68日目 契約成立
●68日目(グリウス歴863年7月10日)
いつもより早く起きて朝食を済ませる。
今日はテイマー協会が開いたらすぐに行かなければならない。
それというのも取引相手が王様だから、待たせるのは失礼にあたる事になる。
という事で、協会に向かう。
テイマー協会に着くと何やらバタバタとした雰囲気で
皆、忙しそうに動いている。
中に入ると、受付付近でアマンダがあれこれ指示を出している所だった。
「アルス君、もう来たのかい、早いね。」
「開所と同時に来いって言ってたじゃないか。」
「まあ、そうだけどね。アルス君は先に部屋で待っててちょうだい。部屋には案内させるから。」
そう言って、一人の受付にいたエルフに案内するように告げていた。
そのエルフに案内されて、奥にある少し広い部屋に案内されて
座って待つように言われた。
しばらく待っていると表の方から何やら騒がしくなったのが感じられた。
そして扉が開き、エルフの王様と護衛の騎士2人が入ってきた。
扉の前に、数人の護衛がいるようだ。
そして、その後ろからヒュリアとアマンダも入ってきた。
「久しいな、アルス殿。息災かね。」
エルフ王のエリアルド・カナンが話しかけてきた。
「お陰様で元気にやっております。まさか、王様自らいらっしゃるとは思いませんでしたよ。」
「なに、妖精族の友であるアルス殿と再会できる機会でもあるしな。」
「そのようにおっしゃっていただいて光栄でございます。」
「それでは、早速、お取引に移らせて頂きます。」
アマンダがそう宣言して、交渉に入る事になった。
「まず、アルス殿のご希望は先に提示してもらった金銭とシールン市の南にある今は誰も入れない塔の所有権を認めてもらう事でよろしいか。」
アマンダが確認に為、俺に訊いてきた。
「はい、その通りです。」
「いかがでしょう。王よ。」
アマンダは今度はエルフ王に訊いた。
「その前に確認したい事がある。構わんか?」
「どうですか?アルス殿。」
「ええ、構いませんよ。」
「あの塔は数百年前に打ち捨てられたと判断されるが、アルス殿はあの塔に入れたのか?」
「はい、入りました。外は、見た通りのままですが、中は色々と朽ち果てていて、家財などは、ほとんど使い物になりそうもありません。」
「なるほど、それだけの時間、誰の手もつかなければ確かに朽ちていても仕方がないな。それで、アルス殿はその塔を得て、どうするつもりかな?」
まさか、秘密基地にしたいなんて言えないし、なんて答えよう。
「いくつか理由はございますが、自分の安全な住処が欲しいと思っておりました。街の中に家を持つ事も考えましたが、いくつかの理由でやめました。」
「その理由とは?」
「そうですね、私は今冒険者をやっております。冒険者である以上、家を空ける事は頻繁に起きます。そして家を空ける機会が多ければ多いほど空き巣に狙われてしまう事が考えられます。それと、エルフの街ならともかく、人間の街ではこのリリーと一緒に暮らすのは難しいのです。また、エルフの街の場合、エルフの中には人間嫌いの方もいるでしょう。食生活の違いも大きいですから、私にとって少し窮屈な暮らしになるかもしれません。ドワーフの街でもたぶん同様でしょう。それなので、人里離れた場所ならば気兼ねなく生活が送れるというものです。また、海の中の塔ならば、盗賊に入られる事もないでしょう。そう言った意味では、今回のこの塔は私にとって良い物件という事になります。」
「ふむ。しかし、人里離れていると生活は逆に不便ではないのかな?」
「そのあたりは、魔法でどうにかなると考えてます。私は将来のんびりと暮らしたいと考えているのです。その為には誰にも邪魔されずに過ごせる場所があれば、将来の設計も作りやすいと思ってます。」
「そうか。人間はもっと欲深いものだと思っていたが、アルス殿はそうではないと?」
「私は物欲はそれほど無いですよ。今は、安心して暮らせる場所を得るためにお金は貯めていますけれど、それなりの生活が出来れば満足です。」
それを聞いたエリアルド王は、ヒュリアをチラッと見た。
ヒュリアは目を瞑ったままコクリと頷いたのが見えた。
「やはり、面白いな。アルス殿は。わかった、この条件を飲もう。ただし、国の定めた税金だけは払ってもらうぞ。」
と言って、ニヤリと笑った。
「では、今回の取引は成立という事で、この書面にお互いサインをして下さい。」
アマンダはあらかじめ用意していた書類の中から、
3枚の契約書を取り出し1枚ずつ配った。
そして、それを読み上げて内容を確認する。
それぞれが、手持ちの契約書にサインをし、
契約書を回してそれぞれがまたサインをしていく。
アルスとエリアルド王とアマンダのサインが揃った時点で
契約の成立となった。
「卵は今、渡しても問題ないですか?」
エリアルド王とアマンダに確認する。
王は少し待てと言って、外に向かって箱を持ってくるように指示を出した。
結構大きい2人がかりで運んできた箱は宝石などで装飾された箱で、
見るからにマジックアイテムのように見えた。
「この箱は?」
王に訊いてみる。
「これは、王家の宝の一つで、テイマー用の卵を保管できる箱だ。この箱の中に入れると時間が緩慢に進み、孵化の速度を遅らせることができる物だ。」
そう説明してくれた。箱を開けると中には卵を守る為か、
高級そうな綺麗な布が敷き詰められていた。
「この中に置けば良いですか。」
「ああ、頼む。」
異空間収納から卵を取り出し、箱の中に入れる。
箱はすぐに閉められ、鍵をかけられた。
「では、こちらも。」
そう言って、外にいた者が大きなバッグ、
これもマジックアイテムなのだろう、を持って入ってきた。
そして中から白金貨を200枚並べていく。
200枚出し切った後は、そのバッグを持っていた者は外に出ていった。
そして、アマンダに促されて受け取る様に言われた。
いちいちバッグに入れるふりをするのも面倒だし、
向こうもマジックアイテムを使ってきたので、
異空間収納で一気に仕舞ってしまう。
「ほう。」と周りから聞こえたが、気にしないようにした。
「あとは、権利書だな。これは正式な物を用意する時間が必要なので、明日にでもヒュリアに持って行かせよう。」
すると協会の職員風の者が小さいグラスを3つ持ってきて、
それぞれの前に置いた。
「では、契約成就を祝して乾杯しましょう。」
アマンダが言って、3人はグラスを持つ。
これってお酒かな?
