51日目 冒険者ランクの真実
日をまたいだ話の続きです。
●51日目(グリウス歴863年6月23日)
街の衛兵が集まってきた。
これだけ派手に燃えてれば、そりゃあ集まるよ。
「アルスと言ったか。説明しろ。」
そう言ったのは、この街の衛士長という肩書の人だ。
この説明はもう3度目だ。一回目は最初に来た衛兵。
2回目のはその上司に当たる隊長とか言ってたか、そして今回だ。
「はあ、もう3度目何ですけどね。実は・・・」
「なるほど。つまり、君は宿屋を襲った賊を返り討ちにして、そいつらの情報からそれを指示した人間の場所まで来て、捕まえようとした。しかし、調査すると中に手配されている貴族を発見した。それを生け捕りにして、こうなったと。」
「ええ、だいだいあってますね。」
衛士長は頭を押さえている。
すでに俺がBランクの冒険者であることは知っている。
「もう少し何とかならんかったのか。」
そう衛士長は言った。
「これだけの人数を相手にするのに手加減なんて言ってられないでしょう。こちらが殺されてしまいますよ。」
「しかしだな。衛兵の詰め所に行って応援を呼ぶとかあったろ。」
「こんな時間に、しかも初めて見る顔の人間に賊の親玉がいると言ったって動けないでしょう。それに、宿屋の方は通報したでしょう。そっちに人員が行ってしまうので、こちらのあるかないかの話には乗ってこないんじゃないですか。あと、貴族については、たまたま見つけただけで、こんな所に潜伏しているとは思いませんよ。指名手配書が出てたから、分かりましたが。」
「んー。明日、いやもう今日か。後ほど調書を取る協力してくれ。そしたら帰っていい。」
「いやいや、帰っていいって、宿屋が襲撃されて、宿屋の人が殺されちゃってるんですよ。どこに泊まれっていうんですか。こんな時間に。」
「確かにそうだな。なら、詰め所の宿直室の1室を貸す。そこで休んでいろ。こっちが片付いたらすぐ行く。」
そう言って衛兵の一人に案内してもらった。
もうすぐ夜明けらしいが、宿直室で眠らせてもらおう。
「おい、起きろ、目を覚ませ。」
目の前には夜明け前に話していた衛士長だった。
「調書を取るから来てくれ。」
そう言って連れ出される。基本的に言う事は同じだ。
ただ、冒険者ギルドの出来事から追って説明するのは非常に面倒だった。
それと昨日の夜のうちに、フェーゲルの財産がこちらに運ばれてくる
という内容を話していたと伝えていたので、
街に入る箇所の検問を強化。無事、押収できたそうだ。
俺が確保した物についてだが、食料品は腐るので検めた後、
そのまま貰ってよい事になった。
それ以外は、一度売却額の鑑定してそのまま売却金額を貰う事になった。
というのも、どれが貴族の物でどれが盗賊一味の物か分からないのと
その中に貴重な証拠物件などが紛れている可能性があるとの事だ。
また、盗まれたものがある場合、盗まれた側に買取の権利があるそうで、
その調査も必要らしい。
また、今回貴族以外全て倒してしまったけれども、
ほぼ手配中の犯罪者である事から、その賞金もあるそうだ。
これらは、明日までに準備するという事なので、
明日の昼頃、これから渡す証書を持って庁舎に行って欲しいと言われた。
夜中に起きて、明け方に二度寝したせいか、体がだるい。
まだ、宿のチェックインできる時間まで4、5時間はあるだろう。
行くところもないし、野菜チームは今頃牢屋の中だろうし、
ギルドに行って一応義務っぽいので報告でもしておこうか。
冒険者ギルドに入るなり、昨日、話した受付の人が
受付カウンターから出てきた。
「アルス様、大丈夫でしたか。衛兵詰め所から連絡が来ました。大変でしたね。どうぞ、こちらに来てください。」
と2階の部屋に案内された。
お茶を出され、暫く待つと、ギルマスと呼ばれたレックスが入ってきた。
「アルス、散々だったらしいな。」
第一声がそれかよ。
「一応、義務だから報告に来たんだけど。知ってるならもういいか。」
「いや、こちらは結果しか知らされていない。顛末を詳しく聞きたい。」
