悠里シンと西原羽月
「それはズバリ恋です」
「ぶっ!」
教室のドアを開けると、待ち構えていた美鈴と光美に拉致されて羽月は隅に連れて行かれた。
「ちょっと! な・・・何?」
「何って分かってんでしょ? 昨日の続きよ!」
「昨日部活が終わって羽月は逃げるように帰ったくせにぃ! あれで、あーやーしーって余計思ったんだよねっ!」
「あ・・あれは用事があったから・・・」
「じゃあその用事を言って見なさいよ!」
「また目を逸らしたぁ!」
カバンを両手で抱え込んだ羽月は、腰に手を当てたクラスメート二人に教室の隅に軟禁状態だ。なぜか、その周りにいる男子達もよそよそしい顔やわざとらしくぎこちない動きをして、聞き耳を立てているような感じでもある。
「友達にも・・・、私達にも言えないってわけ?」
「親友だと思ってたのにねー」
光美は凄みのある目で、美鈴はパンパンに頬を膨らまして、羽月のすぐ前に顔を寄せている。
「あの・・・。ホント言うと・・・。いいなって思う人はいたんだけど・・・実は変態だったっていうオチで・・・」
羽月はカバンを上げ、それで顔の下半分を隠しながら言った。
「変態? ・・・何かされたの?」
「いやぁ・・・。ここでは言えないことをされたというか・・・」
[ガタッ ガタガタガタッ]
近くにいた男子が一斉に椅子から転げ落ち、机からノートや筆箱を落とした。
「ほ・・・ホントに? ・・・羽月・・・大人になっちゃったの?」
「うそぉ・・・」
二人は首を傾け、羽月のスカートを見つめる。
「ちょ・・・ちょっと! 違うって! そっちじゃないっ!」
羽月は顔を真っ赤にし、カバンを下げて今度は下半身を隠す。
[キーンコーンカーンコーン]
8時30分のチャイムがなり、ホームルームをするため時間通りに担任の先生が入ってきた。
「はい座ってー」
教師の声でようやく開放された羽月は、安堵の表情を浮かべながら自分の席に行き、カバンを置くと椅子に座った。
「えっと。突然だが転校生だ。何か手違いがあったらしく、先生も今日聞いてな。・・・まあ、入ってくれ」
先生が廊下に向かって頭を少し下げて合図をすると、開けっ放しになっていた教室の扉から一人の少年が入ってきた。
「・・・・・っ! あっ! ・・・・あぁ――――――っ!」
羽月は両手を机に突くと立ち上がって叫んでいた。
「はじめまして。悠里シンと言います。仲良くしてください」
「し・・・・シン―――――っ!」
生徒達は、突然現れた転校生の美少年と、突然奇声を上げた美少女の顔を交互に何度も見た。
「やっぱり美人には勝てないよね・・」
「釣り合っているもんね・・・」
「ねぇ、羽月どこ行ったかしらない?」
一時間目終了後、ため息を付きながら暗く話し込んでいる女子グループに、光美と美鈴が尋ねた。
「授業が終わると、すぐにシン君連れて出て行っちゃった」
「せっかく話しかけようと思ったのにねー」
再びそのグループの女子は輪唱のようにため息を一人ずつ付き始める。羽月の様子を聞いた光美と美鈴は顔を見合して言う。
「羽月って・・・。男子に興味が無い硬派だと思ってたけど・・・。ただの面食いだったの?」
「・・・だったりして・・・」
二人は頭を廊下に出して周りを見回したが、羽月とシンの姿は無かった。
羽月は初めて出会った時のように、シンの首根っこを掴みながら廊下の突き当たり、人気の無い階段の踊り場に来ていた。
「もう・・・何から言ったらいいのやら・・・。初めからこの学校に編入する予定だったの? どうして言わなかったの?」
今度は羽月が腰に手を当てながら、シンに詰め寄っている。
「昨日決めたんだ。まさか自分がここまで地球人に立ち入るとは俺も思わなかった」
「昨日決めて、今日編入なんて出来るわけないでしょ!」
「いや、地球のコンピューターデータなんて簡単に書き換え出来るから・・・。朝からそれをして、レプリケーターで制服を作ってきたんだ。完全に地球人に見えるだろ?」
シンはまるで初めて制服を着た中学一年生のように、どうだと言わんばかりにポーズを決める。
「もう・・・。あなたの昭和ギャグ、どこからどこまでが本当なのかさっぱりわからないわ・・・」
羽月は腰に当てていた手を下ろし、「フー」っと細いため息をつく。
「冗談は一つも言った事が無いのだけどな・・・」
「それじゃあ、もう一つだけ教えて! シン! あなたはこの街からいつか出て行くの?もし、その日が分かっているなら言って!」
眉間にしわを寄せながら言った羽月だが、目は寂しそうだった。
「えっと・・・。決めてないけど。・・・どうしてだ?」
「どうしてって・・・。気になるじゃない! 突然シンが消えたら・・・。いろいろと・・・。ほらっ・・・。・・・毎日の食事の都合とか・・・分量とかが・・・」
羽月は自分で言った言葉に首を捻っている。しかし、シンはポンと手を一つ叩いて納得をする。
「そうか! なるほど。プランが狂うな。わかった。出て行くときは前もって伝えよう」
「うっ・・・・。そうね・・・お願い。・・・でも、やっぱり聞きたくない気もする・・・」
なにやら自分で自分を追い込んでしまい、視線を下げた羽月。丁度その時、声をかけてくる者達がいた。
「みぃーつけたっ!」
二人が声のした方を見ると、腕組みをして怪しい笑いをする二人の女の子が階段の上にいた。もちろん光美と美鈴だ。




