第99話 緑のたぬきの皮算用
3両目の馬車は戦闘を避け、今まで進んでいた道から西へと入り込む。
道幅は多少狭いが、田んぼに突っ込まずに走り抜けていく。
「さて、ココまでは筋書き通り……やったんけど」
若草色の着物に濃緑色の袴を合わせたタヌっ娘マレッタは、御者台で手綱を握りながら独り言ちる。
そしてくるりと荷台の方を向くと、大きなため息をつきながら――
「あんたら、何で乗ってくるかなぁ〜〜〜?」
その目の先にいるのは、紅色の着物を着たキツネ姉さんユカリと、和風メイドっぽい衣装のネコ娘ミーナ。
「マレッタはんこそ、何で御者みたいな真似事してはりますのん?」
「ウチは仕事や!タマキさんと荷物を、無事に送り届けるのがウチの任務やねん!」
幌で覆われた広い荷台には、タマキさんを載せた簡易ベッドに、大きな木箱が6箱。
馬車が大きな砂利を踏む度に、木箱の中身は時折カチャカチャと金属音を奏でている。
「……まぁ、でも乗ってしまったからには、もう降りられへんで?」
「ウチらもそのつもりどす。ウチがタマキさんをお護りします。」
「はぁ……コレ絶対ユリミさんに怒られるやつや。ウチ知らんで?」
ユリミさん、いつもはすっごく優しい人なんやけど、怒らすとまぁまぁエグいからなぁ?
しっかし、このまんまやとちょっと面倒なことになりそやな……。
どないしよか…………?
そこでウチは、荷物の中身を思い出した。
「シャオリンさん、その2人に手前の箱の中身、着せてくれんやろか?」
「あ!はい!承知しました。」
箱の中は衣装がぎっしり詰まっている。
「あんさんこれ……洗濯物か何かやないの?」
キツネ姉さんはさっそく難色を示す。
「ん〜ユカリさんはその中に燕脂色の袴があるやろ?それ付けて!」
「えぇ?何でウチがこんなん……???」
「ええから早よ! それとミーナちゃんは看護師の服あるから、それ着といてな!」
「あ、はい!」
遠くでまだ爆発音が響く中、揺れる馬車の中で着替えはじめる2人。
あぁ、大丈夫やろか?
間に合うんやろか?
馬車をしばらく走らせると、前方にちょうどええ具合の林が見えてきた。
ココを抜けて、しばらくは道なりに進めば……。
深い轍に沿って、馬車を滑り込ませていく。
いつの間にか砂利は消え、雑草に覆われた道は、驚くほど静かやった。
――すると、それは突然現れた。
「おおい!! その馬車、止まれ!!!」
薄い皮の鎧を付けたイヌ人の男2人が立ちはだかる。
その側に魔法杖を持った黒髪のサル人女性、そしてその奥には……荷馬車に乗ったサル人が数人。
「うわぁぁぁ……どないしよ!このまま突っ切れるか?」
すると、幌の中からシャオリンさんが顔を出して――
「それは危険かもしれません。タマキさんもいますし、ここは一旦、彼らに従いましょう。」
「……せやな、分かった。」
馬車を止めると、シャオリンさんは静かに地面へ降り立ち、そのまま奴らに歩み寄っていく。
パッと見、えらい親しげに話しとるように見えるんやけど……気のせいやろか?
ま、でもギルドの受付嬢さんらしいから、さすがに話は上手いんやろなぁ。
しばらくすると、イヌ人の2人が馬車へと近づいてきた。
「おい、すまんが……荷を改めさせてもらうぞ。」
「あ〜、えーと――」
言い淀んでいると、シャオリンさんがコチラを見てコクンと頷く。
「……分かった。好きなだけ見たってや。」
ウチは御者台から降りると、荷台の後ろへ回り、ハシゴを引っ張り出して幕板に立てかける。
「うむ、すまんな。」
強面の割にこのイヌ人たち、礼儀を知っているようやな?
「おい、その女は眠っているのか?」
「あ――まぁそんなとこや。」
「そうか、コイツか。それとこの木箱の中身は何だ?見せてもらっても良いか?」
「あ?あぁ……まぁ、どうぞ好きに開けたってや。」
ウチは至って平静を取り繕う。
「ん?何だ?……この鉄の管やガラクタみたいなものは?」
「あぁ…………コレはあの――」
――しばしの沈黙。
ウチはキツネ姉さんを手招きし、そしてひとつ咳払い。
それから、連中を見据えて言い放つ。
「あんたら、ウチらのこと……知らんの?」
イヌ人たちは顔を見合わせる。
「ウチらの服見ても気づかへんのん?結構有名やと思うけどなぁ?」
「ん???有名人?芸人か何かなのか?」
そこでウチはニヤリと笑い――
「ちゃうちゃう!ウチらは世界でも有名な配管工やで!」
「はぁ???」
「コッチの赤いのがマリコ姉さん、そしてウチが妹のルイコ。2人合わせてマリコシスターズや!!」(※1)
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※1 某有名ゲームのオマージュねw もっとも、アレってなぜ兄の名前だけで「ブラザーズ」と名乗ってるんだろ?(フツーは名字でしょ?www)




