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アルスの異世界日記  作者: 藤の樹


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111日目 目指すはアクアン市

●111日目(グリウス歴863年8月23日)


チチチチ・・・

鳥のさえずりで目を覚ました。

「んーん。おなよう、アーくん。」

横を見るとアンジェが目を覚ましたようだ。

「ふあー、おはよう。」

マリアは目を覚まして大きな欠伸をした。

アンジェはガウンを羽織ると窓に行き、カーテンを開けて窓を開いた。

少し涼しげな新鮮な空気が入ってくる。

徐々に頭もすっきりしてきて昨日の事を思い出した。

アンジェとマリアも同様のようだ。

「マリア、ちょっと昨日のお香の箱、見せてね。」

そう言ってベッドから飛び起きて箱を見る。

「あっ。」

マリアは機先を制されて手を伸ばしたまま動けなかった。

箱の説明を声に出し読む。

「夫婦のマンネリな生活に新鮮な刺激を。お互い求めてやまない至高の香り・・・」

つまり、なんだ。これは所謂、催淫作用のあるお香というものだ。

「マリア、お前・・・」

「えへっ」

「これは、金輪際使用禁止。」

「えー、せっかく買ったのに。」

「き・ん・し」

箱をアンジェのほうに投げる。

「アンジェ、それ処分しておいてくれる。」

「ええ。」

アンジェも箱に書かれている内容をまじまじと読みながら返事をした。


着替えを済ませて3人で食堂に向かう。

リリーが途中で異空間収納の中から出てきた。

不思議なことにいつからか分からないが、

リリーは自分で異空間収納の中を行き来できるようになっていた。

異空間収納の中は基本的に時間が止まっているのだが、

リリーに言わせると中では意識だけが保てるようになったというのだ。

それで、俺たちが変なことを始めると騒がしいので

自分で異空間収納の中に潜り込むのだと言っていた。

「アルスたち、へんなにおいするー」

どうやら、お香の匂いが残っているようだった。

周りに変に思われないように、クリーンの魔法をかけて匂いを消した。


4人で食事をしながら、これからの事を話した。

「数日は、会えなくなるけど2人とも心配しないで待っててね。」

「アーくんの強さは信じているけど、無理はしないでね。」

アンジェは心配そうな顔をしている。

「アンジェは心配性なんだから。アーくんの強さは知ってるでしょ。

はっきり言ってこの辺りにアーくんに敵う様なモンスターなんていないわよ。」

「そうだけど・・・」

「私が心配なのはアーくんが討伐隊の責任者になってしまった事よ。いい、アーくん。兵士は戦うことが仕事なのよ。それで結果的に死んでしまっても、それは致し方ないことなの。それをアーくんが必要以上に責任を感じることはないんだからね。大規模戦闘で死者を出さないなんて基本無理な事なんだから。」

