェは少し間をおいてから「お休み」と言ってテントに入っていった。
いつもと違うアンジェに何か過去を思い起こす事でもあったのかと思ったが、敢えて何も言わずにそっとしておいた。
いずれ、聞くこともあるだろう。
もう何時間かすれば、今度は東の空が明るくなるはずだ。
馬車の野営地に戻ることにした。
そういえば、アンジェとマリアについて
昔の話を聞いた事が無いなと思ったが、
詮索するのも気が引けるので
そのような事は頭の中から振り払った。
戻って偵察任務を報告すれば、とりあえず任務完了になる。
もっとお気楽な生活を目指していたのに、
周りに振り回されっぱなしのような気がする。
そう言えば、法国への物資輸送からここまでの報酬って貰ってないよな。
この任務が終わったら、取りに帰ろう。うん。それがいい。
それでその報酬で家具を買いそろえるんだ。
俺の秘密基地。どんな風にしよう。
そんな事を考えている内に空は明けていくのだった。




