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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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63日目 エルフの王都を散策

●63日目(グリウス歴863年7月5日)


まだ、日が昇る前に目が覚めてしまった。

起きて部屋を出ると、夜警(やけい)担当のエルフが2人警備している。

こちらを見てお互い挨拶する。

リリーはまだベッドの上で寝ている。

橋の(わき)から川へ下る道がある。

川はかなり澄んでいて飲み水にも使われているらしい。

そこで顔を洗って目を覚まさせる。冷たくて気持ちいい。

さっぱりした所で宿舎に戻る。

リリーも目が覚めたようで、ちょうどいいのでそのまま朝食にする。

サラダと蜂蜜(はちみつ)をかけたパンと果物を食べる。

サラダにドレッシングが無いのは寂しいが、

野菜自体が美味しいので、塩を軽く振るだけでも十分だ。

蜂蜜パンはリリーも気に入ってくれたようだ。


エルフ達にお礼を言って、王都へ出発する。

前回は馬車に乗せられて一気に王都へ行ったが、

ここからはのんびりと行く予定だ。

エルフの領内は妖魔の森と川で区切られているおかげで、

魔物が侵入してくるのは非常に少ない。

そのため、魔物の素材などは人間の国家と貿易をして得る必要がある。

唯一得られる魔物の素材は、巨人族とその眷属から得られる物しかない。

そういった理由で、のんびりと旅をしようと思う。

また、エルフの領内は人間の国と違って土地自体に魔力が溢れており、

希少な植物も得られやすい。

この機会に、薬草など集めたいと思っている。


「それじゃあ、リリー。出発しようか。」

「そうね。ここは、すごく気持ちいいから、楽しみ。」

同じ妖精族の領域だからなのか、リリーも楽しそうに微笑んでいる。

道から外れすぎると迷う恐れがあるので、道の場所を確認しながら、

鑑定しつつ、歩いて行く。

良く見つかるのは薬草や解毒草が多い。

それ以外にも木苺のような果物や木の実等も豊富にある。

ふと見るとどこかで見た記憶のある背丈(せたけ)の高い草が生えている。

もしかしてと思い、近づく。その背丈の高い草をよく観察する。

「こ、これは、まさか。この世界にもあるのか。しかも実がなってる。」

黄色く粒粒の実が沢山まとまってくっ付いている、そうトウモロコシだ。

まだ成長段階の実が多くて、しっかりと身を付けたものはあまりないが、

収穫させてもらおう。

鑑定でも、説明を見る限り、トウモロコシに間違いない。

良く実がついているものを10本ほど収穫した。これは嬉しい。

でも、エルフの街でトウモロコシは見なかったような気がする。

何故だろう。

醤油があれば焼きもろこしにして食べてやるのに。

「リリー、これ、食べた事あるかい?」

「んー、初めて見る。美味しいの?」

「たぶん、美味しいはず。お昼に食べてみようか。」

「うん、楽しみ。リリーも取ってみる。」

そう言って、リリーも実をつけたトウモロコシを探す。

「あったー。これは、だいじょうぶ?」

しっかりと実が付いているようだ。

「いいんじゃないか。取れるか?」

リリーはそれを聞いて引っ張って取ろうとする。が、なかなか取れない。

「リリー、それじゃあ取れないよ。」

別のトウモロコシがあったので、それを取る事にする。

「いいかい。こうやって、手前に下げると簡単に採れるよ。やってごらん。」

それを見て、リリーも挑戦する。

「えい。やったー。アルス採れたよー。」

リリーは採れたトウモロコシをブンブン振り回している。

「そんなに振り回したら、どっか飛んで行っちゃうぞ。」

リリーは満足した様にトウモロコシを俺に渡す。

「それじゃあ、そろそろ行こうか。」

時折、程度の良い薬草を採りながら、歩いていたが、

思ったより随分時間が経ったようだ。

「そろそろお昼にしようか。」

「うん。さっきの食べるー。」

12本の内、まずは、2本()でる事にする。

本来は、収穫してすぐに茹でた方が美味しく食べられるのだが、

異空間収納は時間が停止しているので食べる時に調理すれば良いだろう。