マリアのいう事は尤もだ。

だが、なるべく死なせたくないというのも気持ちの中ではある。

「大丈夫、分かってるよ。」

「ほんとかしら。それならいいのだけど。」

そういいながらも、マリアも心配してくれているようだ。


食事を終えて、4人で登城する。

城門の所でアンジェとマリアとは別れた。

俺は、あらかじめ言われている場所に向かった。

「アルス殿でいらっしゃいますか。」

練兵場に隣接している建物の前に立っている警備兵が話しかけてきた。

「ご苦労様です。アルスです。物資を引き取りに来ました。」

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ。」

そう言って、建物の大きな扉の鍵を開けて中へ通された。

今回、戦いに必要と思われる資材を受け取りに来たのだ。

加工までする時間はなかったので、資材だけ用意してもらい、

道中、スキルを使って作るつもりだ。

この建物は、屋内練兵場となっていて倉庫としても

兼用されている場所のようだった。

その一角に大量の木材や石材、鉄屑や鉄の板などをはじめ、

ロープや紐、布の他、油や水の入った樽などもあった。

急な要請にも関わらず、これだけの資材を用意してくれたモルガン公爵に

感謝しなければと思った。

「それと、こちらには素材が入っているそうです。全部集められなかったので申し訳ないと侯爵閣下から伝言です。」

「いえ、これだけの物資感謝しておりますと伝えてください。」

「はっ」

そう言って異空間収納に全て仕舞った。


次に向かったのは軍港である。

パルーアのメイン玄関である正面大橋は崩れていて

簡易な橋が架けられているだけだった。

ただ、今のところ人の行き来はないので、

この橋はあくまでも補修のために架けられているだけであったし、

また、帝国が攻めてくれば簡単に落とせるようにもなっている仮設の橋だ。

強度もそれほどでもないので、

馬車や大人数が通れるほどのものでもないため、

船で対岸まで運ばれることとなっていた。

港には250人の兵士とその関係者、数十人の人達が集まっていた。

関係者というのは勿論兵士たちの家族などではなく、

船員や搬入などの仕事をしている者たちと軍のお偉方である。


出立前にお偉方の訓示のような話があったが、

なぜいつも偉い奴は話が長いのだろうと思った。

そして、俺も兵士の前で話をするよう言われて今、皆の前に立っている。

兵士たちは部隊ごとに並んでいて、

先頭には壮行会で顔を合わせた面々が並んでいた。

「えー、では、簡単に。勝つための算段はしてある。全員生き残って無事パルーアに戻ってこよう。以上。」

あまりにも短い挨拶に一瞬呆けていた兵士たちだったが

疎らに拍手が起こると、堰を切ったように大歓声となった。

「総員、乗船せよ。」

高らかに出動の号令が掛けられた。


3隻の軍船が出港した。

3隻の内、1隻は輸送船で残る2隻が戦闘用の船のようだ。

戦艦の甲板で各隊長に集まってもらい作戦会議を行っている。

「まず、アクアン市の攻略は明日の早朝に行う予定だが、簡単に工程を言っておく。下船した後、槍兵部隊に先頭を行ってもらう。続いて後方支援部隊の馬車の一団、その直掩に弓兵部隊があたる。魔術師たちは馬車に同乗して警戒してもらい、殿を歩兵部隊に担ってもらう。後方支援部隊の先頭の馬車に指令本部として馬車に乗っている。同乗者は諜報部隊6名、残りは各2名ずつ槍兵部隊と歩兵部隊と同行すること。当面は伝令として働いてもらう。諜報部隊は本日の夜間より別任務を与えるので、交代で休むように。騎馬部隊とペガサスライダー隊は周辺の索敵及び野営地の候補地の調査をしてもらいたい。野営地はアクアン市より2、3時間で到達できる場所が望ましいが、安全性と多少火を使っても問題無い地を選んでくれると助かる。ペガサスライダー隊は明るいうちにアクアン市の状況を簡単に調査してくれ。ただし、両部隊とも戦闘は極力避けるようにいざとなったら、戦闘せずに撤退してほしい。野営までの工程は以上だが、何か質問は?」 

