(8)
「おめぇに勝てる奴が俺様以外にもいるとは意外だな。もしかしてとかげか?」
加護など無くても、バルガスは超一流の戦士だ。普通の人間が、簡単に勝てる相手ではない。
「ナーガだったか?あやつとは決着がついておらんから違うぞ。もう一人はワシが騎士だった時からの付き合いの旅の剣士だ。つい先日もふらっとワシを訪ねてきたぞ」
フェンリルの元に駆け寄ってくるシルフィとネルを、バルガスはちらりと見る。
「そやつはシルフィ殿と知り合いだったようでな。暫くシルフィ殿と話しておったな」
シルフィの知り合い? 魔界の住人で、人間界に来たのが初めてのはずのシルフィに知り合いがいるはずがない。
「そいつの名前は?」
バルガスは記憶の糸を手繰り寄せる。
「そう言えばワシも名前を知らぬな。昔からいきなり訪ねてきて、手合せが終わると酒を交わして別れる。竹馬の友とはこういった関係の友の事を言うのだろうな」
名前すら知らぬ男を、竹馬の友と言うバルガスの基準がわからない。
「そいつもしかして褐色の肌をした男か?」
「なんだお前達は知り合いだったか。そやつは初めて会った時から、今でも歳をとっていないように顔が変わらん。本人は緊張感を常に維持するのが、若さの秘訣だと言っておった」
バルガスの騎士時代なら数十年は立っているだろう。緊張感をどんなに保とうと、そんな長い間若さを維持できる人間などいない。
どうして人間界に疎いはずのスルトが、何故シルフィを見つける事が出来たのか。そして、バルガスに加護を与えた人物もフェンリルは理解する。
「パパはやっぱり強いです」
ネルは興奮気味に、フェンリルに抱き付く。
「借りてた物を返すぜ」
小さな前足に、レーヴァテインの欠片を握らせる。ネルの肩を叩いた時に拝借したものだが、これがなければもっと苦戦していたかも知れない。
「さてと」
フェンリルは歓声上げる警備兵の中で、一人唖然としている男を睨む。
「契約を破棄しな。約束通りシルフィは連れてくぜ」
トルクはいまだに目の前の出来事が信じられないのか、呆然と宙を見つめていた。