49日目 港町
●49日目(グリウス歴863年6月21日)
コンコンコン。
「アルス様、起きて下さい。」
コンコンコン・・・
もう時間か・・・。ふぁー。大きく欠伸をする。
「はい。起きました。」
扉の向こうに返事する。
「もうすぐ、儀式の準備が整います。急いでお越しください。」
そう声を掛けて去って行った。
急いで着替える。外はまだ暗い。リリーはまだ眠っているようだ。
仕方ないのでリリーは収納して出る事にした。
部屋は廊下の突き当りだったので、そのまま進んでいく。
その先には見習いシスターが待っていた。
「ご案内いたします。」
そういって、先導する。
どうやら、教会の地下に行くようだ。
そしてその先には、教会にはそぐわない金属でできた扉の前まで来た。
「私共はこの先に入る事を禁じられております。神官長はすでに入られておりますのでお進み下さい。」
そう言って一礼される。
扉を開けようとして手を触れたと同時に扉は勝手に開いた。
そのまま中に進むと、扉はすぐに閉まった。
中は魔法による明かりなのか、ほのかに見渡せた。
通路が奥まで続いている。
それを進んでいくと、少し開けた場所にでた。
そこでは、神官長と神官2人がおり、儀式の準備をしているようであった。
「アルスさん。魂封じの水晶をこちらに。」
そう言って、木でできた台に置くよう指示された。
水晶を置いた台を神官長が持ち、その奥の扉の前に立つ。
他の神官はこの部屋にある魔法陣の上に入り、何かを唱え始めた。
すると扉が開き、神官長は中へ入って行った。扉はすぐに閉まった。
神官たちはそれでも何かをずっと唱えている。
儀式の間、必要なことみたいだ。
何もすることもないし、儀式を邪魔するわけにもいかないので、
余計なことはしないよう注意した。
ただ立っているだけでは、疲れるので、座布団を引いて座る事にした。
直に座ると体の熱を持っていかれて風邪をひく恐れがある。
これは野宿でも同じだ。
なので、座布団を敷き、マントに包まって大人しくして待った。
どのくらい経っただろうか。
ウトウトしながら待っていると、ようやく扉が開く音がした。
顔を上げると、扉から神官長が出てきた。
そしてその腕には女の子?が抱えられていた。
その女の子は年齢的には4~5才くらいで、金髪の女の子だ。
「もしかして、ユミコさん?」
女の子は、コクンと頭を下げた。
「まだ、魂と肉体が完全に定着しておりませんので、暫く休ませます。」
と神官長は状況を教えてくれた。
「皆さん、お待たせしました。行きましょう。」
そう言って、女の子を抱えたまま歩き出す。
神官たちもそれに続く。俺も慌てて後を追った。
上に上がると見習いシスターが待っていて、女の子を連れて行った。
神官長達は食堂の方へ向かう。俺も神官長について行った。
食堂では食事の用意が出来ていた。
他の人達はすでに食事を済ませているようだ。
席に着き、お祈りを捧げる。
「我々もいただきましょう。」そう言って食事が始まった。
外を見る感じだともう昼になっているようだった。
リリーを出して起こす。
リリーは大きな欠伸をして「あるす、おはよー」と言っている。
寝ぼけているな。
リリーにも果物を出して、食事にする。
食事がすんだ頃、神官長が話しかけてきた。
「アルスさん、ユミコさんは暫くこちらで面倒を見ようと思います。ユミコさんは無事、肉体を得られましたが、長い間、封印されていたので、魂と肉体の融合に時間が懸かっているようです。しかも封印されている間に多くの魔力を吸い出されている為、魔力が安定していません。このままだと、魔力の暴走により、魂も肉体も砕け散ってしまう恐れがあります。それが安定するまでこちらでお預かりしておきます。よろしいですか。」
「よろしいも何も別にユミコさんは俺の物ではないし、ユミコさん自身が望んでいるなら特に問題ないですよ。」
と答える。
「それに同郷の者が苦しんでいたのを助けられただけでも良かったと思っています。ユミコさんには失った時間を早く取り戻せるように祈っていますよ。」
と付け加える。
食事が終わり、一旦部屋へ戻った。
さて、この後どうするか。王都に戻るか、ここまで来たら港町を見に行くか。
コンコン。
扉を開けると、見習いシスターがいた。
「アルスさん、先程のスープが少し残ってしまったので、いかがですか。コップにいれて持ってきたのですが。」
と手にコップを持っている。
「ありがとう、いただくよ。」そう言ってコップを受け取る。
「コップは後で食堂の方へ返して降りて下さい。」
そう言って去って行った。
スープに口を付けて閃いた。
そうだ。海産物を手に入れておこう。
昆布とか鰹節とかあったら嬉しいな。あとは塩。
向こうでは、かなり高かったから手に入れておいた方が良いだろう。
あとは、刺身が食べたい。醤油は無いだろうから、塩でも構わない。
もしかして魚醤はあるのか?