全員を見回して質問がないことを確かめた。

「では、上陸まで待機。以上、解散。」

全員が戻ったあと、残された俺はアクアン市の攻略に

必要な物を作ることにした。

長期戦を想定して防壁の作成に入る。

もちろんスキルを使った異空間収納の中の作業でだ。

1つ目は櫓の制作だ。まず、木材を使って、高さ2m、

3人が弓で攻撃できるくらいの大きさで作る。

木材では簡単に壊されるので円筒状に石材で囲う。

中は空洞になっているので梯子で昇り降りできるようにする。

張りぼてだが石造りの監視塔が完成する。

船が湖の対岸に到着するまでひたすら作り続けて5つの塔が完成した。

上陸には簡易桟橋が掛けられた。

そこを馬の調教師が慎重に一体一体目隠し状態の馬を引いて上陸させる。

この作業が思ったより時間がかかったが、無事全員が上陸を果たした。

そして準備も整い、進発する。

騎兵とペガサスライダー隊は索敵に先行する。

本隊はこのまま真っすぐにアクアン市を目指して進む。

俺は馬車の中でひたすら監視塔を作り、

最初の休憩までに10個の監視塔を作成できた。

小休止後、今度はスパイク付きのバリケードを作ることにした。

木材を使ったスパイクバリケードは槍のように尖らせた棒を

水平位置と斜め上に突き出す形で組んでいく。

このバリケードは監視塔との間に設置して簡易な要塞を作る計画だ。

ただこの拠点はあくまでも継戦能力を高める為に作るので

防衛力はそれ程高くはないが

怪我人の治療や休息できる場所があるかないかでは全く違うのだ。

休息も終え再び進軍を開始した。

進軍の途中で、ペガサスライダー隊の偵察の報告が入ってきた。

アクアン市の状況はゴブリンやオーガ以外のモンスターは確認できなかった。

ただゴブリンの中にダイアウルフに乗ったゴブリンもいたので

ゴブリンライダーもいるとの事だった。

ただ、昼間の外にいたモンスターだけなので

他にもいる可能性は高いという事だった。

また、暫くすると騎馬隊の偵察も帰ってきた。

野営地が見つかったと報告が入った。

そこは林が隣接している小屋があるそうだ。

そこでなら火を焚いても煙さえ気を付ければ大丈夫そうだという。

騎馬隊の先導のもと、部隊をそちらに向かわせた。

その間、バリケードも想定数を完成させたところで、

いつの間にか野営地に到着してしまった。

「アルス様、このまま野営の準備に入ってもよろしいでしょうか。」

槍兵の隊長がやってきた。

「そうしてくれ。くれぐれもアクアン市のモンスターに悟られないよう十分注意してくれ。」

「はっ、了解しました。」

それだけを確認すると槍兵の隊長は指示を出しに戻った。

気づけば、もう夕方に差し掛かるころだ。

騎馬隊もペガサスライダー隊も偵察から全て戻ってきている。

そこで、各隊長に集まってもらい、軍議を行うことにした。

「皆、ここまでご苦労様でした。まず簡単に説明すると夜明けとともにアクアン市へ向かう。その際、後方支援部隊はここに一部護衛を残して待機してもらう。バリケードを用意しているので歩兵槍兵弓兵から3名ずつ、回復を使える魔術師を1名合計で10名があたってもらう。アクアン市への先鋒は俺の方で用意しているゴーレムを突撃させる予定だ。ゴーレムならばトロールやジャイアントとも互角に戦えるし、オーガ相手にも当然引けを取らないはずだ。ペガサスライダー隊はゴーレムの動向を監視していてほしい。それというのも、アクアン市の中に統率しているモンスターがいるかどうかで戦況が大きく変わる。もしいなければ、ゴーレムに対抗する術を持たないゴブリンは戦意を喪失して散り散りに逃げ出すだろう。もしそうなったら、各部隊で駆逐して行ってほしい。だが、深追いする必要は全くない。俺たちの目的はモンスターの殲滅ではなく、アクアン市の解放だという事を忘れないでほしい。もし、統率するモンスターがいれば、ゴーレムに対して何かしら有効な手立てを打ってくるはずだ。もしそのような兆候が見えたら、すぐに報告をしてほしい。頭さえ潰してしまえば、それほど士気の高くないゴブリンなどはどうとでもなるだろう。あと、先ほど、深追いする必要はないとは言ったが、後方支援部隊のほうに逃げようとするモンスターは確実に殲滅してほしい。ざっと説明したが、何か質問は?」

騎馬隊の隊長が手を挙げる。

「我々はどのようにすればよろしいか。」

「騎馬隊は遊撃に回ってほしい。特にこちらの部隊の横を抜けるような行動をした敵を殲滅してくれ。」

「了解しました。」

「後方支援部隊の隊長にはあとで部隊が出払った時に必要なバリケードの数を申請してくれ。その数だけ置いていく。」

「かしこまりました。」

「では簡単だがこれで軍議を終了する。解散。」

「アルス様、アルス様のテントを張り終えましたので、こちらでお休みください。」

後方支援部隊の隊長がテントまで案内してくれて、テントに入る。

テントと言ってもその中は6畳ほどの大きさのある大きなテントだ。

そこに入り、軽く食事を取ってから、仮眠する事にした。

兵たちには気を付ければ火を使うことも許可しているので、

それなりの食事を取れるはずだ。

明日は忙しい一日になりそうだ。


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