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昔の話

大杉さんの回想

「O・I・Eサンプル?」

「そうだ、私はこの薬のおかげで蘇ったのだ、あの山にある墓の中から」

あれはまだ私が若かった頃、日本は大きく変わろうとしていた、政治経済から商業はたまた宗教までも変わり遅れていた日本はよりよい国家、近代国家に変わろうとしていた、今で言う明治維新という奴だ、そのころの私たちは新たな学問研究探求に日夜大忙し、周りの国に追いつくことばかり考えていた、故に緒伊江のことをすっかり忘れてしまっていた、時はあっという間に過ぎ去る、今の私ならその意味がよく分かる、あのころの緒伊江は今のあの木偶人形とは比べものにならないくらい明るく美しかった、だが緒伊江が体調を崩したとき私はただの風邪だと思い目もくれずに今のサンプルを作りだそうとしていた、誰もが願う永遠の命、その代償は完成してもしなくても取り返しのつかないところまで進行していた、緒伊江は死病にかかっていたんだ、わかりやすく言うと伝染病だ天然痘やコレラとか、とにかく両方とも今では予防法方はあるが昔はそんなのはなかった、ただ祈るしかなかったんだ、結果は見るも無惨なことに、私は悔やんだ、悔やみ悔やみ悔やんだ、そして私は自分には

このサンプルがある、これを使えば緒伊江は蘇る、これを完成させれば緒伊江は蘇る、しかし私自身も死期が近づいていた。

「だから自分の体で試した、本当にそのO・I・Eサンプルが効くかどうかを?」

「そのとうりだ、しかしこの薬には大きなリスクを伴った」

ここで一度話を止め、大杉さんは部屋の中央にあるテーブルの下から木の幹を取り出した。

「アライド君、木はどうやって生きているか考えたことはあるかい?」

突然の質問に頭が回らない。

「人間と同じ?光合成してエネルギーをつくったり、根っこで水分を吸収したり…」

「それじゃあ、木の細胞は生きてるかな?」

「それは生きてるでしょ、死んでたら生きてられないですし」

予想道理の回答に笑う大杉さん。

「ハハハ……そうか生きているか、知ってたかい木材成分の約80%は死細胞、つまり死んでいる細胞なんだ」

「死んでいる細胞?」

「そう、しかし木は生きている、それは樹体保持という驚異的強度のおかげなんだ、ちなみに生きている細胞は形成層という皮の内側にある層が殆ど、そこで私は考えた、これを人に当てはめたらどうなるか、その結論が」

テーブル下から取り出した木の幹にサンプルの入った瓶の蓋をとり、その液体を幹にかけた。

「自らが木になるという結論に至った」

つまり、人間として必要な部分は生かし不要な部分は死細胞にさせる、しかしただの死細胞ではない、木の幹のように最低限の強度を持った死細胞にする必要があった、それにはまずどうしたらいいか考えた、そしてO・I・Eサンプルが完成した、私は当時の助手に私が帰らぬ人になった場合を頼み、緒伊江が眠るあの墓の前でサンプルを飲み、自分の墓の中え入って行った。

「結果は見ての通り大成功!!とはいかなかった…」

墓からでた私はいろいろと試した。

呼吸はしているか?脈は?目は見えているか?

呼吸はしていない、脈もないが目は見えているつまり脳と脊髄は死んでいない、だが…急に頭がぐらりと回ったかと思うほど揺れたり、手が思うように動かない、家に戻ってようやく気がついた、確かにいい感じに死細胞は固まっていたが中途半端に生きている細胞が残ってしまっていた。

「それがこの緑の斑点だ、実験は成功したが私はこの醜い姿となって蘇ってしまった、しかもこの斑点は私に残されたこの世界で生きるために必要な残り20%に含まれる部分だった、これでは緒伊江も同じ思いをさせてしまう、だが私は大きな間違いに気がついた」

私はサンプルを飲み死んだが緒伊江は病で死んでしまっている、ということは緒伊江にはその20%の部分すらないということに自らの体を使ってようやく気がついた、とんだ笑い話だ、私の人生は忘れ物だらけ、実験にかまけて緒伊江を失い失ったらサンプルで緒伊江を救おうとして、今度は自らの体さえこのO・I・Eサンプルを飲み続けなければならない体になっていた、そんな時に見つけたのが緒伊江の日記だった。

