二人の秘密
「何よ羽月。昨日の今日でもう新しい男? 隅に置けないどころか・・・やり手ね!」
「羽月に迫られたら男なんてイチコロよぉ」
二人はゆっくり一段一段階段を降りてくると、羽月たちがいる踊り場に立った。
「シン君、羽月のこと積極的な子だと思ったかもしれないけど、本当はすっごく奥手な子なのよ。勘違いしないでね。リードはシン君からしてあげて」
「そうよぉ。羽月ってば経験値足りないせいなのか、初対面なのにちょっとやりすぎ感ありって感じー」
シンは二人の話を聞き、目をぱちくりさせながら答えた。
「初対面? 羽月と会ったのは今日が初めてではないぞ。一昨日会ったのが最初だ」
「えぇっ! ・・・そうか、留学だからって今日から日本に来た訳じゃないもんね。学校に来る前に羽月と知り合っていたのか。・・・え? ・・・ひょっとして・・・」
「もしかして・・・羽月の言っていた人って・・・」
光美と美鈴は顔を見合わせると、そのまま視線だけを羽月に向けた。羽月はいつものように隠し事が出来ない子の代表格のごとく目が泳いでいる。
「ぶっちゃけ! 羽月にいけないことした? シン君」
光美は人差し指をシンの顔の前に突き出すと、そのままゆっくりと下へ向かって動かす。
「いけないこと・・・。は、結構してしまったようだ」
すぐさま美鈴が口を開く。
「シン君! ぶっちゃけ! 羽月ちゃんはタイプですかぁ。好みの女の子ですかぁ?」
「ちょっ・・・ちょっと! 何を言い出すの! 美鈴!」
羽月は慌てふためいて手をばたつかせながら、目だけはしっかりとシンを見つめている。
「(原始人というだけで)好みではないな」
[ガラガラガラガラ]
「ひゃぁ! ・・・いま何かが崩れる音しなかった?」
「したような気がする・・・」
美鈴と光美は辺りや天井を見るが、特に異常は見られない。
「あれっ・・・羽月・・・。どうしたの・・・。壁におでこ押し付けて・・・。ひょっとして・・・ショックだったとか・・。あなた本気だったんじゃぁ・・・」
「ばっ・・・バカな事言わないでっ! 別に私だってシンなんて好みじゃないわよっ! ふっ・・・ふざけるなぁ!」
羽月は口をへの字にしながら顔を上げると、勢い良く階段を上り、振り返るとシンに向かって指を指した。
「・・・・・・っ!」
しかし、そのまま何も言わずに教室に向かって猛ダッシュをする。
「ちょっと待ってよ、羽月ぃ」
「わっ・・・。またね、シン君! ・・・待ってよ羽月ちゃんに光美ちゃん!」
二人はその後を急いで追いかけた。
教室の手前で羽月は足を止めていた。美鈴と光美は追いつくと、恐るおそる顔を覗き込んだ。
「・・・ふっふっふ。見ていろよシン。こうなったら・・・私をタイプじゃないって言ったことを後悔させてやる・・・。綺麗になって・・・美しくなって、「すみません、羽月様付きあってください」って絶対言わせてやるんだからっ!」
羽月はへの字口のまま、こぶしを突き出して笑っていた。
「・・・これは・・・。完全に・・・はまっておりますなぁ・・・」
「まったくね。羽月は・・・恋しちゃったみたいね」
美鈴と光美は、やれやれといった感じで羽月を挟んで顔を見合わせているが、羽月の目にはまったく入って無かった。
〈シン 今センサーが一瞬ではありましたが 気になる物を捉えました 重水素核反応です〉
踊り場で一人立っているシンの耳に、ネロスの声がナノプローブを通じて聞こえてきた。
「それのどこがおかしいんだ?」
〈お忘れですか? 地球人はそのように高度な核技術を持っておりません〉
「・・・・今発明したってことか?」
〈私が予測するところ 数世紀先の発明になるはずです〉
「じゃあ予測が外れたって事か」
