眼
パソコンの呪いは着実に進行していた、W団はこのまま紀子に呪われ壊滅してしまうのか……
日に日に朝食の時間の空気が重くなる、紀子に聞かれないように用心のためマイクは抜いたが、アラネは朝食を食べ終えてから庭に出て、あの三人の仲間入りを達成した。
「嫌だ!」
アライドは叫びに似た一言、水犬は庭に出て遠吠えをした。
「私も風呂場では嫌だ!」
「あのまま庭で寝とけばよかった!」
W団メンバーの半数が呪われてしまった、このままでは壊滅の危機に陥ってしまう、だが、気にもせづにその日の午後、業者の方が到着、パソコンはインターネットが出来るようになった。
「これによって、更なる情報を手に入れて、世界征服を確実なる物にするのじゃ」
「総統さん、これで新聞紙だけで、明日の天気予報を確認してたのも楽になるね」
呑気にパソコンをつついている総統とサリィ、既に呪われた四人は必死の思いで、元の持ち主を捜すのだった。
「いいか!もう残り時間は四日しかない、もしこのまま一週間経ってしまえば、アライドを始め、水犬、私、アラネの順番に風呂場で倒れるのだ」
アライドが一つおかしい点を指摘する。
「風呂場限定ですか?」
「いや、ザ・輪の時は風呂場以外にソファーの上、布団の中だの、とにかく何処にいようが、一週間経ったその時、紀子呪いによって私達は天に召されるのだ!」
「ああ……短かったな…」
「諦めるなアライド!」
その後、庭で作戦をたて、昨日と同じく近辺の調査、およびゴミ捨て場の調査を行うことに、しかし、エンクランスの作戦はこれだけではなかった、その作戦の名は。
「紀子がでる時間を見計らって寝ずの番でパソコンを見続ける大作戦」
「簡単に言うと、コンセントもマイクも刺して、そのまま放置しといて、出てきたところを問い詰めるんですね」
「その通り、アラネちゃんの話によると言葉を交わしたようだ、つまり話し合いで解決する合法的で平和的解決方法といえるのではないか」
エンクランスの作戦に皆から拍手喝采、士気上昇。
「それでは作戦開始、午後から夕飯までアライド、夕飯からみんなが寝るまで水犬とアラネちゃん、夜通しは私がする」
「エンクランスさん…あなたって人は…」
総統とエンクランスのみんなの目が日に日に変わってもいた。
その日、W団メンバーはエンクランスの作戦どうりにパソコンの見張りを交代で夜通し行い、それ以外は持ち主を探しに走り回った。
結果……
残り3日
「みんな……なんか怖いよ……」
コレといった情報もなし、夜通し行った見張りも効果なし、喋りかけても応答なし。
今までにない重い空気で朝食、エンクランスは睡眠中、誰も言葉を交わさない事態に、話をしようと総統は話題を出すが、呪われ組は腹話術でもしているのか、口が動いてないのに透き通った声が出ていた、水犬は形をなくして、水筒で一定間隔で気泡を出している。
「もう…終わってしまうんですね」
「短かった…まだ一年も経ってないよ」
「でも、頑張ったよね……」
「ハァー」呪い組一同
「お願いだから口だけでも動かして、誰が喋ってるのか分からない」
呪い組一同口を開けたまま動かない。
「その状態で喋らないでよ」
放心状態の呪い組はそのまま死体のようにいすに座っていた、だが、寝ていたエンクランスが起き上がり、事態は一変する。
「そうか…考え方を変えよう、粗大ゴミに捨てたということはいらなくなったということ、つまり」
エンクランスは食卓で放心の呪い組を起こす。
「まだ探す場所がある、みんな起きるんだ」
「エンクランスさん、諦めましょ……」
諦めモードのアライドに言葉の差込を入れるエンクランス。
「アライド君、君は古くなった物を捨てようとおもったが、冷蔵庫やレンジなど、日常生活に必要な物だった場合はどうする?」
「新しく買うでしょ……買い換えのことを言ってるんですか?」
「そうだよ」
エンクランスは作戦用のホワイトボードを取り出し、ある店の名前を書きだした。
「古くなった物は捨てられる、捨てられ方はそれぞれだが、パソコンを捨てるということは、新しく買い換えた可能性は十分にある」
書き終えたホワイトボードの文字を読む。
「リドミ?」
「マジコ?」
「ケーズエレキ……あ!」
