第08話 めざせ、パラダイス!
「ライトニング・ボルト! アホは死ぬ!」
突き出した右の人差し指から稲妻が走る。
それは、私の行く手に立ち塞がったアホ三人で弾け、ばちばちと閃光が瞬いた。
「……ご主人、容赦なさすぎ」
隣で、コジューローが何か言っているが気にしない。
林が点在する起伏の少ない草原の街道。
いつの間にか、三人組の男が前方にいた。
素知らぬ顔でやり過ごそうとしたけど、案の定だった。
「ようよう、お嬢ちゃん。一人かい?」
「へへっ、女の一人歩きは危ねえな」
「お兄さん達が安全なところまで連れてってあげるよ」
この時点で、黒。
戦いは先手必勝と師匠に教わった。
私は、その教えに従っただけだ。
「つまり、私は悪くない」
「ご主人とお師匠、本当に似た者同士だよな」
だが、盗賊(仮)の気持ちも分からないでもない。
なにしろ、私は美少女だ。
いや、十八歳になったから、美女かな。
腰まで伸びた銀髪に、翠眼。
ブラは、Dカップ。
AAAカップだった前世に、さようならバイバイ。
ウエストはくびれ、お尻は大きい。
前世では窮屈さを感じていた補正下着は、もう要らない。
そんな美女が、街や村から遠く離れた街道を一人歩いている。
盗賊(仮)にとっては、カモでしかない。
「……何してんだ?」
「コジューローも、早く懐を探りなさい。
わざわざ硬貨が溶けないように出力を抑えたんだからさ」
アホどもが。
本当のカモは、お前らの方だ。
爺と別れ、今日で五日目。
アホどもを殲滅するのは、これで六度目だった。
「ご主人……。本当に貴族だったのか?」
「お黙り! お金は大事なの!」
街道の平和は守られ、私の懐は潤う。
誰も損をしない素晴らしい結果だ。
******
「ほら、きりきりと引きなさいよ!」
パンツ一枚で荷車を引く、アホ三人の一人に人差し指を向ける。
「ぐえっ!?」
小さな雷撃が走り、バチッと音を立てて、アホに命中。
背中を丸め、とぼとぼ歩いていたアホの背中がぴんと伸びた。
「ひ、酷い! い、一生懸命、頑張ってるのに!」
「あ、姉御、勘弁してくださーい!」
左右のアホ二人が非難する。
「誰が、姉御よ! 私は盗賊団のボスか!」
「ひいっ!?」
荷台に乗る私は人差し指を向けた。
ただ、それだけで荷車の速度は増した。
さて、私が何故にこんな事をしているのか。
それを語らねばなるまい。
最初に言っておくが、私もこんな事はしたくないのだ。
「どっちかって言ったら、看守かな?」
「お黙り!」
「お師匠が話してくれた、鉱山奴隷の見張りでもいいよ」
「お黙り! お黙り! お黙り!」
でも、歩くのに疲れた。
荷車が街道に落ちていた。
アホが三人にいた。
だから、有効利用しているに過ぎない。
「も、もう悪いことは二度としません!」
「か、神様に誓います!」
「こ、鉱山送りだけは、お許しを!」
なにしろ、これから私の旅は長くなる。
温存できるものは、温存しておかなければならない。
城を脱出後、泣きつかれて眠ってしまった私が目を覚ますと、大河のド真ん中だった。
昼過ぎ、ようやく村が岸に見えた。
魔術を水面に打つ事で舵を取り、上陸してみれば、そこは隣国を越えた先の隣々国である。
私は途方に暮れた。
「それは、あなたたちの働き次第ね。
でも……。鉱山奴隷って、いくらで売れるのかしら?」
「チャー兄っ!?」
「おう、シュー、メン! きばるぞ!」
「えっほ! えっほ! えっほ!」
爺が残してくれた手紙には、こうあった。
今生の父と盟友の、ガンダーラ侯爵を頼れ、と。
爺の辺境伯領がラバマ王国の西の端なら、ガンダーラ侯爵領はラバマ王国の北東の端。
この時点で、かなり距離が離れている。
そのうえ、隣国はラバマ王国の西なら、隣々国はさらに南西だ。
超とおい。めげる。
「でもさー、いつも盗賊が襲ってきてくれるとは限らないよ?」
「そうよねー……。なにか楽して稼げる方法ないかしら?」
それに、逃亡中の身のため、大河沿いに戻り、ラバマ王国を縦断する最短路は使えない。
捕まりに戻るようなものだ。
ガンダーラ侯爵領へ行くには、東に走る山脈を大きく迂回し、その先々にある五カ国を渡ってゆくしかない。
どう考えても、年単位の旅路となる。
「姉御、一旗揚げましょう!」
「そりゃ、名案だ!」
「天下、穫れるっス!!」
「私は、盗賊王になる!」
当初、飛行魔術が使えるのだから、空をスイスイと飛んで行ったら楽だと考えて実行した。
だが、飛ぶ先々で眼下の者たちがこちらを指さしているのに気付き、私は師匠の言葉を思い出した。
飛行魔術が使える魔術師は稀。
それを長時間に渡って使える魔術師は、もっと稀。
目立ちまくった結果、私の存在が噂となってラバマ王国に伝わってはまずい。
追手を差し向けられる可能性がある以上、歩くしかなかった。
「……って、アホどもめ! 反省が足りない!」
「ぐぎゃーーーっ!?」
「酷いなー……。自分で乗っておきながら」
爺が残してくれた食料は、節約して一週間分。
金貨もたくさんあったが、一般的に流通している貨幣は銀貨と銅貨である。
大きな街でしか使えないし、一度に多く使ったら、やっぱり目立ってしまう。
私は、お金を稼ぐ必要があった。
つまり、アホどもを狩るのは正しいのだ。
「まあ、真面目な話。お金を稼ぐアテはあるのよ」
「どんな?」
「冒険者よ、冒険者」
「あーー……。お師匠が言ってたね」
では、そこまで苦労を重ねて、ガンダーラ侯爵領へ行く意味はあるのか。
爺の手紙には、ガンダーラ侯爵を頼れとあったが、その続きもあった。
別の新たな地で、新たな人生を歩め、とそちらを強く望んでもいた。
「師匠みたいに、ちょいちょいとやって、ランクアぁーーップ!」
「お師匠の真似をしたら、魔術学園に追われるよ?」
「ドラゴン倒して、一攫千金ドーーーン!」
そんな爺に伝えたい。
労働は、クソだ。
私は、ガンダーラ侯爵の保護下に入り、再び『ニート』で『引きこもり』な『パラダイス』を手に入れるのだ。
「姉御、どこまでも付いていきます!」
「いや、あんたたちは要らない。取り分減るし」
「そんなーー……。」
そのためなら、どんな苦労も私はいとわない。
行くぜ、ガンダーラ。
待ってろ、ガンダーラ。
――第一部、完。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。




