69日目 ヒュリア提案
●69日目(グリウス歴863年7月11日)
久しぶりに寝坊した。
別に学校もなければ仕事もないのだから、
別に寝坊ではないのだが起きたら昼を過ぎていた。
よく考えたら、こっちに来てから色々な事があって
精神的に疲れていたのかもしれない。
自分では、それほど疲れた意識はなかったが、
ここまで爆睡するのは前世の記憶も定かではないが、
若かりし頃にしか記憶にない。
たぶん、起こされなければまだ眠っていた事だろう。
起こされたのは、リリーではなく宿屋の人だった。
下にお客が来ているという事で起こしに来たそうだ。
そう言えば、ヒュリアが来るようなことを言っていたっけ。
のそりとベッドから出て、着替えを済ませ、下に降りていく。
「アルス。随分とお寝坊さんなんだな。」
ヒュリアは苦笑いをしている。
「ごめん。自分でもこんなに眠り呆けていたのは久しぶりなんだ。起きてビックリしたよ。」
「もしかして、改めた方が良かった?」
「ううん。大丈夫だよ。それより、ご飯は食べた?」
「昼食?お昼ご飯はまだこれからよ。」
「じゃあ、外で一緒に食べようよ。お腹空いた。」
「なら、美味しいシチューの店があるから、そこにしない?」
「ヒュリアに任せるよ。」
そう言って、宿屋から歩いて5分くらい歩いた場所にある店に入った。
エルフは肉はあまり食べないが、乳製品や魚介類はよく食べるらしい。
ここで出されているシチューは野菜と魚介類の入ったシチューで
かなり美味しい。
パンとシチューを食べて人心地ついてから、ヒュリアは書類を渡してきた。
「その書類は塔の所有を国が認めたという書類で、あとは、納税証明書になってるわ。」
「ありがとう。これで落ち着ける場所ができて嬉しいよ。」
「アルスはその塔に住むの?」
「いや、住むのはまだ難しいだろうね。最低限の家具は買ったけど、生活必需品は全然足りないし、何といっても出入りの方法をちゃんと考えないといけないんだ。」
「ちゃんと?」
「だって、今のままだと服のまま入れないでしょ。ずぶ濡れになっちゃうもん。」
「なら、水着に着替えればいいんじゃないの?」
「家に入るのに外で着替えてから入るなんて変でしょ。面倒だし。」
「それもそうね。何かいい方法でもあるの?」
「今はテレポート系の上位魔法で出入りする事を考えてるけど、まだ試していない魔法なんだよね。」
「何故、試していないの?」
「だって。・・・怖いじゃん(小声)」
「えっ?ごめんなさい、良く聞こえなかったわ。」
「・・・怖いの!」
「はぁ?」
「だって失敗して出てきた場所が石の中だったらどうするの?死んじゃうじゃん。」
「・・・そんな失敗あるの?」
ヒュリアは訝しそうな顔をした。
「・・・ないの?」
俺も訊き返した。
「聞いた事ないわね。でも、テレポートできる魔法使いは多くないから分からないけど、そういった事もあるのかしら?」
「失敗したらどうなると思う?」
「発動しないんじゃないかしら?暴発だったらどこに飛ばされるか分からないけど、普通は失敗した段階で魔法が発動しないのが普通じゃないのかしら。どの魔法でも失敗したら発動しないのが普通よ。」
「あれ?じゃあ、大丈夫なのかな?」
「大丈夫よ。・・・たぶん。」
「今、たぶんって言ったよね。たぶんって。」
「そうだ、今度時間があったら塔に連れてってよ。どんなところか見たいわ。」
ヒュリアは手をパチンと鳴らして笑顔で話した。
話を逸らしたな。
「ああ、そうだった。伝言頼まれていたんだっけ。えーと、女性の冒険者2人組の、名前は何だったかしら?」
「アンジェとマリアかな。」
