64日目 テイマー協会 前編
●64日目(グリウス歴863年7月6日)
朝食を済ませ、もう日は随分と高くなり始めている頃に、城へ向かう。
街中は以前来た時と同じような活気があり、巨人族の襲撃を全く感じない。
途中、露店をいくつか覗いて回ったが、トウモロコシは見当たらなかった。
「やっぱり、売ってないなぁ。なんでだろうね。」
リリーに何気なく話しかける。
「リリーは分かんない。」
まぁ、リリーに訊いても分かる訳がない。つまらない事訊いてしまった。
そうこうするうちに、城の前まで来た。
「何か用か。」
門番が訪ねてくる。
「私はアルスと言います。ヒュリアに会いに来ました。ヒュリアに伝えてもらいたいのですが。」
そう言って、ギルドカードを見せる。
門番はそのカードを見て、
「おお、あなた様は妖精族の友、アルス殿ですか。お会いできて嬉しいです。」
うーん、またその呼び名ですか。
「ヒュリアに会えますか?」
敢えて呼び名には触れずに確認する。
「少々お待ちください。今から確認に行かせますので。」
そう言って、別の一人が城内に入っていく。
何も話さないのは空気が重くなりそうなので適当な話題を振ってみる。
「そう言えば、巨人族の襲撃があったって聞いてましたけど、大丈夫でしたか。」
「ええ、この辺りは問題ないですよ。襲撃のあった場所は、ドワーフ王国の防壁で、こちらは陽動だけでしたので大した被害はないと聞いています。それでも死者や怪我人は何人か出たようですが。」
「そうなんですね。被害が少なくて良かったですね。戦死された方にはお悔やみ申し上げます。」
「貴方様にそう言われれば、戦った者達も報われるでしょう。」
「ドワーフ側はどうだったんですか。何か知っていますか。」
「ドワーフ側は防壁を破られて、備蓄庫がやられたと聞いています。人的被害も結構な数があると。詳しくは分かりませんが。」
「そうですか。貴重な話ありがとうございます。」
城の中から何人か来るのが見えたので、ここで話を打ち切る事にした。
「お待たせしました。ヒュリア様は今、執務室におりますので、ご案内いたします。」
兵士ではなく、メイドのような格好をした
エルフの女性が案内してくれるようだ。
エルフは皆、顔立ちが綺麗というか凛々しいので
メイド服なんかがよく似合うと思う。
あと前世でのアニメのイメージに引っ張られているのかもしれない。
「どうぞ、こちらへ。」
言われるまま、付いて行く。
案内されたのは、比較的調度の整った部屋で応接間のような感じだ。
そこで座って待っていると、ヒュリアがやってきた。
「アルス。よく来てくださいました。」
ヒュリアは元気そうに笑顔を見せた。
「久しぶり。ヒュリアも元気そうでよかった。」
再会に握手を交わし、お互いソファーに座る。
「突然来たから、びっくりしたわ。再会するのはもっと先だと思ってたからね。」
「これもお仕事だよ。ちょっと調べなくてはならない事があってね。ヒュリアに訊くのが一番早いと思ったんだ。」
「何を訊きたいんですか。」
ヒュリアは特に表情を変えずに訊き返す。
エルフは表情を変えないというか、気をつけて見ないと分からないくらい
ポーカーフェイスなので、思考は読みにくい。
俺は、ヒュリアにドワーフへの物資援助に下りから説明した。
「なるほど、人間の国家、確かベルガド帝国と言いましたか。そこが様々な事件に関与しているかもしれないと。そして、あなたのいる国のジュノー王国は危機感を持っていて、その調査であなたを送り出したという訳ですね。」
「そうなんだ。実際、あの者達と戦ってみたけど、かなりヤバかった。相手のリーダー以外は倒せたけど、こちらもジュノー王国ではトップクラスのBランク冒険者の大地の牙が壊滅状態に追い込まれた。実際、死人も出してしまって、一応生き返る事は出来たけど、大損害だった。」
「そう言えば、アルスはAランクの冒険者になったんですね。おめでとう。我々もあなたのような人と知り合えて鼻が高い。流石ですね、アルス。」
ヒュリアは本音で喜んでくれているようだ。
「たまたまだよ。それよりも、以前の子供たちの誘拐も関与している可能性がある事にヒュリアはどう思う。」
ヒュリアは少し、考え込んでから答える。
