05
妙なタイミングで料理が来てしまったが、俺はアルアテーレの話の続きを待つ。しかし、彼女の方はじっと俺の方を見るばかり。
変な間ができて、ようやく、「あっ」とアルアテーレが小さく声を上げた。
「え、ええと、んん、……そう! 次に考えられるのは――一つ。供給です」
不自然な咳ばらいをして、アルアテーレが言う。……もしかして、俺が飯を食い始めるのを待ってたのか?
アウラヴィチェの根は、俺たちパーティーの主力の収入源だ。あれが売れなくなるようなら、今後のことを考え直さなきゃならない。飯なんか食ってる場合じゃねえ。
「供給……俺たち以外にもアウラヴィチェの根を納品できる奴がいるってのか?」
「そうです。アウラヴィチェの根が貴重なのは、アウラヴィチェそのものの情報が少なく、狩るのにも素材の取り扱いにも苦労するからです。ですが、貴方がた以外にも納品する人が出たのであれば、アウラヴィチェの根の価値は下がります」
確かに、彼女の言い分には一理ある。新生魔物の素材は古生魔物の素材に比べて、全体的に高額で買い取られる傾向がある。新しい魔物は、それだけ情報が少ない。だから、物によっては狩りやすい方法が発見されると、新生魔物の素材でも価値が暴落することがある。
「……けど、それにしちゃ下がりすぎじゃねえか? 一番下がったところで言うと、レザンテの鱗だと思うが、あれだって半分ちょいくらいだろ。アウラヴィチェの根の比じゃねえ」
「でも、ほら、植物系の魔物って栽培ができるじゃないですか」
なんてことないようにアルアテーレは言う。
植物系の魔物が栽培できるのは事実。その世話が冒険者ギルドに依頼として出回っているのを何度も見かけたことがある。
植物系の魔物は家畜のように毎日の世話が必要なわけじゃねえし、動きもそうそう機敏じゃねえから、中堅クラスの冒険者であれば、知識さえあれば何とでもなる程度。
だが……。
「まだ納得がいきませんか」
「いや、今までに比べたら一番説得力があると思うぜ?」
それでも、たった1,000ゴールドの買取価格の衝撃が強すぎて、腑に落ちない。いや、納得したくねえ、っていうのが大きいんだが。
「では――一つ。脅迫」
「脅迫ぅ?」
「ええ。誰かが高額買取を阻止している、とか」
「誰かって誰だよ」と言えば、「誰でしょうね?」と返ってきた。こいつ、考えるの面倒になってきてねえか。
俺はため息を吐き、黒パンをかじる。
「他の素材と間違えたわけではない。質が悪いわけでもない。供給が増えたとしても下がりすぎ。脅迫は流石に陰謀論。となると――……」
くるくると指先で再び髪をもてあそんでいたアリアテーレの指が止まる。
「……ところでガーヴァンさん。ハイクラスのポーションって買ったことはありますか?」
「は? 何だいきなり。あるわけねえだろ、あんな高いモン。普段はロークラスのポーション頼りだよ。いってミドルクラスだ。ハイクラスのポーションなんて……」
そこまで言って、俺は口を閉じる。
ポーションの等級は主に三つ。ロークラス、ミドルクラス、ハイクラス。それぞれの種類のポーションはこの三つに分けられる。それとは別に廉価ポーションと言うものがあるが、たいして効果のない気休めみたいなものだ。人間本来の治癒力を高める程度で、実際に病気や怪我や異常状態は治らないし、魔力が回復するわけでもない。
一番下にある廉価ポーションは一般市民がよく使う。その上にあるロークラスは一般的な冒険者が使用する。
それが普通。
ミドルクラスのポーションなんて、そうそう使う必要がない。今回のようなことがなければ買わないし、俺たちパーティーは常備していない。高難易度の依頼を当たり前のように受ける上位数パーセントの冒険者しか持ち歩かない。
傷を治す回復ポーションや魔力を治すマノポーションはともかく、他のポーションは百万ゴールドを超えることも珍しくないから。
ミドルポーションでこれなら――。
ハッとなって俺はアルアテーレの方を見る。彼女の方が一歩先に気が付いていたらしい。
「一つ――需要がなくなった」
アルアテーレの言葉に、ドキリ、と心臓が跳ねる。今までの推理とは比べ物にならないくらい、カチリと頭にハマる何かがあった。
アウラヴィチェの根は、ハイクラスのマノポーションの素材だ。
俺たち冒険者にとって、ポーションと言うのは消耗品だから考えたことがなかったのだ。
需要がなくなってしまう、なんてことは。
「超高額のハイクラスのマノポーション。買っていたのは一体誰だったんでしょうね?」
誰が買っているか? そんなもん、知るわけがない。いや、興味がない。なかった。
高額で買ってもらえるか否か。冒険者である俺には、その判断基準が全てだったから。
上位数パーセントの冒険者がようやくミドルクラスを普段使いするのだ。ハイクラスのポーションを普段使いできるのなんて、それこそ冒険者パーティーの頂点、勇者パーティーくらいじゃないのか?
