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最終話  とりあえずの明日へ

 シンと羽月は目を疑う。それもそのはず、降りてきた二人はシンと羽月に瓜二つだったのだ。


「二人はあなた達のクローンよ。そして、まだまだ。アリス、例のものを転送して」


 草原の上には一メートルほどの正方形の物体と、小型のドラム缶のような物体が現れた。


「シンは大体分かると思うけど、レプリケーターとシールドジェネレーターよ。レプリケーターにはネロスに組み込んであるCPUと同じ物を入れてある。もちろんちゃんと会話も出来るよ。シールドは猛獣や天災をしのぐのに使えるでしょ。この二つでネロスがいるのと同等の働きをすると思うわ。これで問題なし! さあ、行きましょう。 二人ともネロスに乗って。アリスの後に付いてこれば良いから」


 ミリンはさっさと自分のOVER DOLL に乗り込もうとする。


「ちょっと待って! そんな・・・。私は過去に来て戻れると思わなかったから諦めてここでシンと暮らそうとしたんだけど・・・。戻れるのにクローンさん達を置いていくのは良くないよ・・・」


 羽月はもちろん戻れるのなら戻ってシンと一緒に現代で暮らしたいが、その代わりに自分そっくりとは言え、見ず知らずの人を置き去りにするのは可哀想だと思った。


「大丈夫よ。二人は納得の上付いて来たんだから。クローンは結構肩身が狭くて、本物が返ってきたらなお更だわ。それなら二人で、二人だけの世界を過ごす方が良いって言うの。まあ、そもそも私が作っちゃったから悪いんだけど・・・。それも許してくれた。本物のあなたより心が広そうだわ」


 クローンのシンと羽月はとても強制されたとは思えない笑顔で羽月を見ている。


「でも・・・大丈夫かな。心配・・・」


「あ、子作りのこと?」


「えっ・・・。ちがっ・・・。それは考えていなかった・・・」


「子作りについては大丈夫。ちゃんと学習させておいたから」


「学習・・・・」


 羽月の顔は徐々に色を帯びていく。


「心配ならチェックする? 一度経験させてきたから問題は無いと思うけど・・・」


「い・・・一度経験っ・・・。い・・いや! いいっ! 見ない! チェックしない!」


 羽月はオリジナルのシンの肩を掴んでネロスの方へ押して行く。


「さぁ! シン! 現代に帰るわよっ!」


 シンは何度も首を捻りながら羽月を抱き、降りてきたワイヤーに足をかけた。


「それじゃあ、クローンさん、頑張ってねー! ・・・・あっ。頑張ってねってそんな・・・変な意味じゃなくて・・・。えーと・・・」


 何か、もごもご言いながら羽月はシンと一緒にネロスに乗り込んだ。


 アリスが飛び立ち、その正面に空間の歪を作り出すと、ネロスに手招きをしてその中に入って行った。ネロスもすぐにその後ろに続いて中へ入る。


「えー、もう・・・。あの二人って・・・もう・・・大人なんだぁ。すごい不思議なきぶーん・・・」


 現代に到着するまでの間、羽月は顔を赤くしながら体をくねくねと動かしていた。 




 歪を抜けるとそこは宇宙空間だった。眼前には地球が見える。


《現代にとうちゃーく。センサーに地球の衛星が映るでしょ?》


 ネロス内部スピーカーに響くミリンの声に従って、シンはチェックを始めるが、すぐに頭を縦に振った。


「間違いない。日付も時間も俺達が消えたと思われる時間、そのすぐ後になっているようだ」


《そうそう。シンが消えたのに気づいて私が泣いた後かな。正確にはシンが消えてから5分くらい後。場所も丁度ここだったはずだよ》


 それを聞いて羽月は周りを見回す。この時間帯のミリンの姿はもう見えない。


(シンが消えて・・・ミリンが泣いていた時間って・・・ひょっとして5分弱? ・・・みじかっ!)


