表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/104

第104話 向かい風の中で

「ウサギが跳ねてきたなぁ。風が強くなってきたようだね?」(※1)

 ボクは船室の丸窓から海を眺めながら一人ごちる。

 船はゆっくり揺れながらも、しっかりと歩みを進めているようだ。

 

 受付嬢(もっとも、今はナース姿だが)の話によると、この船は現在、島にある南北2つの港のうち、北側の港を目指しているらしい。

 追い風の時期は1昼夜も走れば港へ入れるが、今は向かい風。

 ……なので、もちろん風に正対して帆走することもできず、左右にジグザグ大きく角度をつけながら、少しずつ南へと進むことになる。(※2)

 これだとおそらく、港に入れるのは明日の夕方、もしくは明後日の午前中にずれ込むことであろう。


「この船の中で落ち着いて使える時間は、実質まる一日というところか……さて、何から始めようか?」

 タヌっ娘に紅茶を注いでもらったボクは、みんなの表情を見ながら静かに言った。

「う〜ん、私たちは予定外だったから、まだ何にも理解していないんですけどね?」

 ネコ娘とキツネ姉さんは、ちょっと申し訳なさそうな顔をしている。

「ま、ウチらも内容を一部しか把握していないようやから、似たようなもんやと思うけどな?」

 タヌっ娘もおどけてみせる。


「逆にいうと、作戦を立てたボクはボクで、ココ2〜3日何が起こったのか良く把握していないし……まだちょっと頭が回らなくて、ぼーっとしているんだけどね。」

 そう言いながらボクは紅茶を一気に飲み干す。

「でしたら、何か強いお飲み物をお持ちしましょうか?」

 席を立とうとする黒髪の魔導士。


「あ、でしたら飲み物もですが、ちょっとお腹が空いていて。何か口に入れるものがあるとイイですね? ……ええと、あなたのこと、何とお呼びすれば?」

「あぁ失礼しました。自己紹介がまだでしたね。……ワタシのことは『ヘイリェン』とお呼びください。」

 そういうと魔導士はニコリと笑い、部屋を後にした。


「ヘイリェンは、サル国奥地の辺境の村出身らしく……あの娘も子どもの頃、村を焼かれて故郷を追われたそうです。」

「そう……。 失礼ながらサル国とは、そういったものなのですか?」

「都市部と地方ではかなりの収入格差がありますし、辺境の小国や少数民族の村では……同化政策のために多くのものが犠牲になった歴史があります。」(※3)

 受付嬢は重々しい表情でそう答えた。

「……何だかねぇ。なぜもっと仲良く出来んもんなのかねぇ。」

 あらら、ちょっと空気が重くなったね。要らんことを聞いてしまったかもしれない。


 すると都合よく、魔導士が部屋へ戻ってきた。

 ツナや佃煮を上に盛り付けたクラッカーがお皿の上に並べられ、人数分のグラスと……そして赤ワイン。

「あっはは、そう来ましたか。」

「ふふ? ちょうどよろしいのと違います? ウチらも喉が渇いてましたさかい。」

 笑顔を見せるキツネさん。

 うん、まぁいいか……こういう時は多少飲むに限るね?(※4)


 しばしワインを堪能していると、上層の足音が忙しくなり、何やら騒がしい雰囲気。

 それとともに、船のあちらこちらがギギイと軋み始める。

 突然、足元がフワリと軽くなったかと思うと、傾いていた床が一度すぅっと水平へ戻る。

 ちょっと不思議な感覚に、みな顔を見合わせた。

 

「ご安心ください。『タッキング』が始まったのですよ。」(※5)

 魔導士がゆっくりとそう告げた。

 が、やがて船はゆっくりと、今度は反対側へ傾き直した。

 テーブルの上のグラスとワインが、揃ってじりじりと滑り出すのを見て、慌ててグラスを手にする一同。


 騒がしさが一段落し、ワインが2本目に入ったところで……ボクは口を開いた。

「じゃ、現時点で考えられる今後の動きと、それに必要な情報について話しておきましょうか。」

 皆さんはボクの顔を見て、静かに頷く。

「まず目的は、先ほども少し説明した通り……攫われた人々を可能な限り救い出すことが最優先。そして、出来れば貿易拠点を潰すことです。」(※6)

「ええ、それは分かります。ただ、このメンバーだけでは……」

 ネコ娘は不安を隠しきれない。

「もちろんボクらだけではムリだよね。援軍となる『本隊』を上陸させる必要があるんだ。だからまず必要なのは、あの島の防衛体制をよく調べて、その『鉄壁』を崩すヒントを得ることなんです。」

「なるほど、でもそう上手くいくのでしょうか?」

「それは調べてみないと分からない。でもね……人がやってることなんだ、必ず穴はあるものだよ。」

「せやな?世の中に完璧は有り得んよってな?」

「そう、そして人というものは、必ずミスをする生き物なんだ。そこに付け込むのがボクたちの『仕事』だよ。」

 

 ——————————


 ※1 波頭が白く立つことを「ウサギが跳ねる」と表現する。風力4以上になると、かなり目立ってくる。

 ※2 風に対し斜め45度程度の角度で進み、その後方向を変えて逆側の斜め45度に進路を変更する……これを繰り返してジグザグに風上へと向かう手法を「タッキング」と呼ぶ。

 ※3 多くの「もの」……ということは、「者」だけでなく歴史や文化をも含む、と解釈すべきである。

 ※4 ウソコケ!いつも飲んどるやろがい!www

 ※5 ※2参照のこと

 ※6 素人相手なので、タマキはできるだけ分かりやすい表現を選んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