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約束の儀


「綺麗・・・。これが・・・宇宙? 今まで私が眺めていた星空は何だったのかなぁ」


《地上では大気のチリが邪魔をして本当の空を見上げるのは困難です》


「これが木星人の・・・俺の見ている空だ」


 ネロスは上空へ上がり、大気圏を突き抜けて宇宙空間へ出ていた。


「ねえ! 外は無重力なんでしょ? どんな感じ? 知ってる?」


「もちろん知っている。コクピットも無重力に出来るが・・外に出てみるか?」


「えぇ? ・・・空気無いんじゃないの?」


 目を丸くしている羽月の頭を撫でながらシンはネロスに尋ねる。


「シールドはどのくらい回復した?」


《現在15%です 十分です 酸素充填 完了 良いですよ》


 シンはそばにあったスイッチを入れる。すると、コクピットハッチが開き、二人の前に宇宙が広がった。


「うわー。浮いてるー」


 羽月はコクピットからふわりと出て行く。スカイダイビングの時のような姿勢になり、手足をバタバタさせて喜んでいる。


「あまり遠くに行くなよ。シールドに当たってビリってくるぞ」


《大丈夫ですよ シン 私がコントロールしますから》


 ネロスの行った通り、機体を蹴って飛び立った羽月はある程度の距離まで行くと方向を変えて戻って来た。


「あー。ちょっとシン!」


 突然羽月は口をあっと開けると、そう言いながら両手で制服のスカートを押さえた。


「ずっと見てたんじゃないでしょうねぇ。面白くてすっかり忘れてたけど・・・。私・・・丸出しだったような・・・」


 羽月は頬をプーっと膨らましてシンを睨んだ。


「・・・何を見ていたと言っているんだ? 星か? 羽月をか?」


「違うわよ! 私の・・・パンツに決まっているでしょっ!」


「パンツ? ああその派手な下着の事か。そんな物を見たとして、どうだというのだ?  グハッ」


 羽月は、今度は機体を蹴るのでは無く、シンの顔を思いっきり蹴った。なかなかのスピードで飛び出した羽月だったが、やはりくるっと方向を変えて戻って来る。


「い・・・痛たた・・・。本当に地球人は暴力的だ・・・」


 鼻を押さえながらコクピットから顔を出したシンを、羽月は両手で掴まえた。


「ダメ? 地球人は。木星人とは合わない?」


「いや・・・。そんな事は無い。性格が違っても・・・羽月と俺は良く合う・・・んっ!」


 羽月は両手をシンの首に絡めると、その唇をシンの唇に重ねた。


 数秒間そうしていた羽月だったが、顔を離すと、目をシンから背けながら宇宙空間からコクピットに戻った。そして、さっきシンが触っていたスイッチを押し、自分でハッチを閉めた。


「・・・・」


 シンはまだ凍りついたままだったので、羽月は黙って自分の椅子に座って真っ赤な顔を両手で隠した。


「は・・・羽月・・・。一体何を・・・。今のは・・・き・・・き・・・キス・・・」


 一分程経っただろうか、ようやくシンは振り返り、引きつった顔を羽月に向けた。


「・・・・・」


 羽月は両手を膝の上に置き、顔を上げようとしない。


「き・・・キスと言う物は・・・。結婚を誓い合った者同士が行う事で・・・。その後数百年一緒に暮らし、添い遂げるのを誓う儀式の事だぞ・・。それを分かって・・・」


 シンは震える手を伸ばす。それが羽月の肩に触れたとき、彼女はびくんと体を震わして顔を上げた。


「地球ではそうじゃないよ。好きな人に・・・好きなタイミングでする物だよ。・・・たぶん・・・、初めてだから自信ないけど・・・」


「なに・・・? なんて・・・地球人は軽い人種だ・・・」


「挨拶で胸を揉む木星人に言われたく無いわよっ!」


 そう叫んだ羽月はすぐに照れた表情となり、少し小さな声で言った。


「それに・・・。木星様式、木星でのキスの意味に合わせてあげてもいいよ・・・」


「羽月・・・・」


 見つめあっている二人に、すまなさそうに話しかけてくる声があった。


《あの・・・ 大変申し訳ないのですが・・・》


 とたんに二人は我に返り、二人ともよそよそしく振舞う。シンは何やら「えっとこれが操縦桿で、これがステルスモード切替スイッチで・・・」とぶつぶつ言いながらシートに座った。


《す・・・すみません これでも精一杯お二人の邪魔をしないように待ったのですが・・・ ですが そろそろ決めていただかないと・・・》


 それを聞き、シンも羽月もまじめな顔になり、睨むように前面モニターを見つめた。そこには巨大な隕石が映し出されている。



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