昨日ここであった後の話からしていく。
「簡単に言うと、後をつけられて、宿屋を特定され、それに気づいた俺は魔法で警報を設置した。夜中に侵入してきた野菜チーム含む5人と外の見張り5人を捕縛。部屋に閉じ込め、そいつらのボスの場所を聞き、途中、詰め所で宿の件を報告、その足で、隠れ家の港にいき、殲滅。たまたま一緒にいた元貴族を捕縛。朝まで調書を取るために詰め所にいた。そして今に至るっとこんな感じだ。」
「野菜チームってなんだ。ああ、あいつらの事か?まあ、筋は通っているが、端折りすぎだ。いくつか質問いいか。なんで、ボスがいると思った?」
「簡単だよ。あんな下っ端冒険者が8人もの仲間を連れている道理はない。誰かの助けがあるはずだろう。」
「なぜ、下っ端だと思った?あいつらは冒険者としてそれなりの年数ここに所属していた。昨日今日来たお前がなぜそう判断できる。」
「トーマス 戦士 Lv3 斧術Lv1、レタルス シーフ Lv2 短剣術Lv1、そういうことだ。」
「つまり、お前は鑑定持ちという事か。・・・次だ。どうやってボスの居所を吐かせた?」
「魔法だ。俺は魔法使いだからな。」
「それはどういった魔法だ。」
「ノーコメント。答える義務はないと思うが。」
「確かにな。では次、なぜ、あそこまで派手に動いた?」
「・・・まず、宿に侵入してきた者がいた時点では、ただの侵入者だ。殺すこともないと判断して無力化して捕縛した。外にいる者達も同様だ。宿屋の下に降りた時、宿屋の人間が殺されていた。最初はボスにケジメをとらせるつもりだけだったが止めた。外にいる奴らは、そのボスと繋がりが深いと判断したから生かして捕らえた。下っ端なんて殺しても無意味だ。それよりも、どいつが情報を持っているかの方が重要だ。下手に殺してしまえば情報がなくなる。ボスの位置が確定するまでは殺すことは無い。それと時間を掛ければかけるほど警戒される。だから、閉じ込めるだけにした。当然、吐いた場所にいなかったら、戻って、情報を取り直すつもりだった。」
ここまで、一気に説明して、お茶を啜る。
「それで、一応、情報通りの場所と如何にもな、船があったから侵入した。そこで、元貴族とそこのボスとの会話を聞いて確定した。ちなみに、ここへ来た時に、捕縛対象は生死を問わずとあったのは確認済みだ。だからその通りにしただけだ。それと流石にあれだけの数を無力化なんて危険だから攻撃前に全滅は決めていた。それが理由だ。」
「・・・・」
ギルドマスターのレックスは押し黙った。
「この後はどうするつもりだ。」
「明日の昼に庁舎へ賞金を貰いに行く。予定では今日の朝にでも王都へ帰るつもりだったから、そのまま王都へ向かう予定だ。」
「そうか。もし可能なら一つ依頼を受けてくれないか。街からの依頼なんだが、今この街の冒険者では対応できないのだ。」
「なぜ?」
「先日、この依頼を受けたCランクの冒険者、もうじきBランクに上がると言われてたチームが全滅した。正直、君に頼りたい。」
「Cで駄目なら、BランクかAランクを送れば済むことじゃないのか。」
「今、この街にBランクの冒険者はいない。以前は2チームいたのだが、1つは、お前が殲滅した奴らに狙われて、この街から出ていった。もう一つは、海洋国家とこの街の冒険者で共同でのサーペント討伐作戦があった。サーペントの群れの討伐は成功したものの、こちらも壊滅状態で、海洋国家もこの街もBランク冒険者を失う結果となった。うちは4人チームだったが、一人を除き帰還できなかった。その一人も今回の件で引退してしまった。だから、今うちにはCランク冒険者しかいない。しかも最有力のCランクチームが全滅したから誰にも出すことができない状況だ。」
「Aランクはどうした。」
「?。Aランクなんてこの国にはいないぞ。あのランゴバルドでもいないはずだが。まさか知らないのか?」
えーー!ちょっと待て。Aランクがいないだと。待て待て待て、思い出せ。
冒険者になった時なんて言われた?
