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元悪役令嬢、ニートを目指して世界を放浪中  作者: 浦賀やまみち
第一章 始まりと、もう一つの始まり

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第01話 断罪の舞踏会




「痛っ!?」



 突如、左頬に涙目になるほどの痛みが走った。

 それに我を取り戻すと、私は見知らぬ場所にいた。



「いつかは解ってくれると我慢してきた!」



 頬を強かにぶたれたのだろう。


 ひりつく痛みの残る左頬に手を当てる。

 じんじんする。



「だけど、もう限界だ!」



 しかし、痛み以上に、訳が分からない。


 なぜ、私が頬をぶたれなければならないのか。

 お父さんにもぶたれたことないのに。



「この三年間、君が彼女にしてきた数々の理不尽な仕打ち!」



 ただ、私を指さしている金髪のイケメンが怒っていることだけは分かる。

 言われている内容は、まったく身に覚えがない。



「えっ!?」



 目をぱちぱちとさせる。

 ぶたれた衝撃で崩れた体勢を戻し、正面を見た、その瞬間。



「ひぃっ!?」



 小さな悲鳴があがった。

 黒髪の美少女が、金髪のイケメンの背に隠れる。


 こちらをおそるおそる窺う目は、涙目だった。



「まっ、当然だよな」

「処置なしなのである」

「さすがにもうかばえませんね」

「むしろ、遅すぎ」



 呆れ声が四つ、続いた。

 金髪イケメンと黒髪美少女から少し離れた場所に、さらにイケメンが四人もいる。


 全員が静かな怒りを、私に向けていた。



「……えっ!?」



 戸惑いは、深まるばかりだった。

 頭の中がクエッションマークでいっぱいになる。


 救いを求め、周囲に視線を巡らす。

 私達を中心に、少年少女たちが輪を作っていた。


 年の頃は中学生ほどだろうか。

 彼ら彼女らは、時代錯誤な衣装に身を包んでいる。


 そして、気づく。



「……へっ!?」



 私自身も、中世ヨーロッパ風だった。


 いや、彼ら彼女らよりゴージャス。

 光沢のある青いサテン地の肩出し、裾広なドレス。

 真っ白な羽扇を、右手に持っていた。


 頭上を見上げると、大きなシャンデリアが輝いている。

 少し遅れて、『舞踏会?』という単語が浮かんだ。


 視線をさらに広げると、ここがダンスホールであることは疑いようがなかった。



「いや、待って。……うん、待って」



 私は、お弁当工場で働くアラサー女だ。

 ベルトコンベアで流れてくるお弁当の主菜の下に、焼きそばやパスタを乗せる仕事をしている。


 仕事が終わればスーパーで、半額プライスになった夕飯を買って帰る。

 休みの日はゲームや漫画を消費するだけの生活。


 常日頃の友人はいない。

 高校時代の友人とは、今では年に数回会えるかどうかだ。


 親からはたまに結婚の話を振られるが、出会い自体がない。

 昨夜も、風呂上がりにストロング系の酒を飲みながら、愚痴をこぼしていた。



(幼稚園の頃、結婚するって約束したのに!)


(高校のとき、転校しても会いに来るって言ったのに!)



 盛り上がるあまり、スマホから消せないでいる高校時代の彼で自分を慰めたのを覚えている。


 つまり私は、確かにワンルームの自室にいたはずだ。

 中学校のときのジャージ姿で。



「いいや、待たない!」



 金髪のイケメンが声を張り上げた。



「今、この時をもって!」


「私、ラバマ王国王太子、ルパート・テ・アトキン・ミットフィート・ラバマは!」



 一拍置き、続ける。



「オブライエン侯爵家令嬢、アメリア・テ・ベアトリス・オブライエンとの婚約を破棄することを、ここに宣言する!」

「えっ!? それって……」



 思わず声が漏れる。

 混乱がさらに重なる。


 なぜなら、その名前は知っていた。


 何度も繰り返し呼び、覚え、口に出していた名前。

 私が沼にハマった、乙女ゲームの登場人物たちの名前だ。



(じゃあ、この人が王子で……。)



 金髪イケメンを見る。



(あれがヒロインで……。)



 金髪イケメンの背後にいる黒髪の少女へ視線を向ける。


 そして周囲のイケメンたちは攻略対象キャラ。

 頭の中で、点と点が繋がってしまう。



「じゃ、じゃあ、じゃあっ!? わ、私の最推しはっ!?」



 慌てて背後を振り返る。

 そこに『もう一人いるはずの攻略対象』を探そうとした、その時だった。



「彼女を別室へお連れしろ!」

「えっ!? ……ええっ!?」



 金髪イケメンの命令と同時に、屈強な男たちが現れた。

 鎧姿の騎士たちだった。



「むむっ!? むむぅーーーっ!?」



 彼らは背後から私に猿轡を噛ませ、左右から腕を拘束する。

 抵抗する間もなく、そのまま引きずられるようにダンスホールを後にした。




こちらは『元悪役令嬢の旅路  ~ ニートな生活をもとめて三千里 ~』のリメイクになります。

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