「そうそう、そんな名前だったわ。アルスの手紙を渡した後、アルスと会えなくて残念だったって言ってたよ。無事に帰ってくるのを楽しみにしているって。」
「そうか。補給の護衛はアンジェとマリアだったんだ。彼女たちは今はどうしてるの?」
「もう、帰ったわ。なんでも、状況が良くないから、とんぼ返りするように言われていたらしいわよ。」
「状況って?」
「さあ。そこまでは聞いてないわね。向こうも話すつもりも無さそうだったから特に聞かなかったわ。ただ、私のというか国としての情報では周辺国に関係があると睨んでいるの。あまり詳しい情報は入ってきてはいないけど、戦争になるかもしれないって思ってる。」
「戦争?人間同士で?こっちにもいるんだな、そういう事をしたがる連中って。それで、ヒュリア達は何か掴んでるの?」
「人間の宗教国家、えーと、バルシー神聖法国だったかしら。その向こうの国同士が戦争になったって話が来ているわ。まだ、未確認の情報だけど。」
「法国の向こうって、帝国?いや、違うかな、十三連合国かもしれないな。もっと詳しい情報が欲しいな。」
「こちらでも調べてはいるけど、法国より向こうの話は中々分からないのよ。」
「いや、それだけでも教えてくれて助かるよ。そうなると、こっちも急いで調べてかないといけないな。」
「巨人の襲撃の事?」
「そう、帝国が絡んでいるか、もし何か絡んでいるならその証拠が欲しいんだ。」
「証拠って言ってもね。難しいわよ。あれ以来、巨人族は襲ってきていないみたいだし。巨人族は文字の読書きなんて文化は無いもの。文書が残ってるとかあり得ないわ。可能性があるとしたら、当事者を捕まえる事ぐらいしかないと思うけど、それこそ、雲を掴む様な話ね。」
そうだよなぁ。わざわざ証拠を残す程、馬鹿じゃないだろうし、
いるかいないか分からない者を捕まえるなんて無理だろうな。
「お手上げかな。」
そう呟いた。
「そうだわ。駄目元でドワーフ王国へ行ってみたら。襲撃のあったメインの場所はドワーフ王国だし、ここよりは何か分かるかもしれないわ。何なら、私も同行しましょうか。許可が出ればですけど。」
ヒュリアは何故か嬉しそうに提案した。
「ヒュリアも忙しいんじゃないの?」
「忙しいわよ。でももし仮に本当にそういった事があるなら、ちゃんと調べないと今度こそ足元を掬われかねないわ。この後、戻ったら国王と協議してくるわ。今日の夜にでも遠話で結果を知らせるわ。宿は今日の所よね。」
「そうだね。」
「じゃあ、私、行ってくるわ。またね。アルス。」
そう言って、ヒュリアは飛び出していった。
お勘定を済ませる前に、美味しかったので、
鍋に持ち帰り用のシチューを2、3人前を入れてもらった。
宿へ戻る前にチーズやら蜂蜜等の食材や
木皿や木のフォークやスプーン、それから鍋も5個程買い足した。
食事と合わせて、買物で金貨8枚ほど使った。
結構使った感があるが、たまにはいいだろう。
宿に戻り、リリーとまったりしていると、ヒュリアの遠話が来た。
「アルス、聞こえるかしら。王の許可が出たわ。早速向かうわよね。明日、そちらに行くから、ちゃんと待ってるのよ。勝手に行かないでよ。それじゃあ、明日。」
一方的に話して途切れてしまった。
そういえば、この遠話っていつも一方的に向こうから聞こえるだけだけど、
もしかして会話不能なのかな?
俺の持ってる魔法には遠話なんてものはないけど、
似たようなものでテレパシーはあるけど、
これは10mまでしか届かないし、
何よりテレパシーは頭の中に直接言葉を送る魔法だから、
少し違う系統じゃないだろうか。
レベルが足りないって訳でもないと思う。
エルフや妖精族独特の魔法かもしれないな。
俺でも覚えられないだろうか。
明日、忘れてなければ訊いてみよう。




