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第95話 ユリミのつぶやきメモ

 ミナミのギルドで過ごすのも、もう3日目。

 

 とりあえず、タマキちゃんの無事は確認できたものの、表面上はまだ眠ったまま。

 魔力枯渇の影響からもまだ回復途中だったのに、そこであの注射だからね?

 幸いなことに、注射される前に「通信魔法」を繋げていたから、今でもちょっとだけなら意思疎通できるんだけど……まともに動けるようになるまでには、まだまだずいぶん時間がかかりそうね。


 しかしこの娘、不思議な子だわ?

 いくらサムハラ(※1)を枕元に置いていたからって、ゾウも倒せるほどの毒を受けても生きているなんて。(※2)

 しかも、夢うつつの中で次の作戦を考えて、私に提案してくる気力って……。


 ちょっと危険な内容だから私は渋ったんだけど……。

 でも、戦略としては……ちゃんと筋は通ってるのよねぇ。

 あんなに若いのに、一体どうやったらあんな発想が生まれるのかしら?


 

 いずれにしても、ウチの村から馬車が午後には着くから、移動の準備はしなくちゃ。

 このギルドにずっと居ても魔力の回復には時間がかかりそうだし、またいつ狙われるのか分かったものじゃないしね……。

 

 私はそう思いながら、タマキちゃんの頭を撫でる。

 静かな寝息を立てながら、気持ち良さそうに眠る姿を見つめながら……つくづくこの娘は不憫な子よね、などとつぶやく私。

 ウチの娘たちとあまり変わらないくらいの歳なのに、知らない土地に来て、身の危険を感じながら過ごすなんてね。


 でも、その本人が割とケロッとした感じだから、この娘が元々住んでいたトコって……よっぽど厳しい環境だったのかしら?

 この娘と同郷のはずの私の夫も、そのあと転生してきたサユも、「日本」は結構平和な土地柄だった、とか言ってたけど……20年程度で状況が変わったとか?

 まぁ、そんな言うとこのネコ国も、この20年でずいぶん様変わりしたわけだし、向こうの世界でもそんな感じで激動の時代を送っていたのかもしれないわ?


 

 しばらくすると部屋の扉がノックされ、ウチの娘ミーナがやってきた。

「お母さん、村から馬車が着いたよ。」

「あら、意外と早かったわね?」

「でね?マレッタさんが、タマキさんのポーチにコレを入れといて、って。」

「あ、コレのことなのね? タマキちゃんが眠りながら『バルター』だか『オルサー』だか伝えてくれたんだけど?」(※3)

 

 私が娘から受け取ったのは、木の板が埋め込まれている鉄の手羽先のようなもの。(※4)

 大きさの割に、ずいぶんずっしりしてるわねぇ?

 何だかよく分からないけど、まぁあの娘が必要だと言ったんだから、これからの動きに不可欠なものなんでしょうね。


 私は、ベッドの脇にかけてあるポーチに、この「手羽先」をしまい、娘に指示をする。

「もうしばらくしたら馬車にタマキちゃんを乗せるから、それまでに他の人を誘導しておいてね。」

「うん、もう皆さん準備始めてるよ。何人かはタマキさんを運ぶの手伝ってくれるって。」

「それは助かるわね。ミーナも今のうちに荷物をまとめといてちょうだい。」

「うん、先にお母さんの分も一緒に、荷物を馬車に載せとくよ。」

「ありがと、お願いね。」

 

 ――――――――――


 ※1 第88話を参照。

 ※2 第90話での注射の中身は、大型動物の麻酔に使われる「カルフェンタニル」相当品の設定。一般的なフェンタニルの100倍くらい強い。人間だとほぼ致死レベルの猛毒で、ほんのちょっと触れただけでも危険とされている。

 ※3 タマキは「Walther」と言ったのだが、ネコ人にはこう聞こえたらしい。日本では「ワルサー」読みのほうが定着しているが。

 ※4 ワルサーといえば、サル顔の某大泥棒が持つアレ。それにしても手羽先って……www

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