 羽月はもちろんそれは口に出さなかった。


《それじゃあ・・・。シンに会えて嬉しかった。この時代の私はもう木星に帰っている頃だけど、今通信で呼び出したからすぐに戻って来ると思うわ。優しくしてあげてねっ! 羽月は早く寿命が来てねっ!》


 ネロスに流れるミリンの声は、少し寂しそうな感じがした。


「ちょっと待って! ミリンはそれでいいの? 二百年も待って、もう帰っちゃうの? このまま帰ったら・・・あなたの未来はどうなっているの?」


 羽月はミリンの事を思い、そう聞いた。もし、自分ならシンが突然消えて、それから二百年も過ごすなんて辛すぎる。そう思ったからだ。


《多分、来た時と同じ未来かな。どうしてかは分からない。これもパラドックスの一つなのかも。だって、未来が変わったはずなのに、あなた達が過去に消えたしまった世界から来たこの私はまだ存在する訳でしょ? タイムワープの理論は解けたけど、パラドックスの方は全然なのよ。答えなんて無いのかもしれない》


「さ・・・寂しくないの?」


《大丈夫よ。それに、私には旦那がいるし》


「えぇっ! ・・・結婚したの? でも・・・。シンのこと現在進行形でって・・・」


《うふっ。実は私、クローンを作ったのはあの子達で二回目なのっ!》


「え・・・。・・・・・えぇぇぇぇっ! つまり・・・。勝手に作って・・・。ちょっと待ってよ! そんなの私許さないわよ!」


 羽月はミリンの声が聞こえてくるスピーカー部分と思われる所を、がんがんとこぶしで殴っている。


《許すも許さないも、私が彼と結婚したのは190年も前よ。どっちが先だと思っているの?》


「あ・・・。すごい先輩だ。・・・・って、ちがーう! ミリンはずるしてるっ!」


《ずるじゃないわよ。私が190年、彼と過ごしたのは本当なんだから!》


「うぐぐ・・・。190年も・・・。もうっ! 何なのよこれ! パラドックスってなんなのよっ! 私が最初なんだからねっ! まだ始まったばかりだけど・・・私が一番なんだからぁ!」


《じゃあ、またねー。シン、愛しているわぁ!》


 空間の歪を作り出すと、その中にエメラルドグリーンの機体、ヒロ・リラ・ミリンが駆るアリスは姿を消した。


「もぉー。人の男に愛しているとか言うなぁ!」


 羽月は頬をぱんぱんに膨らまして、その前に座っているシンに抱きついた。


「しかしさ、羽月。人類のループ。ネロスCPUのループ。そして、それに乱入してきたミリン・・・。ここで未来は俺達がこれからも存在する世界と、過去に消えた世界に分岐してしまった訳だ・・・。大丈夫なのか? この世界は・・・」


「知らないよぉ。私は私。私は二ヶ月前にシンと出会い、一目ぼれしちゃってそのままいろいろあり、さらに好きになって、挙句大昔に飛ばされちゃけど戻って来た。そして、これからもずっとシンと過ごして行く。これが私の世界。そんな過去とか未来の分岐なんて関係無い。私はここにいるもん! シンは心配性になったんじゃなーい? 地球人みたいだねー!」


「そう言うお前こそ、羽月。木星人みたいだな、その考え」


「うふふ。あーでも心配だな。私が死んだらシンはミリンと結婚する可能性がある訳だぁ。長生きしたいなぁ・・・」


「羽月、俺はまだ不老化処理を受けていないぞ? このままだとお前と同じ時期に仲良く死ぬ可能性は高いという事だ」


「えっ! そうだっけ? そう言えば・・・会った最初にそんなこと言っていたような・・・。なーんだ、木星人は長生きじゃなくて、地球人と同じなんだぁ。心配しなくても大丈夫って事かぁ」


「でも俺はお前とずっと一緒にいたいけどな。未来永劫。永遠にお前のそばにいたい」


「えっ・・・。もうっ! 恥ずかしいっ! それなら・・・二人でその不老化ってやつ受けに行く?」


「それも良いな。普通不老化処理を受けるのは25歳だ。まあその時になったら考えるか」


「あー。やっぱりその考え木星人だ!」


 羽月は後ろの席から立ち上がり、シンの前に回りこむと正面から笑顔で抱きついた。


「とりあえず帰るぞ」

「どっち? 木星? 地球?」

「初めて出会った記念の場所の方だな。ネロス頼む」


《了解 オートパイロットで向かいます》


「地球ヘレッツゴー!」


 木星人ユリ・ロア・シグンと、地球人西原羽月は、光り輝く白いロボットに乗って地球へ向かった。


     

                            


                                おわり



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