パラドックス
《空に見える星の位置から ここが地球だと言う事は確認できます おそらく 数万年前といった所でしょうか 大気の成分や周囲の動植物からも間違いは無いと思います》
「そうか・・・。やはりタイムワープして過去に来てしまったのか」
《なるほど 私こそがアダム達が食した『知識の実』なのかもしれませんね》
「ん? 何を言っている?」
シンが首を捻りながらの問いにネロスは答える。
《疑問でした 二人で、二人のみの遺伝子で人類を作り出すには 決定的に遺伝子の量が足りないのです すぐに無理が来て滅んでしまいます つまり あなた方二人で人類を創造することは不可能なのです》
「それじゃ・・・私達がアダムとイブっていうのは・・・間違いだったって事? なんか残念・・・・」
赤い糸のような話だと思ったからか、おとぎ話などの主人公とヒロインになったような気分になっていたからか、羽月はひどくがっかりしている。
《いえ それは本当です あなた方の遺伝子が起源なのは間違いありません そこで知識の実である私の出番です 私はこれからおそらく レプリケーターを使ってあたりの動物の遺伝子をいじってみたり 足りない遺伝子を補完したりするのでしょう 遺伝子工学を熟知している私には簡単な事です》
「そうか・・・。ネロスもタイムパラドックス、そして無限ループの鍵の一部だったという事か・・・。待てよ・・・。それならば・・・。もしかして・・・・。木星に伝わる大昔からのメインコアとは・・・お前の事なんじゃないのか?」
腕組みして考えていたシンはフッと顔を上げてそう言った。
《なるほど! それでは メインコアのオリジナルとは私だったのですね コアに残っていた太古の記録 最初のOVER DOLLは副座機 前はパイロットの男 後ろは愛する女だというものに合点がいきます》
「あ・・・愛する女・・・」
羽月はその言葉に顔を赤くした。
「しかし、お前は木星メインコアのコピーだろ? しかし、そのコアも昔タイムワープで飛ばされたコピー。それのオリジナルも昔飛ばされたコピー・・・。一体本当のオリジナルはどこにあるんだ?」
《それも 鶏が先か卵が先かという話です つまり オリジナルは今この時点にいる私なのです ちなみに 先ほどまで私はコピーでした》
「あ・・・頭が痛い・・・」
シンは額に手を当てながら、苦笑いして顔を下向けた。
「まあ、つまり三人で頑張っていきましょうって事なのよね? でしょ? ネロス君!」
羽月はシンと手をつなぐと、もう片方の手でネロスの足を触った。
《その通りです 三人で力を合わせましょう》
「そうだな」
シンも笑い、空いている手でネロスに触れた。
《ところで羽月 子作りはいつ始めるのですか?》
「うっ・・・」
羽月の顔は下から徐々に赤くなり、それが上にまで達すると、真っ赤な顔から湯気が出た。
「ばかぁ!」
羽月は思いっきりネロスの足を蹴っ飛ばした。
《冗談です》
シンは首を捻り、羽月はうつむき、ネロスは合成音で笑い声をあげていた。
二人と一体。人類が始まった瞬間だった。
《おわり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・になんて・・・・・・・・させるかぁ!》
シン達の上空に空間の歪が出来ていた。そこから出てくるエメラルドグリーンのOVER DOLL 。それは外部スピーカーでそう叫びながら降り立った。
「えぇっ! この綺麗なロボットって・・・。それにあの声・・・」
「み・・・・ミリン! どうしてここに・・・」
《そんな ありえません》
そのOVER DOLL の胸部ハッチが開くと、中から金髪の長い髪をなびかせた、碧眼の美しい女性が降りてきた。
「え・・・。ミリン? ・・・だよね? でも、髪が長いし、なんか・・・、すごい大人っぽくなっているような・・・」
羽月が近寄って顔を見上げる。身長も少し高くなっているようだ。
「久しぶりね、シン。そして、原始人の羽月」
「うわぁ・・・。やっぱりミリンだ・・・」
羽月は口をぽっかりと開けながら、ミリンと思われる女性から遠ざかって行く。
「どうなったんだ? ミリンも一緒にあの時飛ばされたのか?」
「違うわよ、シン。私はあの時一人ぼっちで取り残された・・・」
少し悲しげな顔をしたミリンだったが、すぐに顔を上げてその大きな胸を突き出した。
「そしてっ! 私は頑張ったわ! 研究に研究を重ねて・・・。シン、あなたに会うために作り出したこの新型OVER DOLL TYPE GSX―300SS ARIS 。主な特長は、初のタイムワープ機関を積んだ試作機よ!」
「な・・・なに・・・。『試作』OVER DOLL の割には、完璧に色を塗っているんだな?」
シンは見事に仕上げられたアリスをいろんな角度から見上げている。
「私はかわいくない物には乗りたくないのよ! それより、他に驚く所があるでしょ!」
ミリンは口を尖らしてシンに身振り手振り激しく訴えている。
「『作り出した』って・・・。お前技術部へ転属したのか?」
「そうよ。これでも西部技術部の部長よ」
「技術部の部長? ・・・ミリン、歳いくつなんだ?」
「に・・・209歳よ・・・。部長としては若いでしょ?」
「にひゃくぅ!」
驚いた羽月だったが、その後小声でぼそぼそと何かを言った。
「羽月! いまあなた『おばさん』って言ったでしょ! 木星人で200歳なんて、地球人の20歳くらいなんだからねっ!」
「いや・・・私は『おばあさん』って言ったんだけど・・・」
「おばあ・・・。きいぃー! なんなのこの子! もう、やっぱりあなたは初めて会ったときから気に食わないわっ! それにシン! だから、変な所に食いつかないで! 重要なのは、タイムワープ装置を持ったOVER DOLL だと言う部分でしょ! 私の200年無駄にしないでよね!」
ミリンは齢200を超えているというのに、地団太を踏んでいる。
「あ・・・。そうだった。すごいなミリン。・・・それで、何しに来たんだ? 旅行か?」
「違うわよシン! 決まっているでしょ! あなたを迎えに来たのよ!」
「俺を迎えに? いくら俺のことを昔好きだったとは言え・・・。人に干渉しない木星人がそこまでするとは・・・」
「昔じゃないわよ! 今もよっ! 現在進行形で好きなのよ! あなたが消えてから約200年・・・。どんなに寂しかったか・・・うう・・・」
うつむいたミリンに、シンは一歩近寄って声をかけようとした所で、ミリンは顔を上げた。
「まあそれはどうでもいいわ。早く帰りましょ」
(でたっ! 木星人! 切り替えはやっ!)
もらい泣きしそうになった自分がバカらしくなって、羽月はカックンと首を折った。
「ちょっと待ってくれ。俺達が帰ったら・・・人類のループはどうなるんだ? 存在しない事になって消えてしまうかもしれないぞ?」
「もちろんそれは大丈夫。はーい、あなた達、出てきて」
ミリンがアリスの方へ向かってそう言うと、ハッチが開き、二人の人間が降りて来た。
「えっ・・・」
「うそー・・・。この人達って・・・」




