第96話 赤いきつねのひとりごと
タヌ工房のキツネ姉さんユカリは、ソファに座ってお茶をすすりながら想いに耽る。
……ウチがネコ村を離れてから、5日くらい経ちましたんやろか?
久しぶりに街に出てきた思いましたら、ヘンなんに捕まってしもて牢に入れられてしまうし、それから脱出できたんはエエんやけど……泊まっとったギルドは燃えてしまうしで、今回は結構散々な目に逢いましたわぁ。
おまけに、あの可愛い可愛いタマキさんが意識不明やなんて……。
「命に別状は無いから安心して」って、ユリミはんは言うてはったけど。
ウチ、ちょっと心配やわぁ……。
そういうたら、さっきネコ村から馬車が3両着いたって、ミーナちゃん言うてはったわ。
ウチと一緒に牢へ閉じ込められていた皆さんも、一緒に馬車でネコ村に連れて行かはるらしいやないの。
まぁ、ウチとこには温泉もあるし、仮住まいのための空き家も多少はありますさかい、コチラで過ごされるよりもええんと違いますやろか?
何と言うても……ウチの村は強力な結界がありますよって、ヘンなんも攻めて来られへんし。
それに……あの温泉やったら、タマキさんの魔力欠乏症も早う良うなるはずやと思いますわぁ?
何しろあの湯は他の温泉と違うて、高魔素成分た〜っぷり。
体に魔力がじんわ〜り染み込んでいきますさかい、2日もあれば魔力はきっちり補給できるはずやわ。
あぁ……タマキさんはまだ意識あらへんのやし、ウチが温泉に入れてあげよかしら?
そうやわ、それがよろしいわ!
うふふふ……ウチがタマキさんにぴったり寄り添うて、お湯に入れて差し上げますわぁ。
あんなトコ触ったり、こんなトコを洗うてあげたり……。
ああ!もう待ちきれへんわ〜!
そうと決まれば、ネコ村に一刻も早う帰らなあきまへんね!
「あ、ユカリさん!もう準備できました?」
部屋を出たウチに声をかけてきはったんは、ミーナちゃん。
「ええ、ウチはいつでも出れますえ?」
「じゃあ、一緒に下に降りましょう。」
ミーナちゃん……いつもいい笑顔やわぁ。
癒される〜ぅ♪
そういうたら、この子がまだ小〜さい頃は、ウチもよう面倒みさせてもろうてたもんやわぁ。
長い髪の毛を洗うてあげたり、ぎゅ〜っと抱っこしながらお湯で温もったり。
……いつのまにか、こないに大きく育ちはったけど、やっぱり可愛いわぁ♪
「……ユカリさん、私の胸がどうかしましたか?」
ハッと気ぃついたら……ウチの手が、ミーナちゃんの胸に触れようとしとるやない!?
「え!あ!な、何でもあらへんわ?ちょっとボーッとしてただけどす?」
手をサッと引っ込めながらそう言うウチと、ニコッと笑顔を返してくれはるミーナちゃん。
ダメよ!ダメダメ!(※1)
ウチは優雅なお姉様なんどす?
思わず息が上がってしもたウチと、キョトン顔のミーナちゃん。
「あぁ!ミーナちゃん……荷物重そうやし、ウチも手伝いますわ?」
「あ、さっきはカバンを持ってくれようとしてくれてたんですね? ありがとうございます! それじゃこっちをお願いしますね♪」
「そそ、そやそや! だって2つも持って階段降りるんは、大変やさかいね?」
……エエわ!ほんまにエエわぁ!
さすがはウチや!うまいこと誤魔化せたやろか?
ほんで、革のカバンを抱えてウチらは階段を下ってゆく。
荷物自体はそないには重うないんやけど……4階から降りるんは地味にしんどいわぁ〜。
しばらく階段と格闘してたら、ギルド玄関が見えてきましたわ。
「あはは、さすがに4階建てだと上り下りが大変ですよね〜」
「うふふ、そうどすねぇ。ミーナちゃん大丈夫〜?」
うっすら上気したミーナちゃんの頬を撫でたい衝動を、ぐぅ〜っと堪えながらウチは問いかける。
「はい、まだまだ大丈夫ですよ♪」
「ほんま、よう頑張ってはるわぁ〜」
そういいながら……うっかりウチは頭を撫でてしもた!
「ユカリさん、私はもう子どもじゃないですよ〜♪」
「あはは、堪忍え〜♪」
少女の柔らかな髪の手触りが、ちょっと名残り惜しいんやけど……。
でも、美少女を気軽にお触りするなんてハシタナイこと、ウチには似合いまへんわ?
玄関を出たら、ネコ村の馬車が横付けしてはった。
4頭立ての幌馬車が3両。
平地の移動やったら4頭立てだと大仰に感じるかもしれへんどすけど、ウチの村は山の上やさかいねぇ。
御者はんの話やと、1両目は護衛の人が中心、2両目が一般の人、3両目がタマキさんを載せる医療用+何かの資材を積みはるらしいわ?
……ほんで、ウチらが乗るんは2両目。
ちょっとだけお願いしましたけんど、安全のためや言うて断られてしまいましたわぁ。
まぁ、日暮れまでの辛抱やわ。
ウチは大人やし、いつでも冷静でおらんとあきませんね……。
タマキさんはコッチの世界に来はって間もないんやし、ホンマはウチが守ってあげなきゃあきませんのに、何にもして差しあげられへんやなんて。
でも、ウチは刀で戦こうたり魔法使うたりは出来へんし。
あぁ、あの馬車に乗って、眠ってはるタマキさんのお世話をしてあげたいもんやわぁ……。
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※1 2014年ごろに流行ったとされるギャグ。朱美ちゃんの白塗り具合が忘れられない人も多いはずw




