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第75話 階段

 ギルドに帰って来て、飲み始めてから1時間くらいは経ったのだろうか?

 お酒も空っぽになったし、ちょうどいい頃合いなので一旦お開き。

 

 ギルド2階の宿泊施設は2人部屋でも10室はあるので、2人1組で被害者の方優先で泊まってもらうことにする。

 で、ボクたちは1階の大広間を使わせてもらうことに。

 ちなみに大広間の反対側、つまり入り口から右側に応接室と宿直室があり、万が一の用心のためにギルド長とメガネ猫事務員、ウサ耳警部の3人が泊まるそうだ。


 ボクは赤ワインの入ったグラスを片手に、窓の外を眺める。

 もう遅い時間なのか、人影はほぼなく、オレンジ色の街灯が寂しげに輝いている。

 

 ぼーっとしていると、ヒョウ局長に声をかけられた。

「タマキさん、今日はお疲れだったね。治安維持は我々の役割なのに、コッチに来て間もない人にその片棒を担がせることになろうとは……何だか申し訳なく思うよ。」

「ボクは多少の軍隊経験がありますので、あまり気にされないでください。……もっとも、実戦経験はないのですが。」

「そうなのか? でも随分と自信があるように見受けられるのだが?」

「あはは、そうなんですよね? ネコの村でもそんなことを言われましたよ。」

「まぁ、君はまだ若いし……しかもコッチの世界にまだ不慣れなはずだ。あまり無理はしないで欲しい。」

「お気遣いありがとうございます。」


「ところで――」

 局長はウイスキーをちびりと飲みながら続ける。

「今夜はヤツら……攻めて来ると思うかい?」

「さあどうでしょうね。ただ、あんな連中なだけに、町中には情報網があるでしょうから……既に嗅ぎ付けられていてもおかしくはないと思います。」

 ボクは窓のカーテンを閉めながら答える。


「ふむ、やはり君もそう思うか……。まぁこの建物自体は、ある程度の攻撃には耐えられるようにしておるのだが……君たちの村の結界のようには強くないからなぁ。」

「スカウト術をお持ちのアイナさんと、レンジャー術が使えるセーラさんには、用心のために『網』を張ってもらうようお願いしてます。」

「君はずいぶんと抜け目ない性格のようだな?」

「さあ……タダの臆病者なのかも知れませんよ?」

「まぁ、臆病くらいがちょうど良いよ。戦いの場は、蛮勇を発揮したものから先に死んでいくものだからな?」

「そうですね、肝に銘じます。」


 カーテンを少しだけ開けたヒョウ局長は、町の灯りを眺めながらポツリと呟く。

「こんな素敵な夜なのに……説教じみた話ばかりですまんな。」

「いえ、状況が状況ですから、それは仕方のないことだと思いますよ。」

「いやいや……こんな時であっても、もう少し気の利いたことくらいは言えるようになりたかったよ、ワタシは。」

「あはは、局長さんでもそんなこと思われるんですか?」

「たまには『普通の女』に戻ってみたいと……思うときもあるのさ。」

 そう言うと彼女は、少しだけグラスを傾け、虚空を見つめた。


「ああ……コイツ、飲んでみるかい?」

 差し出されたグラスのリムが、テーブルランプの光を受けて赤銅色にきらめく。

「かなりクセが強いから『好きになるか、嫌いになるかのどちらか』(※1)なのだが……いずれにしても、一度飲んだら忘れられない味だよ。」

 ボクは、局長が差し出したグラスを無言で手に取ると、まずは香りを嗅いでみる。

「ん……ずいぶん変わった香りですね?」

「ふふ、そうだろ? まぁ、騙されたと思って少し含んでみるといい。」


 言われた通りに、ちょっといただいてみる。

「…………んんん?! コレはちょっと……いやずいぶんと個性的な! ウイスキーと言うより何かの薬品のような?!」

「不思議だろ?」

「ええ、これはかなりクセが強い。コレは……凄い。……でも忘れた頃に、またこのクサさを味わいたくなる感覚が。」

「ほほう、そうかい? キミも『オトナの階段』を一段上ったのかもしれんな?」

「いやいや、それは単なる『酔いどれへの螺旋階段』じゃよ?」

「さすがにミレイネ様は手厳しいですな?」

 のじゃロリさん、上手いこと言ったつもりだろうけど……あなたもその螺旋階段を、ダッシュで上っているクチですからね?(※2)

 

 そして夜は静かに更けていき、次第に漆黒の闇が支配していく……。

 

 ――――――――――


 ※1 アイラモルトの中でもクセ強な部類に入る『ラフロイグ』のキャッチコピー。まぁ……騙されたと思って、一度飲んでみてくださいw

 ※2 ……お前もな♪w

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