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その背に美しい女と、その腕の中で眠る幼子を乗せて漆黒の狼は走る。
「何でおめぇはスルトが来た時に、一緒に帰らなかったんだ?」
過去の恋人、そして今は一人の母親であるシルフィは答える。
「契約を結んでたから、帰りたくても帰れなかったのよ」
いかにスルトが古き神だと言っても、他人の魂の契約を破棄する事は出来ない。力尽くで解除させようとしても、勝手に人間界に来ているスルトがやればそれはそれで問題だ。
「それにこの子が成長するいい機会だもの。まさかフェンリルが来るとは思わなかったけどね」
腕の中で疲れて眠るネルは、夢の中で戦っているのか前足をしきりに動かしている。経験は確実に糧となり、大きく成長するだろう。
「獅子は千尋の谷に我が子を落として、這い上がってきた子をもう一度突き落とすのよ」
ちょっと違う気もするが、この教育方針もあながち間違っているとは言えない。殊更魔界では、力が無くては生きてはいけない。
結局、何故シルフィが召喚術で人間界に召喚されてしまったのかはわからなかったが、フェンリルにとって問題はそこではない。
見慣れた風景に、見慣れた平屋の家が見えてくる。そしてフェンリルは、ノックもせずに家の中に飛び込む。
「お帰り~フェンリル。何日も何処に行ってたのさ」
いつもの笑顔。
「ほう・・・とうとう年貢を納めにきたか」
いつもの嫌味。
「お前さん今度は子供だけじゃなく奥さんも連れて帰ってきたか」
いつもの赤ら顔。いつもの面々を見て、フェンリルは帰って来たと実感する。
「てめぇら俺様に土下座しやがれ」
騒がしさにネルが、寝ぼけ眼をこすりながら起き出す。
「ネル!おめぇの親父は誰だ!」
ネルは破顔して、フェンリルをしっかり指差し「パパ」
「ちげぇ~だろ!」
ルークやナーガは口々に「やっぱりね」と納得している。
人間界にいる間は、父親がわりになってやると言ってしまった事と、帰り道でネルは寝ていて話を聞いていなかったので仕方ないと、フェンリルは眼でシルフィに合図を送ると、シルフィは解ってますよと笑顔で合図を返して来る。
ふ~これでやっと俺様の疑いも晴れるぜと、フェンリルは安堵の溜息をつく。
「いつもうちの旦那がお世話になっております」
・・・・・・・・
「て、てめーらいい加減にしやがれ~」
狼の叫びがのどかな村に木霊する。
カダルフィークは今日も平和です。
フェンリルSS・フェンリルパパ頑張る完
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