この世界では初めてなので、とりあえず、風味を落とさないように

皮を少し残して茹でる事にする。

沸騰(ふっとう)してから3分くらいで丁度良い茹で加減になった。

リリーにも食べやすいように、4等分にして少し冷ます。

でないとリリーが火傷(やけど)しそうなので。

リリーが触っても大丈夫になったら、食べてもらう。俺も一緒に食べる。

「んー、甘い。」

2人で思わず合唱した。そして、二人で2本ペロリと食べてしまった。

昼食を終えて、再び歩き出す。

フラフラ散策しながら、進んでいくと

「アルスー、面白いの見つけたよー。」

リリーが手招きしている。近づくと、「これっ」とリリーが指さした。

そこには見たことのない植物が生えている。

「鑑定!」

鑑定で分かったのは、あの有名なファンタジーな

植物の代表格『マンドレイク』だ。

鑑定で分かったのは、引き抜くと様々なバッドステータスを

喰らうというもの。

魔力の低いものは、下手をすると死に至る事もあるらしい。

俺の魔力は低くはないはず。

対抗措置はマンドレイクは引き抜かれた瞬間、

悲鳴にも似た叫び声、実際には音波らしいが、を発する。

これは、サイレンスの魔法で封じる事が可能らしい。

だったら簡単だ。サイレンスなら発動できる。

マンドレイクに向けて

「サイレンス!」

「念のため、リリーは離れてて。」

「じゃあ、いくよ。」

そう言って、サイレンスの効果範囲に入る。

すると突然周囲の音が()き消えて、サイレンスの効果内だという事が

分かる。そして魔法が効いている内におもむろに引き抜く。

サイレンスのせいで引き抜かれたマンドレイクは何か叫んでいるようだが、

全く聞こえない。

暫くすると、叫び終わったのか、口を閉じて動かなくなった。

そのまま、サイレンスの範囲外に出てみる。特に問題ないようなので、

そのまま異空間収納に仕舞ってしまう。

リリーのおかげでマンドレイクを手に入れたが、

一体何に使うのだろう?今度調べなくては。

少し、寄り道が過ぎたので、テレポートを使って王都へ向かう事にする。


なんとか、日が暮れる前に着くことができた。急いで宿屋を探す。

ここでは、宿屋は少ないが、商人の利用を考えて少し大きい店構えだ。

中に入ると一階が食事ができるスペースで4、5人が座れる

円卓のテーブルになっている。

そして2組の商人風の人がエルフと飲みながら商談をしていた。

それとただ飲みに来たようなエルフの姿もある。

奥のバーカウンターで受付もしているようだ。そこで部屋を取る。

ついでにここで食事をとってしまおう。

それと商人もいるので聞き耳を立てて情報も欲しいところだ。

リリーを見ても人間の街程、注目を集めないのは助かる。

ピクシーがあちこちにいるわけではないが

ピクシーに興味がないと言った感じだと思われる。

前回来た時もこの街でピクシーは見ていない。

いくつか食事を注文し、小さく呟く。

「クレアオーディエンス!」

すると、周りの声が良く聞こえるようになった。

人間とエルフの話は、商取引の話がメインで特に得られる情報は無かった。

エルフ同士で飲みに来ている者の話の中で、興味を()かれる内容があった。

その内容はこうだ。

人間領とエルフ領の間に流れている川の河口から南へ行った海底に

塔が立っているというのだ。

その塔は海底にある為、誰にも見つからずにずっと放置されていたらしい。

なぜ、その事が分かったかというと

ある夜、海辺で歌を歌っていた吟遊詩人のエルフが

マーメイド達に歌をせがまれて沢山(たくさん)の歌を聴かせたそうだ。

その時にエルフの吟遊詩人(ぎんゆうしじん)が歌を作るのに面白い話はないか尋ねたら、

大昔に人間の魔術師によって建てられた海底の塔があるという話になった。

その塔ではその魔術師と人魚が楽しく暮らしていたのだが、

ある時を境に魔術師がいなくなり、

その塔は入り口を(ふさ)がれて以降、誰も入る事は無くなったという話だった。

非常に興味をそそられる話だが、結構、眉唾(まゆつば)な話でもあるみたいだ。

それ以上の情報は何も得られずに部屋へ戻る事になった。

明日は、ヒュリアに会いに行ってみよう。

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