何にしてもいい加減、肉ばっかりの生活に飽き飽きしてたところだ。
これは港町に行くしかないだろう。
グビッと飲み干して、コップを返しに食堂へ行った。
そこに、見習いシスターがいたので聞いてみる。
「ここから、港町へ行くにはどのくらいかかりますか。」
と訊いてみる。
「そうですね。普通に歩けば半日もかかりませんよ。ただ、整備された道ではないですが、私達も結構使ってますよ。」
と答えが返ってきた。
今から急げば、十分夕方には着くな。
「神官長はどこですか。」
「今は、女の子の治療をしていると思いますが。急ぎなら、案内しましょうか。」
そう言ってくれたので、案内してもらった。
その途中で、神官長が向こうからやってきた。
「こんな所で、どうしたのですか」
と神官長は見習いシスターに問うてきた。
「アルスさんが、神官長に御用があるとの事でご案内いたしました。」
「ご苦労様です。仕事に戻りなさい。」
見習いシスターは一礼して戻って行った。
「アルスさん、どうされましたか」
「港町に行く事に決めました。それなので、出発の挨拶にきました。」
「フフッ。随分急ですね。分かりました。ではまたお会いできる事を祈りまして。」
そう言って、祈りを捧げた。
「では、お世話になりました。くれぐれもユミコさんを宜しくお願いします。」
「アルスさんもお元気で。」
「ばいばーい」リリーも挨拶する。
「では行こうか、リリー」
「しゅっぱーつ」
暫く普通に歩いていたが、気持ちばかり急いていた。
そして、いつの間にかリリーをひっ捕まえて
短距離のテレポートで移動していた。
街が見え始めたのは、教会を出て2時間後の事だった。
流石にいくら急いていても、テレポートを人に見られるのマズい。
そのくらいの理性は残っている。
ようやく、港町に着いた。
早速、出店などを回ってみる。
しかし、売っているのは普通のというか、他の街と何も変わらない。
なぜ?ここは、港町だろ。魚とかいないんだけど。
ま、まさか、魚を食べる文化が無いのか。
一応出店の人に訊いてみる。
「すみません。この辺に魚は売ってないんですか。」
「はあ?魚なんか売ってるわけないだろ。」
なにー!!!マジか。
本当に魚を食う文化がなかったのかぁ。
「えーと、なんで売ってないんですかぁ。」
とショックを隠し切れないように落ち込んだ声で訊いた。
「何言ってやがる。こんな所でこんな時間に売ってたら、腐っちまうだろうが。欲しかったら、朝市にでも行くんだな。」
「・・・朝市?」
「そうだ、朝市だ。向こうの港近くで毎朝、漁師が売ってるから、どうしても欲しいなら、そこで買え。」
「・・・ありがとう、おじさん。そうだ、これ買うよ。お金、はい。」
そう言って、銀貨3枚おいて、果物一つ持って行った。
後ろの方で何かおじさんが叫んでいるが、
今は朝市の場所を確認しに行かなくては。
「おーい、小僧。多すぎんぞー」
朝市が開かれている場所と思わしき所に来た。
なるほど、ここか。確かに出店が開かれていた跡が見受けられる。
この近くの宿屋を探そう。そう決めて、なるべく近い宿屋を探す。
すぐ近くにはなかったが、それでも一番近い宿屋に泊れることになった。
宿屋も確保できたし、時間もまだあるし、少し出店を見て回る事にした。
港町だけあって珍しい食べ物もチラホラとある。
ただ、どんな味かわからないので買わないが。
「リリー食べたい果物あったら、言ってくれ。」
そう言うとリリーは店から店へ飛び回った。勿論、透明のままで。
「りりーは、ねー、あれーあれーたべたーい。おいしそうなにおいするー」
リリーが食べたそうなものをそれなりに買っておく。
塩も売っていた。塩は向こうの1/4の値段だ。
ちょっとぼったくりじゃないかい。
塩もそこそこ買っておく。
乾物くらいないのだろうか。
それも朝市でしか売ってないのかなぁ。
それ以外は特にめぼしいものは無かったので、宿に戻る事にした。
今日の出費は金貨3枚だ。ちょっと塩買いすぎたかも。




