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水滴

水犬と念伍の戦い、どっちがかつのか。

夕暮れ、念伍寺には一人の僧と近くの井戸で汲まれた水と砂利が入った木製のバケツが一個、砂利の上で座禅を組みその目の前に置かれていた。

「……気分はどうだ?水の物の怪よ」

「……」

完敗、なにも出来なかった、一撃もかすりもしないまま斬られ斬られ、体が元に戻らないぐらい立ち上がり攻め続けたのに、勝手に喧嘩を売り、喧嘩を売った相手に情けを受けている。

「……ウゥ」

僕はどうしてこんなに弱いのだろう、四季蜘蛛の一撃で倒れ、正義が変身した後は一方的な闘い、そして今はそれ以上の敗戦。

日が暮れ僧が寺に入ろうと背を向けた隙に、元に戻した体でバケツから飛び出し振り向かずに、逃げるようにその場から去った。

その場に残ったバケツには一滴の水も残ってはいなかった。

僧はバケツを拾い上げ、入っていた砂利を捨て、既に閉じられた門の向こう側を泣きながら走り去る物の怪に話しかけるように。

「水の物の怪よ…次にこの寺にくるときは、門をゆっくりと開けて入ってこい、その時またこの神木で造った木刀でその邪念を叩き斬ってやる、待っているぞ」

と、久方ぶりの来訪者をまた座禅を組みながら待つのだった。

翌日……

相変わらず天気は良好だが、念伍寺は薄暗く一人の来訪者もない、ただ……。

閉ざされた門の向こう側から確かに足音が念伍寺に向かってきている、その聞き覚えのある足音は閉じられた門で止まり、扉を数回引っかいた後、ゆっくりと念伍寺に入ってきた。

「待っていたぞ」

僧はバケツの水を柄杓で撒いていたが、水のまだ入っているバケツと柄杓を投げ捨て、腰に携えた木刀に手をかけた。

「水の物の怪よ!」

そこには、昨日叩き伏せたあの水の物の怪こと水犬が立っていた、昨日あれほど切り捨てた水の物の怪がまた現れた。

「よいのか、手加減は一切しないぞ」

水犬は一度唸ると相変わらずの突進で僧に立ち向かった。

「今度こそ、成仏せい!喝!!」

その日からその寺では似非僧と水の物の怪との奇妙な交流が始まった。

朝に訪れる水犬、それを昼間で成仏させようと闘う念伍、夕暮れ時にはボロボロの体を井戸から汲んできた水で潤して、何も言わずに帰る、そんな日が毎日のように続きそれに合わせていた。

そんなある雨の降る日……

念伍と水犬は雨にうたれながらいつものように対峙していた。

「喝!!」

念伍の得意の居合い切りを顎から切り上げられた水犬、いつもどうり音を立てて倒れた。

念伍は雨水で一杯になったバケツに水犬を入れ雨が当たらない寺の廊下に持って座り、隣に置いた。

「なぜ己の体がボロボロになるまで闘い続ける」

バケツの中をのぞき込んでみるが、波紋も塵ひとつも浮かんではいなかった。

「そこまでして、何の目的もなく、ただ戦いに飢えている猛獣なのか?」

「……」

「噂で聞いている水の化け物とは大違いだな」

この言葉に反応したのかバケツの水面に波が立つ。

「その水の化け物は己の体が崩れ落ちようとも、己の主人の夢を果たすために闘い続けたらしい、町内の回覧板で書いてあった」

中之島の町内イベントに常に書かれている

水犬は治した顔を水面から出して、あたりを見渡した、曇った空がいつまでも続いている、薄暗くなった空に厚い雲、自分にかかっている雲はいつになったら晴れるのだろうか、軒下に置いてある石に雨水が一定に落ちる、それを目で追っている水犬に念伍は一つの言葉を放った。

「雨垂れ石を穿つ」

すると、念伍が立ち上がり寺の中から一つの石像を取り出してきた、その石像は不格好でとても人に見せたら。

「何この石?」

と、言われてもおかしくない石像を取り出してきた。

「これは、拙僧が一つの道具を使い作った像だ」

『像?なんだかクネクネしてて、手らしきものが六本あるこれが?』

水犬は自分の知識をありったけ費やして考えたが、バケツの中に顔が沈んでいった。

「これは、一滴の水で作ったんだ、いや…一滴ではないな…この雨が作ったと言えるかな」

水犬にはさっぱりだった、なんで固い石が水なんかに負けるのか。

「先程まで見ていた軒下の石をみてみろ、一定の場所に落ちた水滴の場所だけ石が削れているだろ」

水犬は顔を出して覗き込んだ、たしかに水滴の落ちた場所だけ石が削れていた。

「拙僧も詳しいことは知らないが、どんなに小さな力でも一生懸命頑張れば固い石でさえ水滴に負けるのだ、そしてこれが水の物の怪、貴様自身の努力だ」

念伍のもっていた木刀の刃の部分が連日の対峙ですっかりボロボロになっていた。

「貴様の突撃ですっかり削れてしまった、武士の魂は刀のように戦いで己の刃が折られればそれは負けだ」

念伍の話を聴いている間に雨が上がりすっかり夕暮れ時。

「水の物の怪よ、拙僧はどこかでこの刃を折るはずだった、しかし折れずしてこう生きながらえている」

念伍は木刀を掲げながら門の先を見つめていた。

「この木刀は拙僧の雑念の塊なのだ、自らの道を曇らせ惑わせるでも捨てられない悔いの一刀、この木刀が折れれば踏ん切りがつき、新たな道に進もうと思っている」

雨はすっかりやんで、水犬は振り向かないで走って帰って行った。

その日から水犬は少しの間寺に行かずにアパートの風呂場で蛇口から垂れる水滴を見つめたり、キッチンの蛇口を見つめたり、パソコンの動画でみたり。

『水犬さん……どうしたんですか?何か調べ物ですか?』

デジの質問にも何も答えないで、ただジッと見ているだけの水犬。

そんな水犬にデジがとある川の映像を流した。

『水犬さん知ってますか?河川の浸食作用と言う奴です、浸食にもいろいろありますがコレは水流が岩石や地層を削る洗掘というものです』

水流が岩石や地層を削る、水滴が石を削る、スケールが変わっただけで水が石に勝っているが、何か足りない。

『僕が突撃で念伍の木刀をボロボロにしたのは確かだけど…あれじゃああと何日で折れるか…程遠いよ』

そうして、夕飯まで時間が残っていたので公園を散歩することに、ついでに落ちてるゴミを拾いながら歩いていると、潰してない空き缶を思いっきり踏んだら一カ所小さな穴が空いた。

『この部分…薄くなってる』

その時、水犬は閃き穴のあいた空き缶を放り投げて、その穴のあいた場所めがけて爪を突き立てた。

『コレなら…コレなら勝てるかもしれない』

水犬はゴミ箱にゴミを捨ててからアパートに帰った。

水犬は悩み事がついに晴れ、捨てられた空き缶には水犬の脚が入るぐらいの穴が空いていた。


二週間といったのに三週間後になっていました、すいません。

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