『アリデード』16 生まれ変わらなきゃ巡り会えない
「俺もお前に聞きたいことがある。どうして俺がエンピレオにいることがわかったんだ。どうしてあのタイミングで助けに来てくれたんだ」
俺が死刑に等しい牢獄であるエンピレオに入れられたと知っているのは、アスガルドの人間に限られるはずだった。なぜそれをエスタが知っていたのか。助けに来てくれたときは混乱のあまり疑問がうやむやになっていたが、落ち着いてから考えてみると、どうにもわからないことばかりだ。
「人から聞いた」
はっきりとした口調で彼女は言った。それが誰なのか、誤魔化す気も隠す気もないのだろう。
「誰だ」
だからこそ俺も直球で聞いた。ハガラズの下におかれたということは、おそらく俺の管理は軍部がしていた。となれば情報源は一般人ではなく軍部の人間だろう。
エスタとアスガルド軍が繋がっている。その事実は少なからず俺に衝撃を与えたことも事実だった。
「君の死体を探していたときに出会った人。でもその人は、詳しいことはなにも教えてくれなかった。どうして君がエンピレオに入れられたのか。助けに行ったところで本当に君を助けられるのか」
「よくそいつの話を信じたな」
「写真を、見せられたから」
「写真?」
「笑っている君の、写真」
心臓が凍り付いた。俺の写真だと。そんなもの撮ることの出来る人間なんぞ、限られている。
「アスガルドの軍服を着た人間、きっと君の言うハガラズとか言う人間だと思うんだけど、その隣で笑っている君、幸せそうに微笑んでいる君」
そうか。俺は小さく息を吐いた。
「……ヒーロゥか」
「確かにそう言ってた。ヒーロゥ・イサ・ティタニア」
腑に落ちた。というよりも、彼なのではないかという気がしていた。なにせ、エンピレオまで俺を救いに来てくれたのが、彼なのだから。ヒーロゥ・イサ・ティタニア。原動アスガルドの大佐。
「幸せだったの、アスガルドで」
「どうだろう。でも、うん。ごめん。幸せだったのかもしれない」
「別に謝れなんて言ってない」
でも、エスタの声色は確かに怒っていた。自分の心に嘘はつけないとはこういうことなのだと、改めて思い知らされてため息が出る。
はっきりと思う。俺は幸せだったのだ。けれど、そう言い切りたくない曖昧な言葉は、後ろめたいからだ。
誰に。
死んでいった仲間たちに。
仲間を、家族を、故郷を奪った人間と仲良くやっている。その事実だけで裏切り行為に等しいのだろう。本来ならば、殺し合った人間同士が和解するには、長い年月が必要に違いないのに、俺は彼らと肩を組んで笑い合っていたのだ。だが、彼らだって好きで攻めてきたわけではないはずだ。それが命令で、彼らが軍人で、それが仕事だったから。
これは言い訳になるのだろうか。笑い合うことを許して貰うこじつけになるのだろうか。俺は確かにアスガルドの人間を許したのだろうか。そもそも、俺が彼らを許すべき立場にあるのだろうか。それは高慢なのではないのだろうか。
もし、ハガラズが俺にとってなんの意味も持たない、ただの原動アスガルド将軍だったら俺は笑えていただろうか。特別な意味を持っていたからこそ、俺は許す気になったのだろうか。もしハガラズが俺の……。
 