たしか、冒険者にはSABCDEFGの全8のランクがございます。
って言ってなかったっけ?
「俺はあまり周りとの付き合いが多くないから他がどうとか知らないが、冒険者になった時に確か、SABCDEFGのランクがあるって説明受けたぞ。
SもいなければAもいないって、なんだそりゃ?」
俺は呆れて訊いた。
「俺も聞いた話で悪いが、昔はABCDEのランクだったらしい。だが、ある時を境に、英雄と呼ばれる人間が登場するようになったと。そうした中で、Aランクに大きな差が生まれてしまった。そこで、当時の冒険者ギルドはランクを変更したんだ。英雄と呼ばれる者達を基準にSABCDEFGに分けて、英雄たちはそのままAランク、それ以外は2ランク下げたという事だ。そして英雄たちがA以上の貢献に備えてSクラスというモノを作ったと言われている。過去Sクラスになった者は2人、一人はその後どうなったか分からないが、もう一人は今の帝国の皇帝の先祖であるらしい。その時代にダンジョンの多くが攻略されていった。ただ、その時代はその時だけで、それ以降、英雄と呼ばれるような人間は存在していない。3、400年くらい昔の話だったかな。」
・・・知らなかった。じゃあ何、Bランクって実質最高クラスなの?
「ちなみにこの国にはBランクってどれくらいいるの?」
「最近まではランゴバルドに1チーム、王都に1チーム、この街トリアに2チームいたはずだ。ただ、さっき言った通り、この街の1チームはいなくなり、もう1チームは壊滅後解散した。噂では王都のチームも王都のダンジョンに行ったきり行方不明という話を聞いている。真実かどうか不明だがな。ランゴバルドは健在のはずだ。ただ、最近モンスターホードがあったという話もきいている。それ以降はどうなっているのかは不明だ。」
つまり、この国での最高ランクの冒険者は、
大地の牙のチームとアンジェ達のチームで、
トリアのチームは壊滅状態で解散、王都のチームは行方不明。
・・・マジか。ホントにどうなってんだこの世界というより俺。
「えーと、ちなみに他の国はどうなってますか。」
「・・・他も似たり寄ったりだろう。多分現状、各国家に数チームしかBランクはいないと思われる。」
「そうだ、兵士や軍隊で強い人はいるんでしょ。」
「一緒くたには比べられないな。集団戦では軍隊、1対1なら冒険者、その中間が傭兵といった感じだな。軍の中にも強い奴はいるだろうが、1人で考えるなら精々がCランク止まりだな。」
この世界に来てだいぶ経つのに初めて知ったこの事実。
俺はすでにBランク。やってしまった感がぬぐえない。
「それで依頼内容を教えてもらっていいですか。」
俺以外で出来る奴がいないとか言われちゃうと断りづらいじゃないか。
「この街の南西の海岸にシークロコダイルが2匹住み着いている。多分シーサーペントに追われて来たのだろう。本来はもっと南に生息しているはずだ。ただ、こいつはシーサーペントと1対1なら互角に渡り合える強さだ。勿論Bランク案件だ。」
「ごめん。確認なんだけど。海洋国家とこの街の冒険者で戦って壊滅に追い込まれたシーサーペントと同じ強さのシークロコダイル2匹を俺一人で討伐してこいという依頼で間違いないか?」
「・・・ぁぁ。」
めっちゃ声が小せぇ。
「それで、達成条件だけど、2匹とも仕留めないと失敗扱い?」
「基本的にはそうだ。」
「つまり、2匹いっぺんに倒さないと失敗扱いか。それは厳しいな。1匹倒したら普通のモンスターならもう1匹は逃げてしまう。」
「・・・」
「俺は一人だからな。この話は無理そうだな。うん。やはり予定通り、帰る方向で考えるか。」
「分かった。分かったから。条件を変える。いや変えさせる。討伐は基本1匹。それ以上は追加報酬でどうだ。ただし、素材は持ち帰ってきてくれ。報酬は1匹につき白金貨20枚だ。これで、勘弁してくれ。」
「了解だ。ならば、詳細な場所と状況を教えてくれ。」
場所は、歩いて半日くらい行った辺りらしい。
面倒なのでさっさと片付ける事にした。