俺たち冒険者パーティーにとって、ポーションは消耗品だ。使って当たり前、なくなってしまうのが普通。
だからこそ――気が付かなかった使い道。
「……貴族のお偉いさん方がいざと言うときのための備えとして、備蓄するために売れていた、ってのか?」
俺の言葉に、アルアテーレはにっこりと笑みを浮かべた。
まるで、正解だ、とでも言わんばかりに。
「アウラヴィチェの根一本から作れるマノポーションの量は一本じゃないですからねえ」
備蓄として売れていたのであれば、使わて数が減るということもないだろう。もちろん、使うことを想定して買いためてはいるのだろうが――そうなってしまうほど、大きな戦があったとは聞かない。
今まで、俺たちが納品していた素材で作られたマノポーションを買い取っていた貴族が、「もういらない」と言ったのなら――……。
「まあ、またそのうち、高価買取される日はくると思いますよ? 何年後か、何十年後か分かりませんけど」
廉価ポーションには消費期限があるが、ちゃんとしたポーションには合ってないようなものだ。適切な管理がされていれば、半永久的に使える。そして、お貴族様が高い金を出して買った『備品』を、粗末に扱うとは思えねえ。
次にまた、アウラヴィチェの根が高値で売れるようになる日がくるのなら、その前に、それが大量に放出されるような、異常事態があるということだろう。
そんなときが来るとは限らねえし、来てほしくもない。
ということは、もう、アウラヴィチェの根は売れない。金策としてはあてにならない。
元々、アウラヴィチェの根に頼り切りというわけでもなかったが、一番の金策だったことには違いない。
ただでさえリベルとの妙な距離に頭を悩ませてるってのに。さらに頭が痛くなるような話だ。
「はぁー……。マジか……」
俺は思わずのけぞる。背もたれのある椅子でよかった、なかったらそのままひっくり返っていたところだ。
「……あんたも、もういらないのか?」
一応、聞くだけ聞いてみたが。
「そうですね。必要なものではありますが、先ほど売ってくださった分で事足ります。わたしのように、腕のある錬金術師であれば依然と同じように買い取ってくれる人がいないわけではないでしょうが……」
それも最初の一回だけ、ってか。しかも、錬金術師なんてそうそうその辺にいるわけでもない。買い取ってくれる錬金術師を探すより、その分多く依頼を受けた方が金になりそうだ。
――……ま、いつまでも原因が分からないままモヤモヤすることになるよりはマシと思うしかねえな。
「謎を解いてくれてありがとよ。礼にここは奢るぜ」
「……いいんですか? では、お言葉に甘えて」
そう言って、彼女は席を立つ。向こうはもうとっくに食べ終わっていたみたいだ。
俺も食うか、とステーキを口にしたが、すっかり冷めてしまっている。
随分話し込んじまったな。




