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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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50/276

50日目 虐殺

●50日目(グリウス歴863年6月22日)

昨日の夜、食事をしている時に朝市の事や干物(ひもの)などについて話を聞いた。

はい、干物とかありませんでした。

この世界では、魚は必ず火を通さないと食べられないと言われた。

まあ、あれだよね。細菌とか寄生虫とかだよね。

あと、魔力のある世界だし、内臓とかも危険そうだよね。

でも、夕食に出てきた魚は美味しかった。

美味しかったんだけど、なんかマグロステーキみたいな感じだったな。

何でも買ってきてすぐに、一度、素焼きしておけば、

夜の調理に使っても大丈夫らしい。

なるほどね。


今日はガッツリ魚を手に入れるぞー。

・・・と息まいたものの、見たことのない魚ばかりだ。

これは、店の人に直接聞くしかない。

「すみません。この魚は、どうやって食べるんですか。」

「ぼうず、何言ってるんだ。いいか、こういう魚は、内臓を取り出して、塩で焼いて食べるんだ。それとここにはないが大きい魚は、大体ステーキにして食べるものだ。それ以外はねぇよ。」

「そ、そうなんですね。ありがとう。この中で一番おいしいのはどれですか。」

「そうだなあ、この時期は、こいつかな。」

そう言って指したのは、顔が深海魚みたいな感じで、

胴体はサンマみたいな形だ。ただ、色は黄色と赤の縞模様である。

正直、見た目は食欲をそそられない。

「こいつは、焼くと骨が柔らかいから、そのまま、かぶりつけるぜ。もうじき旬が終わるから、お買い得だぜ。」

見た目はあれだけど、買ってみるか。

「いくらですか。」

「5匹で銅貨1枚だ。」

安っ。

「じゃあ、20匹下さい。」

「大丈夫か、日持ちはしないから、明日には駄目になるぞ。」

「ええ、大丈夫です。」そう言って支払った。

「それと魚から作られる調味料みたいなのは売ってますか。」

「うーん、なんだそれは。聞いたことないな。すまねぇな、ぼうず。」

「そうですか。ありがとう。」

そう言って、他の店を見ていく。

結局、朝市が開かれている間に手に入れられたのは、

最初に買った魚20匹、大型の魚の切り身30切れ、生の海藻(かいそう)1kg、

(くせ)が無くスープに入れて食べられるという貝1袋、

それと年中取れる定番の魚といわれた平べったい魚10匹で

銀貨2枚程度しか買えなかった。

それというのも、(さば)くのが面倒だったり、

毒がある部分を取り除かなければならなかったりと制限が多かったからだ。

毒無効があるからと言って、自分から毒を食べる趣味は無い。


昼は、海の見える広場で食事をとる事にした。

リリーは朝市では魚の生臭い匂いが駄目だったらしく、

自分から引っ込みたいと言ったので、

買い物の間は収納に入ってもらっていた。

「あるすー、みずいっぱいだねー」と海を見て飛び回っている。

「あれは、海っていうんだよ。」

「うみー、うみー、おっきいー」

「リリー、ご飯にしよう。」

リリーには果実を、俺は魚の串焼きと貝のスープだ。

ちなみにスープを屋台で買う時は、入れ物を自分で用意する必要がある。


海には、近海用の小型の船や遠洋用の大型の帆船が見える。

小型の船は主に漁船らしい。

そして大型船は貿易を主体とした船という事だ。

ここから出ている船は、南の海洋国家との貿易や、

十三連合国まで行っているらしい。