「気付いたようだね、そう!買い換える為には買いに行かないといけない、ここにあるのはその電気店の名前だ」
光和、洋三、下松、ダマヤ、カメラザビッグ、芝虎カメラなどなどいろんな電気店の名前が書かれた。
「手段は構わない、ここ二週間に売られたパソコンを調べ上げ、持ち主を探し出す!コレが」
『作戦名.電気店巡り』
「おおー!」
「いや、作戦名そのまますぎ」
こうして、作戦は開始され、盗み見、聞き込み、突撃、逃走、再度調査を繰り返した。
………調査終了、時間は夜九時を回り既に寝ているサリィの隣の作戦室もとい食卓で倒れていた。
「疲れた……」
至る所にある電気店を走り回り、精巧な作戦で手に入れた資料を基に散策をして、話を聞き、疑われたりしたが、着実に資料の数が減ってきている。
「でも、コレで見つからなかったらどうするんですか?」
「そういうのは考えない、今あるのをさばいて行こう、それじゃ明日、店が開く時間の三十分前に起床で」
「はーい!」
食卓の電気は消され、それぞれの布団、破れた襖に敷かれた布団、冷蔵庫の水筒の中でぐっすりと寝た。
………真夜中、針時計の秒針が動く度に寝室に音がこだまする。
疲れきった身体を休める睡眠、明日に備えて気力を蓄える一時だが、何時もより早く寝たときにいつもどうりの感覚で起きてしまうと、その時刻は真夜中だ。
起きた者はまた寝るが、みんなが寝ている間は自分の時間だと夜更かしをする者もいる……。
今、冷蔵庫の中を探っているサリィがその例だ。
「やっぱり…今食べると太るかな…」
水犬は水筒の中でぐっすりと寝ている、サリィに気付いていない。
「もういいか…」
食べるのを諦め、もう一度寝ようとするが、何か勿体ないと思う子ども心。
「そうだ…明日の天気でも確認しよっと」
パソコンの電源を点けるサリィ、起動画面に入り、デスクトップが表示される、デスクトップにはエンクランスが入れてくれたアプリが数個に、基本な画面は白字のWに黒の背景の簡単なデスクトップ、それが消えるように、インターネットを画面いっぱいに開いた、ローマ字表を見ながら打ち込む。
「なんだ、曇りか…やることないな…やっぱり寝よう」
そして、インターネットを閉じると、設定していたWの文字は消えて、真っ白な背景に髪の長い青が基本のワンピースを着た女性らしき人が、サリィに背を向けて座りながら何かをしている。
「何?これ……」
サリィはマイクを取り出して、その女性に話しかけた。
「お姉ちゃんはだれ?」
画面の向こうの女性はサリィの声に気づいたのか、慌てて隠れようとする、しかし、何もない白背景では隠れる物がない、ワンピースの女性は背中側を見せたまま答えた。
「ダレデスカ?」
「私はサリィ、あなたはもしかして…紀子さん?」
ワンピースの女性は髪を揺らしながら考えて答えた。
「ノリコ?ワタシハノリコナノデスカ?」
「違うの……じゃあ、あなたは誰で何をしてたの」
すると、動作が止まり、背中を見せたまま後ろ歩きで、サリィの方に近づいてきた。
「ワタシワノリコ…ワタシハノリコ…ワタシハアイニイッタ…デモイナカッタ…ドコニモイナカッタ…アイニイッタノニイナカッタ…ワタシハアノヒトニアイタイ…アイタイ…デモマダタリナイ…ノリコニハ…アルモノガタリナイ」
サリィは言葉を出せずに紀子さんの声を聴いた、そして、紀子の頭しか見えなくなるほど近づいていたのに気づいてのは、この言葉を聞いてからだった。
「ワタシノカオハ…カラダハ…モトニモドッテキタ…デモ…」
「でも……」
ゆっくりと振り返った紀子の顔は、血の気があるかのような綺麗な肌色に紅色の唇、サリィの声を聞いていた耳があるに対して、自らの手で書いたのか、目とは言えないものが紀子さんの顔に描かれていた。
「コレデハアッテモミエナイ…ミルコトガデキナイ…メガナイ…ミルタメノメガ…ダカラ……」
紀子は内側から自らの手で画面を叩きながら叫ぶ。
「メヲ!ワタシニメヲ!アノヒトヲミルメヲ!メサエモドレバアイニイケル!ダカラワタシニメヲ!」
メヲ!
眼を!
今にも画面を突き破って、サリィの眼を奪っていく勢いの紀子、スピーカーから流れる透き通った紀子の叫びがなだれ込む、人なのか霊なのか、確かなことはそれが現実であること。
そして、もう人事ではない範囲まで及んでいること。
……………残り2日