「乾杯。」
そう言ってグラスを掲げる。俺も真似て同じようにし、
一気にそれを飲み込んだ。
飲んだ後に気づいたが、俺のだけ中身が違うようだ。
たぶん俺のだけジュースなのだろう。明らかに飲み跡が違っていたからだ。
こうして、無事に契約も済んで軽い雑談に入った。
軽食も用意されていたようで運び込まれる。
そう言えばそろそろお昼の頃合いか。
雑談の中で、今日の午後にはランゴバルドより第2陣の救援物資が
届くことがわかった。
ヒュリアは輸送部隊の責任者に手紙を渡すことを改めて約束してくれた。
また、塔の中にいれる家具が欲しいという話になり、
護衛の騎士から良い家具職人の話も聞いた。
そんな話をしていくうちに、時間も過ぎ、王様は城へ戻って行った。
そう言えば、テイマー協会は今回の件で
何も利が無いように思えたので訊いてみた。
「私達は、今回の件で取引希望の面々から、手数料を貰っているし、王様からも1次交渉権の手数料を貰っているからね。問題ないよ。」
とアマンダは説明してくれた。うーん。協会もちゃっかりしているな。
ちなみに、取得税は白金貨10枚で、その代わり、以降税金は免除された。
テイマー協会での用事が済んだので、塔の中に置く家具を購入しに、
先程紹介してくれた場所まで行く事にする。
その家具職人は街の北側にあって比較的街の外側に位置していた。
「ごめんくださーい」
そこら中に木材が置いてあり、如何にもな感じの場所である。
街の中心から結構離れているのは木材の収集に便利だからだろう。
「誰じゃ。」
奥から声が掛かり、そちらを見ると、そこにはドワーフがいた。
エルフの王国にもドワーフが住んでいるとは思わなかった。
「すみません。紹介されて家具を買いに来たんですけど。ここであってますか?」
「ここで家具を作ってるのはわしだけじゃな。誰の紹介だ?」
「えーとですね。名前まで教えてもらってないんですが、王様の護衛の方です。」
「なるほど、アイツか。で、何の家具が欲しいんじゃ?」
「まず、ベッドが1つとテーブルと椅子、タンスもあると嬉しいかな。最低でもこのくらいは欲しいですね。」
「なんじゃ、新しく引っ越しでもしてきたのか?それだけあるなら、作るより出来合いの物で済ませた方が早いぞ。」
「出来ている物もあるんですか?」
「こっちじゃ。ついて来い。」
倉庫の奥の扉の中に入っていく。急いで後を追う。
中に入ると、そこには色々な家具が所狭しと置かれている。
「気に入ったのがあったら言ってくれ。奴の紹介じゃ。多少安くしておいてやる。」
そう言われて、中を物色していく。リリーとも色々話しながら決めていく。
結局買う事になったのは、円形のテーブルと椅子4つのセットと
ベッド1つ、タンスも1つ、それとベッドの脇に置く小さいテーブルと
机とその椅子をお願いした。
それだけで金貨80枚になるらしいが、50枚に負けてもらった。
「ところでボウズ、どうやって持って行くんだ。馬車か何か用意しているのか?」
「いいえ、僕は魔法使いなので、魔法で運びますよ。」
そう言って、異空間収納に全て仕舞った。
「随分と便利な魔法じゃの。また、何か入用になったら来るといい。」
「ありがとうございました。そのうち、また来ます。」
随分と長居してしまった。
明日は、ヒュリアも来ることだし、今日の所はこれで宿屋に戻る事にしよう。