行きかう船をボーっと見ていると、心が洗われる様な清々(すがすが)しい気持ちになる。

前世ではインドア派だったから、景色見ても何も思わなかったのに

えらい変わりようだ。

「さてとっ。リリー冒険者ギルドに行ってみようか。」

たしか、アンジェやマリアはこの港町で冒険者をやっていたと聞いている。

どんなところか見ておこうと思っていた。


看板にトリアの冒険者ギルドと書いてある。

街はトリアっていうのか。

中に入ると、どこの冒険者ギルドも造りは同じらしい。

中にいる冒険者はランゴバルドと違い、

軽装の者が多いというか重装備の者はほとんどいない。

掲示板にどんな依頼があるか見てみると、

護衛依頼ばかりで、船の護衛が多いみたいだ。

なるほど、船の護衛なら重装備では泳げなくなるから危険なのか。

他にも王都までの護衛もあるが、それ程多くは無い。

船の護衛は何から守るんだ?ふと疑問が()いた。

受付で聞いてみる事にした。

船の護衛は主に他国の海賊や海中モンスターで

どちらかというと海賊の襲撃の方が多いという事だ。

俺は基本対人戦は好きではないから、船の護衛は受けるつもりはない。

依頼の掲示板の横に別の掲示板がある。

向こうではなかったものだ。

指名手配と書かれている。

で、その下には、フェーゲル元準男爵金貨200枚、生死問わずとある。

その下にも、配下の名前と金額、普通の犯罪者の名前と金額が出ている。

フェーゲル準男爵絡みの総額は金貨300枚にも及ぶ。

こいつ、まだ捕まっていなかったのか。よく逃げ切れるものだ。

しかし、逃げてから随分(ずいぶん)立つ。普通ならすでに国外へ逃げているだろう。

まあ、こっちはどうでもいいか。

さてさて、他に何か依頼は無いかな。

一つだけモンスター討伐の依頼がある。

えーと、地下下水道にスライム()しくはブロブが発生、その退治。

報酬はスライム1匹銀貨1枚、ブロブ銀貨2枚。

討伐数はカードで確認となっている。

この依頼安すぎない。

だから誰もやらないのか。これはただの罰ゲームじゃないのか。

となると、依頼はどれもこれもピンとこないなぁ。


「おめー、見ない顔だなー」

おや?定番の新人虐めですか?全くどうしようもないな。と後ろを振り返る。

すると、ガタイの言い頭の禿()げあがった大男とひょろっとしているが

吊り上がった目が陰険(いんけん)さを醸し出している男の2人組が、俺を見下(みおろ)している。

キョロキョロ。もしかして、(から)まれたのは俺ですか?

「てめえみてーなクソガキが、こんなとこいるんじゃねーよ。邪魔くせー。クソガキは帰ってママのおっぱいでも飲んで寝てろや。」

うーん、セリフまでテンプレ通りに言わなくてもいいんじゃないか。

思わず、ププッと噴出して笑ってしまった。

「あーん、クソガキがなに笑ってるんだよ」

と後ろの奴も何か()え始めた。

「いえいえ、すみません。あまりに下っ端みたいなセリフだったので、プププッ」

やべぇ、ツボに(はま)って笑いが止まらない。

「死にてーのか、クソガキが―」

も、もうだめだー、腹痛い。

「プッ、ハハハハー、ヒー、もう駄目だ―、笑いすぎて死んじゃうー、アーハハ」

禿げ頭の大男は顔を真っ赤にして怒り始めた。まるで茹蛸(ゆでだこ)だ。

あっ、タコ食べたい。

そう思ったら、ようやく笑いのツボから解放された。

「ふーー。」

ようやく収まった。大男を見る。

「このガキふざけやがって。もう我慢ならねー」

そう言って、(なぐ)り掛かってきた。

相手のパンチを余裕で(かわ)す。

念の為「鑑定!」

トーマト Lv3 戦士 斧術Lv1

見た目とのギャップが逆の意味で激しいんですけど。

こんなレベルで絡んできたの?頭大丈夫?

