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廻天列系における輪廻の格律  作者: トトホシ
廻天列系における逃走の格律*アストロラーベ*

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『リート』4 そこに敵機襲来

 おまるに見送られながらドアを開け、玄関から一歩外に踏み出した俺の姿を、春の太陽が照らす。突如として飛び込んできた白い光に思わず眼を細め、反射的に顔を伏せて身を縮めた。

 日光は眩しすぎる。ニポンは黒髪人口が多いが、髪の白い人間もそこそこいるから、俺の姿はそれほど目立ちはしないだろうけれど、それでも明るい日にはできるだけ出歩きたくない。


 エンピレオにいたころは逆に夜が怖かったことを思い出す。


 地球に来てそう日にちも経っていないのに、俺はあらゆることに鈍感になった。平穏な日々に慣れつつある。それが良いことなのか、そうでないのかはわからない。理由はどうあれ、俺は追われている身だ。常に気を張っていないといけない。

 けれども殺される心配のない日常というのは正常な日常だ。そのことに慣れることは至極当たり前のことではないか。


 けれど。


 どろどろとした感情が複雑に絡みあい思考を圧迫し、正常な判断を妨げようとする。どうすることが一番正しいのか。今はなんだかよくわからない。それでも、慣れてしまった仕事をこなそうと、ふらつく足がいつもの戦場スーパーアークスへと体と運ぶ。


 俺は考えることをやめ、太陽に向かって挑むように顔をあげ、歩き始めた。


 ま、なるようになるもんだ。なるようにしかならねぇって言い方もできるけどな。


 無事戦場にたどり着き、押と書かれた両開きのドアをわりと渾身の力でこじ開けて、買い物かごを手に取り、その奥にある第二のドアである自動ドアの前に立った。センサーの感度が悪いのか、ワンテンポ遅れてから自動ドアが開く。

 自動ドアが開くのが遅いと、俺、もしかして自分で気が付いていないだけで死んでるのではないのか、とか思ってしまうからやめて欲しい。


 いつものように足を踏み入れたスーパーは、特売日だからであろう、普段よりもとても混んでいた。


 灰色の買い物かごを片手に、メモ通りの商品を次々とかごに投げ入れる。もやし、小松菜、一本二十九円の人参も三本買おう。じゅんさいとか正体不明な食べ物も気になるから試してみよう。どれだけ過酷な環境下でも虫だけはたべられなかったが、植物ならたいていのものは食べてきた。だからなのか新しい植物を見ると、好奇心がかき立てられる。


 地球の食品を物色しながら、生鮮食品コーナーを過ぎ、次の戦場に足を踏み入れようとしたその時だった。


「ドッペルゲンガー!」


 賑やかな店内にひと際甲高い声が響いた。客たちが一斉に声のする方に視線を向ける。

 俺も反射的に声のする方に目を向けてしまった。だが、顔を向けてしまってから後悔した。知らん振りをしておくべきだった。顔を確認せずとも、声と影と形と雰囲気で、それが誰だかわかってしまったからだ。


 俺をドッペルゲンガー呼ばわりする奴はオマタとそいつだけしかいない。


 女が大股開きでずんずんとこちらに歩み寄ってきた。


 こっちくんな。


 思いっきり苦い顔をしてやったが、そんなことお構いなしで、その女、オマタの元彼女がものすごい形相でこちらに近づいてくる。寄って来るだけでものすごい風圧に吹き飛ばされそうな迫力だ。目が合うほどに近くに来たが、思わず顔を逸らす。


「あなた!」

「あぁ、あんときの」


 なるべく平静を装って返事をしてみたが、本当はとっても怖い。全身の毛穴から嫌な汗が吹き出てきた。今すぐ穴掘って地中深くに逃げたい。ヒステリーの女怖い。なんで平和なはずのチキウのスーパーで、こんなメスゴリラにすごまれなきゃならないんだ。俺何にもしてねぇぞ。お客さんが見てるだろうが。こんなところで大声出されても迷惑ですよ、って顔してるのに気が付け。


 と思ったらその女、急にしおらしくなって目を伏せた。


「あの、違うの、ごめんなさい。怒りたいわけじゃないの」


 渾身の迷惑顔に気がついたのか、先ほどまでの威勢のよさもどこへやら、思いつめたような顔をして視線を反らしたその女に、俺も思わず、え、あ、そか、と頭を下げた。


「あの時は、私も興奮してて」

「うん、まぁ、そうだよな」

「ヒトトセ、頭の怪我、大丈夫かしら」

「ああ、んと、アンタのせいで頭蓋骨骨折したから、もうあんな凶暴女には会いとうないって言ってた」

「嘘ね」

「なんでだよ」

「ヒトトセは私が悪くて喧嘩しても、私の悪口は絶対言わないもの」


 なんかムカツク。


 この女、アキだとかいう名前だったか、が睨むように俺を見てくる。こうして近くで見ると標準的な女よりも背が高い。つまり、俺より高い。そのうえ持って生まれたものだろう、立っているだけでにじみ出てくる威圧感がある。  


 オマタの野郎、悪口を言わなかったのではなく、言えなかったと考えた方が正解だな。


 いつのまにか周りにいた客たちは何事もなかったかのように、こちらから視線を外して、またそれぞれの買い物に戻って行った。ただの痴話喧嘩だと思われたのかもしれない。

 それはそれでラッキーだ。今の俺は宇宙人でもドッペルゲンガーでも前科一犯の脱獄犯でもなくて、善良ないち地球人という立場だからな。

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