児童刑事ジーパン
「お前さんたち、なにをやってるのだわさ?」
部屋に入ってきたのは、魔法機動隊の制服を着た女性だった。制服といっても、青と黒のコントラストが目立つ、冒険の探検家が着るような丈夫な服である。それが体を大きく見せた。背が高く、天井に頭が届きそうなくらいだった。
「着任早々《ちゃくにんそうそう》、大さわぎだわね――。二人とも、ケンカはやめてちょうだい。桜サニー巡査長、友好子巡査」
彼女こそ、この小隊をまとめる隊長の渚 黒子であった。
好子とサニーは、それぞれが自分の言い分を、彼女へ話した。彼女はうなずくようにして、部下たちの話に耳を傾けた。
見た目が40歳を超えていそうで、大柄な黒子は、その声も太く大きかった。「――事情は分かったわさ。サニー、これはお前の説明不足によるものだわな。この子はまだ、ここに入ってから一日もたっていないのだから、マジカル死帳を知らなかったとしても、仕方のないことなのだわ」
「マジカル死帳?」
好子にとって、その言葉は初耳だった。
何かの魔法道具らしい。
「サニー、マジカル死帳について、説明してやりなさい」と黒子が命令すると、サニーは立ち上がって、説明を始めた。
「マジカル死帳とは、魔力が込められたノートのことよ。昔から、暗殺の道具として使われた来た。そこに名前を書くと、本名を書かれた人は死ぬわけ。マジカル死帳を使えるのは、魔法少女のみよ」
そんな危険なものがあるなんて……。
何も知らなかった好子は、背中から汗が流れるのを感じた。
生まれて初めて感じる恐怖だった。
自分の名前が魔法少女に知られるだけで、身を危険にさらされることになるからだ。
サニーが、さらに説明を続ける。「私たちが相手をする者の中に、魔法少女もいるわ。偽名やニックネームを敵に知られても大丈夫よ。……でも、もし、万が一、本名を知られることがあれば、その時は敵の魔法少女たちに殺されてしまう。本名を知られないように、魔法機動隊の隊員たちは、ニックネームで呼び合うのが通例なわけ。わかる?」
「わかりました……」と好子がしょんぼりして肩を落とした。
黒子が好子の方を向いて、語りかけた。
「だから、私たちは、新人にニックネームをつけてあげるのが習慣なのさ。あなたは今日から、ジーパンと呼んであげるわさ」
そうなのか。私はジーパンと呼ばれる運命だったのか。
ん?
まてよ――。
「ひょっとして、ジーパンじゃなくても、ほかの名前でもいいんじゃないですか。――例えば、『セーラー服美少女戦士』でも?」と好子が案を出した。
「そもそも、あんた、セーラー服を着てないでしょ」と好子の服装を眺めたうえで、サニーが冷ややかに言った。
好子は負けじと聞いた。
「じゃあ、先輩のニックネームはなんですか?」
「私はサニーよ。だけど、名前の表記が、カタカナの『サニー』じゃないわけ。私の本当の名前は、かなり難しい漢字を書くの。わかる?」
「ちなみに、私は『17歳の魔法少女』と呼ばれているだわさ。今度からは『17歳さん』と呼んでちょうだい。『じゅうななさい』よ」と目尻にシワを寄せながら、黒子が念を押すように言う。
こうして、好子は「ジーパン」と呼ばれるようになった。
その日、事件は起こらなかったので、午後8時に、小学生の好子とサニーは帰らされた。