「うおー」

雄たけびをあげながら再び殴り掛かってきた。これも余裕で躱す。

後ろの奴にも鑑定する。

レタルス Lv2 シーフ 短剣術Lv1

トーマトとレタルス・・・

「ブフッ、ちょっ、トマトとレタスってお野菜コンビですか?ヒー、もうこれ以上ダメ―、笑い死ぬ―。あはははー」

「てめー、何言ってるかわかんねーぞー。」

そう言って、ブンブンパンチを振り回す。

しかし、レベル差がありすぎて、当たる気配もない。

今度は2人がかりで襲い掛かってくる。素早くそれらを避け続ける。

向こうは、思わずテーブルに殴り掛かったり、

他の冒険者にぶつかったりで、(ひど)いありさまだ。

ギルドの受付の人達が止めなさいと一生懸命声を出しているが、

頭に血が上りすぎた2人には届いていないようだった。

「何してる!」

怒声と言ったほうがいいか、威圧と言っていいか

そのくらい覇気(はき)のある声が室内に轟く。

その声を聞いてようやく、2人は動きを止めた。

声の主は、2階から、ドスドスと降りてくる。

「トーマト。何してる。」

そう言って、大男の方を睨みつける。

「あ、いや、ギルマス、その・・・」

と急に蛇に(にら)まれた蛙のように(ちぢ)こまっている。

「レタルス、説明しろ。」

今度は、後ろシーフの方を問い詰める。

そして、俺の方を見る。

「見ない顔だな。」

「誰か説明しろ。」と周りを見回す。

「ギルドマスター、私が説明します。」

と受付で質問に答えてくれた人だ。

「この方は、先程、護衛の依頼について私に質問をしに来ました。その後、見ない顔でしたので、様子を見ているとトーマト達がこの人に絡んでいったのです。そしてら、なぜかわかりませんが、この人が急に笑い出して、こんな状態になってしまいました。」

「・・・分かった。君は冒険者か。」

俺の方に向かって訊いてくる。

「俺は、アルス。ランゴバルドの冒険者ギルド所属の冒険者です。」

「失礼した。私はこのギルドのマスター、レックスという。カードを確認させてもらっていいか。」

カードを渡す。

「Bランク冒険者だと。・・・おい、このカードを確認せよ。」

そう言って先程説明した受付の人がカードを持って奥へ行った。

周りではBだと?あんな子供が?偽造じゃないのか?

と好き勝手に話している。

その間も、大男たちは縮こまっている。

ギルドマスターは、こちらを値踏みしているようだ。

俺は我関せずといった感じで、周囲を見回す。

「ギルマス。本物でした。」

と先程の受付の人は伝えた。

「そうか。」

そう言って、ギルマスと呼ばれた男はカードを受け取る。

「こちらは返しておこう。すまなかったな。一つ確認させてくれ。君は・・・いや、アルスだったか。アルスは手を出していないのか。」

「こんなのに手を出す必要あると思います?」

逆に訊き返してやった。トーマトはこちらを睨んだ。

「フフッ、そうだな。」

そう言って今度は、トーマト達に向き直った。

「言い訳はあるか。」

「ないです。」

「よろしい。では、処分を言い渡す。トーマト、レタルスには、罰金金貨5枚、依頼の無償奉仕3回。これが為されない場合は、冒険者として永久追放とする。以上だ。解散。」


周りはまだざわめいている。

Bランクなんてそんなに珍しいモノでもないだろうに。

あっ、そうか。俺ってまだ12才だった。

精神年齢とかけ離れているから、つい大人目線になっちゃうけど、

見た目が子供じゃ、そりゃあ、好奇な目に(さら)されるよな。

先程中断させられた依頼の掲示板を再び見始める。

ただ、周りの視線があるので、正直居づらい。

さっきは、気づかなかったけれど、ここの依頼にはランクが書いていない。

さっきの受付の人なら教えてくれるかも。

「あのー、すみません。もう一つ聞きたい事があるんですか。」

「はい、何でしょう。」

ちょ、どう見ても興味津々って顔してますけど。

「ここの掲示板の依頼ってランクが書いてないのですが、何故ですか。」

「はい、ここの依頼のほとんどはランクの査定が不明なのです。例えば、貿易船の護衛の場合、相手の海賊の人数や船の装備などいろいろな要素で難易度が変化します。ですから、自己判断で受けて頂くほかないのです。また、この辺りではモンスターの討伐依頼は(まれ)ですので、そういった関係でランクが書かれていないのが多いのです。モンスター討伐の依頼の場合はランクが別途、記されているはずです。」