まだ大杉さんが一人の時、サンプルがまだ体になじまずに杖なしでは歩けない状態で、あの倉庫部屋であるものを探していた、自らの体が見事復活したときにすぐにサンプルを作れるように倉庫部屋に隠していたのだ。

「ハァハァ…頭が…どこに置いた…ウウゥ」

すぐに飲まなければ本当に逝ってしまうが、目的のものがなかなか見つからない、そんな大杉さんに古くなった本棚の一列が折れて、本が大杉さんの目の前に落ちてきた。

「危なかった、今の私は小さな傷でも致命傷になりかねない……こ…これは」

それが緒伊江さんの日記だった、そして大杉さんは閃いた。

「そうだ…これさえあれば0ではない、私とこの日記で0から緒伊江を蘇らせたらいいんだ」

こうして大杉さんはサンプルと日記で生前の緒伊江を現代に蘇らせようとした。

「順調だった何もかも、緒伊江は日記に書いてあったとうりに生活させそれに答えてくれた、だが……人は何かしらの欲がある、しかしあの緒伊江には欲というものがなかった…ほんの少し前までは」

外の雨は強まる一方、大杉さんは疲れをなくした体でサンプルを取り出した机から緒伊江の日記を数冊取り出した。

「大杉さん、分からないことが一つあるんです、どうして僕を養子に?」

「それだよ、緒伊江は自分が生きている…いや、その生き続けるという欲さえあるかどうか怪しい中で、キミにだけ緒伊江は興味というものを示したんだ」

キミ達W団は毎週あの公園で戦っている、そんな正義と悪の戦いに緒伊江が興味を持つとは思えなかったが、試しに見に行ってみたんだ、結果はいつものようになんの表情も動きもなく木偶人形のように立っていた、だが!!

私が帰ろうとしたら緒伊江は私の手を強く握りしめ何かを指差したんだ、その先にアライド君、キミがいたんだ。

「その後も緒伊江は毎週キミだけを見にはたまた一人であの公園を歩いていた、実際に今日の昼過ぎの戦いを見に行ったが、なんの反応もなかった」

「だから僕に留守番を頼んだんですね、W団を見に行ったから」

「緒伊江が帽子を落として帰ってきた時は不安になったが、そのおかげでキミをこの家に呼ぶことが出来た、それに倉庫の中にまだ日記があるかもしれない、しかし私一人では危険すぎた、そこで手伝ってもらうことを口実にキミはこの家に何度も来てくれた、そして昨日の出来事でキミを養子にすれば、緒伊江が望んでいた家族が私が望んでいた緒伊江が完成する」

大杉さんはついに隠していた真相をアライドにすべて話し終えた。

「アライド君、私は無理やりこの空想の家族に組み込むつもりはない、これはキミ自身で決めてもらいたい、悪の組織か家族かどちらかを」

アライドは少し考えたが、返事は決まっていた。

「大杉さん、僕はW団に戻ります」

大杉さんはなんともいえない表情でありながらどこかで分かっていたという感じで立ち上がり、秘密の部屋に入ろうとした。

「そうか、残念だが諦めよう、食事の時に話した緒伊江の一言は私の作り話だ、うまくいけば何も知らずに養子に出来ると思っていたんだが、まさか日記一冊だけでばれてしまうとは」

部屋に入った大杉さんの後を追いかけてアライドも部屋に入った、部屋の中は赤く照らされ何が入っているか分からない瓶が多数に足元は植物が生い茂っていた。

「いつでもここから出て行ってくれてもかまわないよ、私は再び緒伊江を蘇らせることにする」

部屋の奥には生前緒伊江さんが身に付けていたり使用していただろう鏡や服、そして色あせた二人寄り添っている絵。

「そうさせてもらいます、でも一つだけ良いですか?」

「まだ私にいいたりないことがあるのかい?」

アライドは大杉さんに見せてなかった緒伊江さんの最後の日記を自分がいつも飲んでいた席に置いて。

「緒伊江さんは今のままで十分だと思いますよ」

「アライド君、それはどういう……」

大杉さんは緒伊江の部屋から出て、アライドを追いかけたが、既に家を出て行った後だった。

大杉さんはアライドが残した日記を読み始めて、ようやく自分の過ちに気がついた。

「アライド君……私は…もう……」


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