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空の子  作者: そうじ
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アデとの闘い

 コウとアデが対峙している。

 アデは相変わらずの嫌みな笑いを見せながら、巨大なやみを纏っていた。

 「ところで? ゲンどのは、今日もお近くにはおられないようですねえ。残念ですねえ。どうやら、ゲンどのも、ご自分のことでお忙しいようで、母上の加勢にはなれないようですなあ。まったく使えぬ輩でございますな」

 コウはまっすぐにアデを見ていた。

 「おお。怖い怖い。私を消すおつもりで。ですが、さあ、果たしてこのアデを、かわいいわが子を消せますでしょうかねえ。母上」

 コウは黙ったままであった。

 「ああ。そうでした。母上、などと言うと、お怒りになりましたな。ええ、ええ。私はアデではないと。アデの『影』であると申されましたな」

 コウは両手を地にかざし、ゆっくりと広げていった。

 (まさか、コウめ、やみひとを呼ぼうとしているのか?)

 アデは心の中でぎくりとしながら、ことばは余裕を装った。

 「何をなさるかと思えば、清廉な巫女さまが、そんなことをなされてはいけません。そういう罰当たりなことは、サクさまだけで十分でございましょう?」

 アデは素早く計算した。

 陰、土、水の意識体がコウについたとしても、いまではその数は少ない。大した力ではない。大丈夫だ。コウはからだを傷つけようとしていない。たとえ、やみひとがコウの力に呼び寄せられても、妖と魔の意識体は私の配下。コウにはつかない。

 コウは笑った。

 「心配するな。おまえの考えていることはしない」

 「ではなぜそのようなしぐさを」

 「おまえを呼び込むのだ」

 「え」

 「おまえもやみひとであろう、アデ」

 「名前を? あれほどアデではない、と仰っていましたのに。これはこれは。そんなことで私を油断させようとしていらっしゃるので?」

 「確かに、おまえはただの影だ。しかし、盗んだとはいえ、アデの記憶を持っている。だから、おまえはアデの一部だ」

 「それはそれは。広いお心でございますなあ」

 「アデよ。おまえを私の中に取り込む」

 「はは。まさか、そのようなことを」

 「私はアデをいまも愛している」

 「ははは! 愛ですと? たわけたことばを」

 「だから、アデの一部である、おまえも愛している」

 「なにを・・・」

 「アデよ、私の命となれ」

 影は、コウに呪縛された。ただ、アデの記憶を持っているという事実がそうさせたのであった。

 コウは両手の大きく広げ、祈りをささげた。

 「我は、やみの一の子、更である。やみの神よ、汝が僕、アデを、我に返し給え」

 悲鳴があがった。

 「ぎぃああああ」

 コウの悲鳴であった。影は、コウの全身を傷つけた。アデの抵抗がびしびしと体にたたきつけられた。

 「これでも、私を受け入れるのか!」

 アデはそう叫んでいた。コウのからだから流れる血は、アデが纏っていた妖の意識体を目覚めさせ、コウにたかった。

 激しい痛みに耐えながら、コウは近づくすべての意識体を体に取り込んだ。激しい痛みによって、コウの意識はもうろうとなった。


 コウの意識に遠い過去のアデの面影がよぎった。


 アデ

 アデ

 気がせいている

 早く、早くしなければ

 ああ、間に合わない

 急いで急いで

 とにかく、あの子を

 真っ暗だ

 せまい

 苦しい

 そのとき、目の前に白いものがよぎった

 ひらひらとよぎった

 光?

 清らかな、はかない光

 またひらひらとよぎった

 すると、ざあっと音がして、いちどに視界がひらいた!

 かよわい光がいちどに飛んだ

 飛んだ

 飛んだ

 無数の白い蝶

 神の光が空に戻っていく

 地面には一面にしろつめ草

 地味な花たちが無数に集まって

 華やかに咲いている


 ぽつねんと一人の少女がいた。

 長い髪の先が、風になびいてひらひらと揺れた。

 「アデ・・・!」

 そう呼ぶと少女はぱっと振り返った。

 「母上! ほら!」

 そういって少女はしろつめ草の花束を誇らしげに掲げた。

 コウはしばらく立ちすくんだ。

 巫女たるもの、勝手な行動は許されない。

 もしも、おまえの命に関わることがあれば、

 空の神の計画は台無しなのだ。

 みつけたら、どんなに叱ろうかと思って憤りがあった。

 が、その顔を見たとたん、慈しみがあふれた。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 アデ、おまえさえ無事であれば。

 空の神のお叱りはすべて私が受けよう。

 おまえの代わりに、私がやみに堕ちよう。

 おまえさえ無事であれば。

 アデはにっこりと笑って、小さな頬がくいっとあがった。

 頬の真ん中にえくぼができる。

 額には青あざがあった

 昨日、コウが激しくぶったために、柱に額をぶつけたのである

 その青あざもあわせて笑っている。

 アデのまわりにはひらひらと光が舞った。

 光、いや、それは紋白蝶であった。

 コウは笑顔を見せるアデを見た。

 アデはコウの胸に飛び込んでくる。

 小さい肩をすっぽりとコウの懐に入れた。

 薄いからだが吸い付けられるように、

 母の胸にぴったりと寄せられた。

 はかない温かさ。

 少しでも力を入れれば、ぐしゃっとつぶれそうだ。

 しかし、コウは力を入れて抱きしめずにはいられなかった。

 しろつめ草の匂いがぷうんと漂った。

 「母上? お泣きになっているのですか」

 「そうだ」

 「なぜでございますか」

 「蝶が・・・」

 「蝶?」

 「紋白蝶が、・・・空の神の光のようだ」

 「ええ、・・・ええ! まるで母上が放たれる光のようです」

 「そうか」

 「私も早く母上のようになりとうございます」

 アデは小さい手でしっかりと白詰め草を握っていた。

 ああ、この純真を私は裏切らねばならない。

 神よ、あなたはどうしてもこの子をお選びになる、というのか。

 コウは涙を流しながら、アデの頭をなで続けた。

 額の青あざがぷっくりと腫れている。

 少しふれるとアデの顔が少しゆがんだ。

 「痛いか」

 「いいえ」

 アデは、蝶を懸命に目で追いながら答えた。

 「そうか」

 コウはふふっと笑った。

 アデはきょとんとしてコウを見あげた。

 母が笑っている。それがうれしくて、アデも笑った。

 ふたりは淡い陽だまりの中で、蝶に囲まれていた。

 コウはもう一度、ぎゅっとアデを抱きしめた。

 アデは、ゆっくりとコウの胸の中に入っていった。


 気が付くと、そこにはアデはいなかった。辺りの気が清浄になっていた。

 (ああ。アデは私の命となった)

 そう思ったとたん、心臓がぎりぎりと痛んだ。コウは胸を抑え、がくりと膝を落とし、大量の血を吐いた。

 (もう、時間がない。急がねば)

 焦る気持ちとは裏腹に、からだは、吸い込まれるように地に伏せた。


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