街を出て、リリーを起こす。
「リリーこれから討伐に行くから大人しくしててよ。」
「はーい」
そう言いながら頭の上で寝ている。
そのまま、テレポートを駆使して目的地に向かう。
目的地には、午後一についた。
岩陰に確かにワニがいる。
大きさは尻尾を除いても5mくらいあるデカブツだ。それが2体。
今は日光浴でもしているのか動きは無い。
話によると氷に弱いと言っていた。
ここは先制攻撃しかないだろう。
「ダブルスペル・アイスピラー!」
2体のシークロコダイルは、大きな氷の柱に胴体を挟まれた格好で
動けなくなっている。
その巨体を大きくくねらせて、逃れようと必死だ。
「アイスストーム!」
氷の吹雪が竜巻になって襲い掛かった。
氷による引き裂かれるダメージと、
冷気によるダブルパンチで徐々に動きが鈍くなっている。
だが、まだ致命傷というわけでも無さそうだ。
継続ダメージを与える中、シークロコダイルの頭めがけて魔法を放つ。
「ダブルスペル・アイスジャベリン!」
2本の氷の槍が放物線を描いてシークロコダイルの頭上に突き刺さる。
アイスストームが消えた時には、シークロコダイルは2体とも死んだようだ。
そのまま、収納する。
シークロコダイルのいた下の砂の中に黄土色の丸みを帯びたものが見えた。
ん?もしかして、その砂をかき分ける。案の定、卵だ。
鑑定するとシークロコダイルの卵となっている。
かなり大きいし、重たい。
これ、食えるかな?取り敢えず、収納しておく。
目的も果たしたし、帰る事にした。
街には夕方前には戻れた。テレポートはかなり便利だ。
そのまま、冒険者ギルドへ向かい、ギルドマスターに報告する。
「依頼は達成した。シークロコダイルはどこに出せばいい?」
「こっちだ。」そう言って、一階の解体場に来た。
「ここに出してくれ。」
そう言われたので異空間収納から出す。
尻尾の長さを入れると10mはある。それが2体だ。
この解体場が異常に狭く感じる。
「これで依頼達成だな。」
「ああ、受付で処理してくれ。その後、報酬を渡すからギルドマスター室に来てくれ。」
受付に行き、カードの更新をする。
「よくやってくれた。アルス。感謝している。」
そう言って、目の前に白金貨40枚出された。それを受け取る。
「1つ訊きたい事があったんだ。」
「なんだ?」
「ランゴバルドでは、ギルド長と言っていたが、ここではギルドマスターって言ってるよな。何が違うんだ?」
「別に違いは無い。ここの長になったら、好きな職名をつけられる。ただし、見て分かる職名でないといけないがな。」
随分適当なんだな。
「それにしても、こんなにすぐ狩ってくるとは思わなかったぞ。」
「それは、たぶん運が良かったんだと思うよ。このシークロコダイルは産卵期だったらしく、卵を温め中なのか、2匹ともジッとしてたから初手が楽だった。でなければ、1匹は逃げられたと思う。」
「なに?卵があっただと。その卵はどうした。」
「持ってきているよ。食えるかなぁと思って。」
「なんで食うんだよ。魔物の卵は貴重なんだぞ。しかもあのシークロコダイルだ。白金貨10枚は下らないぞ。」
「んー。別に今お金に困ってないしなぁ。食べてみたいじゃん。」
「だから、食うんじゃない。そもそもそんなの食った奴なんかいないんだ。食べられるか分かったもんじゃないぞ。」
「じゃあ、卵なんて何に使うのさ。」
「勿論、秘薬の実験だ。」
「秘薬って何?」
「秘薬というのは、例えば若返りとか、1日変身できるとか、まあ色々だな。」
「ふーん。」
「あまり、興味無さそうだな。」
「ないよ。これ以上若返ってもしょうがないし、そもそも大方、魔法でどうにかなるでしょ。」
「いや、その魔法が使えないから、秘薬なんだが。はあ、まあいいか。」
それにしても食べられないのは残念だ。
用は済んだし、宿を探さないといけない。
ギルドから紹介があったのでそちらに向かう。
宿には空きがあったので助かった。
明日は、庁舎に行って賞金を貰い、その後は、王都に戻るか。