〈ならいいのですが・・・ もしかすると 他の星の文明人が地球に来ている可能性もあります〉
「木星の技術と比べてどうなんだ?」
〈重水素核反応など比較になりません〉
「そうか。まあ、木星ではなく地球に来ているとしたら・・・どうでもいいか、そんなの」
〈地球を支配しようとしている生命体かもしれませんよ? 今まで木星に攻撃を加えてきたような者も、僅かではありますが歴史上に存在します〉
「地球だからなぁ。木星の奴らも俺と同じく気にしないだろうな」
〈羽月も危険にさらされるかもしれませんね〉
「羽月も? ・・・ふ、ふーん・・・」
それまで表情無く会話していたシンだったが、すこし眉が動いた。
〈原始人の命ならいくつ失われても気になりませんか?〉
「・・・まあそんな所だ。・・・俺の目の前に出てきたら、・・・不快に思って消してやるかもしれないけどな・・・」
〈ふふふ・・・ ではあなたの目の前に現れるように 私がしっかりと見張っていましょう〉
「・・・昨日の肉旨かったな。やはり・・・天然物は違うのかな? ・・・もう少しこの星にいてやろう・・・」
ネロスに向かって言う訳でもなく、言い訳がましい独り言としか思えない事を言いながら教室に向かったシンだった。・・・・が、学校内で迷子になって次の授業を早速欠席してしまうのであった。
昼休み、教室ではいつものように羽月・光美・美鈴の三人がお弁当を広げている。そして、本日は特別ゲストとしてシンが加わっているようだ。
「あんたねぇ。ここからあそこの踊り場までの距離で普通迷子になる?」
「センサーが無いもので・・・」
「そのわけの分からないギャグ止めないと、友達になってくれる人出来ないよ!」
羽月とシンのやり取りの横で、光美と美鈴はじっと机の上に並べてあるお弁当を見ている。
「ちょっと二人も何とか言ってやってよ!」
「羽月・・・。今日はあなた・・・焼肉弁当?」
「え? うんそう。昨日のお肉が余ったみたいで」
「シン君・・・あなたも焼肉弁当? ・・・二人のお弁当・・・そっくりね・・・」
「あっ!」
羽月はお弁当の蓋を閉じようとするが、その手を光美が掴んだ。
「おんなじ肉だよ! だって・・・ほら・・・ちょいちょいっと・・・」
美鈴は羽月の弁当箱から肉を一枚、シンの弁当箱から肉を一枚取り出して、二つをくっつけた。
「脂肪部分の形がピタリ一致しておりますなぁ・・・」
光美は羽月に向かって目を光らした。
「違うのっ! ・・・・シンは私の家に・・・ホームステイしているのっ! 日本に留学しに来ているからっ!」
「警部! 自供しましたっ!」
美鈴は何やら光美に向かって敬礼をしている。
「留学? 同じ日本人なのにどういうこと?」
「シンは日本人じゃないのよ! どういう訳か昨日から日本語が急に上手くなったんだけど、一昨日は言葉もそうだけど何も知らなくて、コミュニケーションをとるのも一苦労だったんだから!」
羽月はシンの頭を掴むと、首を強引に縦に振らす。もちろん逆に説得力が無くなりそうなものだが、光美は二人の顔を見ながら考えている。
「ふむ。あまりにも下手な嘘ね。でも、下手すぎて逆に本当に思えるわ。羽月はどちらかというと、頭は良い方。こんな幼稚な嘘は付かないだろうし・・・」
「ホントだって!」
下あごに手を置いて考え、その後パイプをふかすような真似をしている光美に向かって羽月は一生懸命に訴える。
「・・・まあいいか。さっき振られたばっかだし。二人で同棲って線もないかな」
[ガラガラガラガラ]
「あれ・・・。また何か崩れた音が聞こえなかった? 美鈴」
「・・・聞こえたよね」
光美と美鈴は教室を見回したが先ほどと同じで異常は無く、変わったものと言えば、机に額を押し付けている羽月がいるだけだった。