なるほど、さっきの下水道の依頼はEランク以上って書いてあったな。

「わかりました。ありがとう。」

そう言って振り返る。

さっきの野菜チームは隅のテーブルでこちらを睨みつけている。

索敵に敵意バンバン反応しているんですが。自業自得でしょ。

ただ、ここでは仕事も、しにくそうなので、

宿に帰り明日にでも王都に帰った方が良さそうだ。


帰りの道中、冷静に考える。

今日の自分はおかしい。普段の俺ならこんな馬鹿なことはしない。

少なくとも気をつけるようにしている。

まるで絡んできたあいつ等に八つ当たりでもしたような心地(ここち)だ。

心のどこかでユミコの事が引っ掛かっているのか。

何がと言われても何も出て来ないし、

実際、ユミコとはそれ程沢山(たくさん)話をしたわけでもない。

それとも、これはただの慢心(まんしん)からなのか。

モヤモヤしながら、宿屋へ向かった。


昨日泊った宿屋は今日も空いているので、チェックインした。

「リリー、明日は王都に向かおうか。思ったよりこの街は面白くなかったな。少しは期待してたんだけどな。」

「このまち、くさいから、リリーもきらーい」


さて、索敵で、あいつらずっとつけて来てたが、流石にどっか行ったな。

念のため気をつけておくか。


「!」

夜中に目が覚めた。

警戒して扉の前にアラームの魔法を仕掛けておいた。

索敵には、扉の外に5人ほどいる。


先日、新しく気づいたのだが、

索敵のマップ化の状態でディテクトエビルをかけると

マップ上の敵意を持った者が判明するのだ。

ただ、先にディテクトエビルをかけてマップ化してもダメなのだが。


それで見てみると、外にも5人ほどいるようだ。

リリーは眠っているので、急いで収納する。

あんな下っ端風情が集められるような人数でもないな。

バックがいるはずだ。

今、扉の前で一生懸命鍵開けに挑戦中ですが、残念でした。

扉にも窓にもハードロックが掛かってるんですよ。

魔法的に解除しないと物理で壊そうとしても厳しいですよ。

さて、どうしてくれよう。

部屋の奥へ陣取り、ショートソードとワンドを持つ。

「ディスペルマジック!」扉に向けて、魔法解除の魔法を放つ。

すると、カチャッと鍵が開いた音がした。

ゆっくりと扉が開く。

完全に扉が開く前に「スリープ!」と魔法を扉を中心にかける。

勿論(もちろん)、自分にはかからないように注意する。

ドサッドサッ。人が倒れる音がした。5人とも眠っている。

その5人にマインドショックをかけて、縛り上げていく。

武器や道具を片っ端に引き()がし取り敢えず収納しておく。

5人を部屋に入れて扉はハードロックの魔法をかけて閉じ込めておく。

索敵で再度確認したが、残りは外の5人だけだ。

下の階に静かに降りていく。

すると、宿の入り口前で宿の主人が殺されていた。

奥にはその妻と思われる人も死んでいるのが分かった。

俺の中で沸々(ふつふつ)と怒りが込み上げてくる。

関係ない人間を平気で殺すほど、悪人と言うわけだ。

こちらも手加減する必要も無さそうだ。

実行犯より、外にいる奴らの方がボスにたどり着ける公算が高そうだ。

急いで裏口に回り、外に出る。

建物の(かげ)から、インビジビリティで後ろに回り込む。

すかさず、スリープの魔法で眠らせる。

しかし、一人だけ眠らなかったようだ。

その男は周りがバタバタと倒れるのを見て、

すぐに逃げようと宿屋の反対方向、つまりこちらに向かって走り出した。

しかし、その方向に人影を確認すると、その勢いを止めた。

「アースバインド!」

するとその男の足元が石で固められてしまった。

急に足元が固まって動かなくなり、その為焦ってバランスを崩した。

