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第62話 試着室

「ほな、ウチらも行きまひょか!」

 と狐さんはボクの手を引いて歩き出す。

 途中にある神社のようなトコでお参りしたり、お団子屋さんでお茶したり。

 あ、ちゃんと町の噂を聞いたりとか、情報収集はやってみてるんですよ? あくまでも自然な感じで、突っ込みすぎない程度でね。

 

 まぁでも今のトコ、町でそれっぽい怪しい人物がウロついている気配も無く、表面上は平穏そのもの。

 うーむ……ココで拉致事件が起こっているような雰囲気には、とても思えないんだけどねぇ?

 午前中に話があった靴屋さんらしきトコも数件当たってみてるけど、コレといって引っかかるものも無いし……。


 ま、地道に観察しながら、ショッピングも楽しむとしよう。

 もっとも、楽しんでいるのは主に狐さんだけど。

 ボクはコッチの生活がまだ浅いから、欲しいものがあまり思いつかないんだよね?

 

 ……ああそういえば、元の世界でも先輩ともこうして出掛けたなぁ。

 小百合先輩って、いつも嬉しそうな表情でボクに付き合ってくれたっけ……。

 コッチに来てまだ4日目なのに、元の生活がずいぶんと昔に感じてしまうよ。

 先輩、無事に暮らしているといいな……。



 

「タマキはん、次はこのお店、どうどすやろか?」

 狐さんに手を引かれて入ったお店は、ちょっと高級そうな服屋さん。


「いらっしゃいませ!どんなものをお探しでしょうか?」

 ネコ人とサル人だろうか、2人の男性店員がニコリと笑って接客してくる。

 いや、正直言うと……笑ってるかどうか、ボクには分からないけどね。

 店員の応対は狐さんに任せて、ボクは店内をウロウロ見て回る。

 扱っているものからして、いわゆる呉服屋に当たるんだろうけど……割とブティックっぽい雰囲気が面白いね?

 

「タマキはん、ウチちょっと試着してみたいんどすけど、ちょいと待っててもろてもよろしおすか?」

「ええ、もちろんココで待ってますよ。ごゆっくりどうぞ。」

 着物を持って試着室に入る狐さん。

 

 ……ってか、コッチの世界って着物を洋服みたいに試着させてくれるんだ!

 もっとも、元の世界で着物をどうやって売ってるのかすら、ボクは知らないんだけどね?w


 試着室のカーテンが閉まって5秒後……中からガチャリと金属音。

 「あっ」と小さな悲鳴が聞こえたかと思うと、試着室のカーテンがふわりと揺れた――

 

 次の瞬間……ボクは背後から強い力で突き飛ばされる!

 床に倒れ込んだボクの首筋に、冷たい金属が押し当てられた。

 くっ!これは……剣か?!

 ドスの利いた低い声。

「お嬢さん、これ以上痛い目に遭いたくなければ、黙って言うこと聞いてもらおうか!」


 ネコ人の店員が試着室のカーテンをシャッと開けると、壁が扉のように開いていて……その奥に通路が見える。(※1)

 狐さんの姿が消えている。

 もう既に、ココから中に連れ込まれたのか?

「さあお前も奥に入りな!」

 サル人の店員はそう言いながら、長剣の切先をボクに向けている。


 コレは、マズい事になった。

 事件は路上ではなく、店内で起こっていたのだ!

 ボクとしたことが、こんな安い手に引っかかってしまうとは、なんと迂闊な……店内に他の客がいない時点で警戒すべきだったのだ!

 

 くぅ……まずは素直に応じるしかないのか?

「おいおいネコちゃんよ!このまま斬られたいんか? グズグズすんな!さっさと中に入んだよ!」

 

 この非常時に何だけど……ボクってちゃんとネコ人に見えていたようだね?


 ――――――――――


 ※1 この話はもちろんフィクションですが、このような試着室トリックは実際にヨーロッパ各地で起こっていると聞く。まぁ、ただの都市伝説なのかもしれんけど?

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