「確かに、人間族が関与していたのは間違いありません。アルスと奪還した時に人間がいましたから。ですが、黒幕が誰なのかは予測が立ちません。ただ、誘拐された時の手際と奪還時の戦闘での相手の力量に違和感を感じます。まず、我々の側での誘拐は、深夜に複数名の暗殺等に長けた者達の犯行と見ていました。痕跡も一切残さず、時間も掛けられていない。かなり優秀な者達なのだろうと。そして、ドワーフ側は魔術師によって攫われたと聞いている。姿を隠して侵入し、眠りの魔法で眠らせ、多分テレポートのような魔法で運び出されたとドワーフ側は考えているらしい。多少の痕跡で相手は一人だったとも言われています。そして、我々が奪還した際に戦闘になった者達はある意味それを裏付ける者達でもあった。しかし、実力は、はっきり言って、かなりの格差を感じずにはいられない。私は今の話を総合して、攫った者と連れていった者は別の人間と今はそう思い始めました。」
「確かにあの時の戦闘では、あまりにも呆気ないほど弱かったよね。それじゃあ、攫った者達はその後どうしたんだろう。」
「攫ってその者達の拠点に連れて帰るのが目的ならば、攫った者が連れて行ったでしょう。目的はそれではなかったのかもしれません。・・・いや、違いますね。その者達は、別の任務もあってそちらを優先させたのでは無いでしょうか。連れ帰るだけならば難度はそれ程高い仕事ではないはず。それ以上に困難な任務があって、そちらは代替えでは達成できないと考えていたのかもしれません。例えば、今回の巨人族の襲撃を裏で操作するという事など・・・。」
確かに巨人族を扇動してエルフやドワーフを襲撃させるなんて
難易度が高すぎる。そう簡単に仕掛けられるような内容ではない。
「そうすると、攫った者達は、子供達を別の、俺達が倒した奴らに渡した後、巨人族の領域に向かってこちらへの襲撃を目論んだという事ですか?」
「アルスの話を前提に今回の犯人が同一であるならば、という事です。それならば辻褄も合います。けれど、それを証明するものは何もありません。あくまで、仮定の上での憶測ですね。」
ヒュリアは憶測とは言っていたが、
何やら確信めいたものを持っているようにも感じる。
「それで、巨人族を扇動したそいつらは、今後どうしていると思いますか。」
「それは、分かりませんよ。どこかで潜伏して次の機会を窺っているかもしれませんし、拠点に帰って行ったかもしれません。」
そりゃそうだ。その後の足跡は見つけられない。
「良い情報でした。ヒュリアがいてくれて助かったよ。」
「それはこちらも同じですよ。人間の国家の状況は我々では図り知れません。アルスこそ、良い情報を持って来てくれて感謝していますよ。流石は妖精族の友と言われる男です。」
ヒュリアは最後に揶揄う様に言った。
ヒュリアは俺が御大層な称号に困惑しているのを知っているのだ。
「そんな大層な称号は勘弁してくれ。」
「お気に召しませんか?ならば、エルフの盟友とか妖精族の救世主なんてのはどうですか?」
ヒュリアはクスクスと笑った。
「もっと勘弁してほしい。」
俺は頭を手で押さえて首を振った。
「そうだ、話は変わるんだけど、エルフ族にテイマーっているんだよね。」
「ええ、結構いると思いますよ。どうしてですか。」
「実は、最近、シークロコダイルの卵を拾ったというかシークロコダイルを討伐した時に、それがつがいだった様で卵を産んでいたんだ。被害もあったし、仕方ないんだけど、卵をそのまま放置もできなかったから持って来てるんだ。俺もテイマースキルは持ってはいるんだが、仮にテイムしても俺の行動の仕方では足手まといっていうか、使いどころがないというか。それで欲しがるテイマーがいれば、譲ってもいいと考えてるんだ。」
ヒュリアは一息溜息をつく。
「アルス、君は本当に呆れるね。テイマーにとってシークロコダイルがどれほど貴重なモンスターか分かっていますか?特級テイマー、我々は最上級のテイマー職を特級テイマーと呼んでいるのだけど、その者達が喉から手が出るほど欲しがるものだと知っているの?そんな物、全員が欲しがるに決まってるじゃないですか。」
「へー、それなら、誰か買ってくれるよね。」
「もう。だから何で売るのよ。そんな貴重な卵。二度と手に入らないわよ。」
「えっ、だって要らないもん。」
「もう、ホントにしょうがないわね。だったら、テイマー協会へ一緒に相談に行ってあげるわよ。卵は持っているのね?」
「うん。収納してあるよ。ありがとうね、ヒュリア。」
ヒュリアはちょっと照れたようにそっぽを向いた。
「それじゃあ、今から行くわよ。」
少し長くなったので、前後編に分けました。