思わず尻もちをつく格好になって倒れる。

男はそれでも抵抗しようと、ナイフを出し振り回す。

面倒なので、ナイフを持った手をショートソードで弾き飛ばす。

勢いが良すぎたせいか、

ナイフを持っていた腕が払い飛ばされたようになった。

すかさず近づき、マインドショックで気絶させる。


全員を縛り上げて部屋に運び込む。当然装備は回収した。

一人だけ廊下に出し、たたき起こす。結構叩かないと起きないらしい。

目が覚めたその男に、チャームの魔法をかける。

「おう、友よ。大丈夫か。」

「ああ」

「そうだ、今日の仕事って誰の依頼だったっけ?」

「そりゃ、あれだ。トーマトだぞ。あいつらの持ってくる仕事はおもしれーからな。」

「そうか、ところでボスに報告行きたいんだが、今どこにいるか知ってるか。」

「俺達のボスか。たしか、今、どこかの落ちぶれた貴族と一緒に船にいるんじゃないか。ボスはその貴族とつるんでたが、何でもその貴族、落ちぶれたって言って(すき)を見て、財産を奪おうと今頑張ってるらしいぜ。へへへ。」

「そっか、じゃあ急がないとな。その船ってどこだっけ。」

「船は5番埠頭(ふとう)に泊まっている船だ。いつでも逃げられるように一番端に泊まってるぜ。」

「そうか、ありがとな。友よ。」

「いいってことよ。」

そして再度マインドショックをかける。

部屋の中へ全員閉じ込めておいて、港に向かう。

その途中に街の衛兵詰め所があったので、

そこの入り口にいる警備の人間に伝える。

「私は、冒険者ギルドに所属しているアルスと言います。宿屋に押し込み強盗が入って、宿屋の人間が殺されました。俺は、逃げた奴を追いかけるので宿屋に行って、犯人の一部を確保しておいてください。人数は10人いますが、魔法で部屋に閉じ込めています。」

そう言って、ギルドカードを見せる。

「え?Bランク?まさか・・・」

「時間がありません。お願いしましたよ。」

そう言って、港に向けて走り出した。

夜だとテレポートが使いにくいので、能力強化-敏捷で移動速度を上げた。


港に着くと大型船は3隻停留(ていりゅう)していた。

どうやら、手前が1番埠頭のようだ。

確かに一番奥の5番埠頭に大型船がある。

「ダークビジョン!」

船の上に見張りがいる。埠頭の船の近くに2人いるのがわかる。


怪しいのは確定だが、念の為、侵入して確認する事にした。

インビジビリティで姿を消す。

外の見張りは真剣に見張ってはいないので、簡単にスルーできた。

そのまま、乗船する。

甲板上(かんぱんじょう)には2人巡回(じゅんかい)しているだけだった。

船内にいく扉を見つけた。鍵はかかっていないので、そっと中に入る。

中から大きな笑い声などが聞こえる。まるで宴会騒ぎだ。

その喧騒(けんそう)がする方へ進んでいくと、扉のない大きな部屋になっていた。

中の様子は酒宴(しゅえん)をしているようで、その一番奥に、

貴族風の男と偉そうな盗賊のような格好をしたのが並んで酒を飲んでいる。

周りには15人ほどいる。

ほとんど帯剣(たいけん)しており、魔法使い風の人間はいなさそうだ。

そっとボスらしき方へ近づく。


「フェーゲルの旦那よう、いつまでこうしてるんだ。」

と盗賊というかもしかしたら海賊なのかもしれない男が()いている。

「ゴドーよ、そう(あせ)るな。明日には、私の配下が残りの財産を持ってこちらに来る。それを持って帝国に逃げるとしよう。がはは」

「帝国さんは受け入れてくれんですかい。」

「当たり前だ。話はついている。俺がどれだけ帝国に情報を流したと思ってるんだ。それに俺が贔屓(ひいき)にしてやってた冒険者やお前たちも連れていくんだ。受け入れない訳が無かろう。」

そう言うと、酒をグビッと飲んだ。

「その冒険者ってさっき俺の配下を貸してやったやつらか。今日中に片付けたい仕事があるから人を貸してくれとか言ってたが、何の仕事やら。」

「なんだかんだ言っても、あいつらの情報は役に立つ。明日の昼には出発できる事だし、問題なかろう。」

「そうですかい。」

ここまで聞いて確定はしたが、一応、他も見て回る。

すると下に降りる階段がある。階段は2階と3階まであるようだ。

2階をぐるりと回ったが、15人程が眠っていた。ここは船員室のようだ。

更に下の階へ行く。

一番下は食料などの備蓄する倉庫になっているようだ。

いくつか区画が分かれており、全て扉で閉まっている。

1か所は、鍵がかかっていなかったが、何もない。

他の箇所は鍵がかかっているので、ノックの魔法で開けていく。

高価な物が置かれているようだ。

全て収納して頂いていく。ついでに食料も頂く。

この倉庫には何もなくなった。

そこまでして、一旦外に出る。

見つからない場所まで行き、魔法を発動させる。

「ミサイルプロテクション!」

「能力強化-全」

「ファイアーストーム!」

甲板上に炎の竜巻が一気に巻き起こる。

帆は一気に燃え上がり、マストも燃え出す。

船の上の見張りは炎の竜巻に巻き込まれて倒れていった。

埠頭にいた見張りは、突然の事に呆然自失(ぼうぜんじしつ)と言った感じだ。

その見張り達は我に返る間もなく、後ろから風の刃で切り付けられ、

2人(そろ)って倒れる事になった。

外の騒ぎを聞きつけて、中から船員たちが外に出てくる。

しかし、外には炎の竜巻が起こっていて、外に出られずにいた。

船はあちこちに飛び火し、燃え始めている。

出口付近で右往左往(うおうさおう)している船員に向け、ファイヤーボールを放つ。

大きな爆発と共に船内から出ようとしていた船員の多くは絶命し、

数人が重傷を負う事になった。

それでも何人かは何とか逃げる事に成功し、埠頭に降り立つことになった。

しかし、その喜びもつかの間、光の弾に撃ち抜かれ、

1人また1人と倒れていく。

この時になってようやく炎の竜巻は消えていった。

数人が、消火活動を始めていた。

しかし、その消火活動中の船員達に炎の玉が飛んできて、大爆発を起こす。

その者達はそのまま倒れた。

消火を(あきら)めたのか、次から次へと船から脱出してくる。

ここへきて、ようやく誰かに攻撃されていると判断したのか、

降りてきた全員が抜刀(ばっとう)して周囲を警戒している。

今は船が大火災を起こしているので、周囲は明るくなっているが、

他は暗くて見えないのだろう。

恐怖に(とら)らわれた者達は、自然と固まって警戒する。

ただし、この場合は最悪の結果を生むことになる。

暗闇の中から、この集団に向けて炎の玉が飛んできた。

ちょうど集団の中心地点で炎の玉は爆発をする。

その爆発によって、ほとんどが息をしていない状態になった。


辛うじて、3人程が幸運にも生き残った。

幸運というよりも自身の鍛錬の賜物(たまもの)

要はレベルが高かったおかげでダメージが軽減されたのだろう。

しかし、その3人の内の一人は、いつの間にか近づいてきた人間によって、

光の弾を撃たれて動かなくなった。

生き残った2人はフェーゲルとゴドーと呼ばれた男だった。

この2人は部下たちの後ろに隠れていたおかげでなんとか生き残ったようだ。

「た、助けてくれ。金、金なら出す。わしは貴族じゃ、な、金ならいくらでも」

そう懇願(こんがん)するが、相手は無言で近づいてくる。

悲痛な叫びをあげ、身を丸めて(かが)みこむ。

その近づいてきた者が頭に触れた途端、そのまま意識を失った。

そうしている間に、ゴドーは何とか立ち上がった。

そして持っていた剣を捨てた。

そして、両手を広げてみせて、何もないという格好をした。

「降参する。あんたが俺を殺す理由は無いだろ。な。」

それを聞いて、目の前にいる者は剣を仕舞(しま)った。

馬鹿が!

ゴドーはその瞬間、自分のベルトに隠していたナイフを

相手の顔にめがけて投げた。

この距離なら俺の投擲(とうてき)は百発百中だ。

そう、ほくそ()んだ。

ナイフは、思った通りの軌道で飛んで行く。

よし、当たる。

そう思った瞬間にナイフはその者の前ではじけた。

「な・・・」

言葉にならない。

そして、その相手はワンドを突き付けた。

急に意識が遠のき、暗闇に落ちた。

日を跨いだ話になってしまいましたので、

この後の話は、翌日扱いにします。


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