四番目の選択肢
《選択肢は二つ 地球に戻るか このまま木星に行くかです 地球に戻るのはお勧めできません 友人達が苦しむのを見る事になります あの程度の隕石の衝突 比較的被害の無さそうな地域に避難をし 影響が消えるまで 二人の食事など シェルターのように二人をまかなう事が私には出来ます しかし それよりも木星に行って十分な暮らしをするのが良い選択でしょう》
「お父さんやお母さん、光美や美鈴、クラスのみんなも・・・一緒に・・・」
羽月はこぶしを握り締めながら切なそうに声を出す。
《木星人は残念ながら地球人に寛大ではありません 木星本国に大量の地球人を連れて入ろうとすれば 確実に打ち落とされます》
「それは間違いない。木星は出て行く者には興味を示さないが、入ってくるものには何重ものチェックがかかる。羽月一人なら・・・俺が妻だと言えば、白い目は向けられるだろうが・・・なんとか出来ると思う」
「嫌! 私一人が楽な生活なんて・・・出来ない・・・。地球へ戻る」
首を強く振って、羽月はうつむいた。
《羽月さんも隕石が落ちてきたらどうなるか聞いた事あるでしょう 巻き上げられたチリなどで太陽光が遮断され その後何年 年十年と影響を与えます 突然の隕石 十分な備えをしていない地球人 その大部分が死んでしまうと予測されます》
「それでも地球がいい。みんな困るだろうし・・・。ネロス君に少し助けてもらう!」
羽月の強い決意を聞き、シンはネロスからため息が聞こえた気がした。
《やれやれ ですね シンはどう考えますか?》
「俺は別にどちらもでも良い なんとかなるだろ ならない時にまた考える」
《さすが木星人 行き当たりばったりですね 分かりました それでは地球に行きましょう ただし 隕石衝突の瞬間は避けたいので ここから安全な距離まで移動します》
シンの操縦ではなく、A・I自身のオートパイロットにより飛び立つかに思われたネロスだったが、静止したままの状態を保っていた。
「どうかしたか?」
《OVER DOLL が接近してきます》
「敵か?」
《いえ シン OVER DOLL は基本的に敵ではありません さっきのフル教官が例外だったのです おまけに これはTYPE GS―3S ARIS です》
「アリス! ミリンか」
《そう。元気ぃ? シンに羽月》
スピーカーを通じて女の子の声がコクピット内に聞こえてくる。
「え・・・ミリン? ミリンって・・。えっ? この声・・・。あのミリンなの? あなたも・・・そっか、木星人だったんだ!」
羽月が興奮気味に言うと、彼女は冷静な口調で答える。
《ふう・・・。そうよ。あなたみたいな原始人に負けたミリンですよ。貧乳のどこがいいのかしら・・・》
ネロスの目の前、シン達が見ているモニターに、エメラルドグリーンのOVER DOLL が現れた。
「わぁ! 何これぇ! 綺麗! かわいー!」
羽月は自分の目の前で手を一つ叩くと、画面に見入っている。
《えっ? 分かる? 木星の誰も分かってくれなかったのに・・・。それに色だけじゃなくてちょっとかわいく改造してるんだ!》
「その下向いているアンテナかわいー。頭についているやつ。羊さんみたーい」
《そっ! そうなの! これが私のお勧めするチャームポイントなのよ! 他にはね・・》
「一体何しに来たんだ。それに、負けたとか何を言っているんだ?」
シンが意味の分からない会話に早くも痺れを切らし、ため息と共にミリンに聞いた。
《えー。もうちょっと語らせてよー。シン達は全然分かってくれない部分なんだからさぁ。まあいいや。負けたって言うのは私が羽月に負けたって事よ。あなたをとられちゃったって事。まあ・・・その関係いつダメになるか分からないからまた何年も何十年も待つけどね。いくら『誓いの儀』を済ませたって、どうせ羽月はあと70年もしたら寿命だからっ!》
「な・・・何を・・・。言っている。誓いの儀など・・・。俺はまだそんな年齢ではない! い・・・言いがかりだっ!」
慌てふためくシンの頭を羽月は後ろから殴った。
《お外でやったら気がつくわよ。っていうか、見ちゃったわよ、この目で。それに、あなた達チャンネルずっと開きっぱなしで会話がまる聞こえよ》
「な・・・何っ! あっ! オンになってる・・・」
シンが手元のスイッチをチェックしている姿を見て、羽月は申し訳なさそうな顔でシンに伝えた。
「ごめーん・・・。そのスイッチ、さっき扉を閉めるときに間違えて押しちゃったかも・・・」
固まって白目をむいたシンの頭を羽月はガジガジと噛んだ。
《すねて地球を飛び出した振りしてここでシンが迎えに来てくれるの待っていたら・・・。もう最悪なシーン見せられたわよ。・・・まあ、ところでその後の熱い会話も、そして、二人がこれからどうするかって言う話もちゃーんと聞いたわ。私も羽月が木星に来るのは反対。絶対に反対。だからと言って、シンがただでさえ最低な星なのにもっと汚くなったこの星で生活するところを見るなんてもっと反対。それで第三のプラン。シンは木星に帰って、羽月は地球に住む。これどう?》
「い―――――――――――や!」
羽月は口に両手の人差し指を入れて、思いっきり横に開いて舌を出した。
「俺もそれは出来ない。誓いの儀は・・・・絶対だしな。 い・・・イテテテテテテ! ち・・・誓いの儀が無くても羽月と離れる事は出来ない! これで良いかっ? ・・・・いてて・・・」
シンは羽月にぐりぐりとされたこめかみを両方の手で押さえて涙目になっていた。
《やっぱそう来たか・・・。それじゃ私は木星に帰るとするか。二人とも元気でねー。・・・って言う所なんだけど・・・。何かすっきりしないのよね。私も気まぐれを起こしたい気分。失恋のショックって事にしておくかな》
「何がだ? お前がいると俺が痛い目に合うのが楽しいのか?」
シンはまだこめかみを撫でる手を休めない。
《はい、第四のプラン。シン、これ貸してあげる》
ミリンのOVER DOLL 、アリスはその手に持っていた武器の一つをネロスに投げてよこした。
「これは・・・反物質粒子砲・・・」
それはプラズマライフルよりも長く、大きく、堅固な作りをしていた。後部には単独のジェネレーターが取り付けてある。地球にある武器に例えると、バスーカのような形だ。
《こっちは私のお気に入りだから貸してあげないけどね。飛んでいくプラズマが綺麗なんだよね》
ミリンのアリスは、反物質粒子砲よりもスマートだが更に長い武器を構える。その長さはOVER DOLLの背丈と同じくらいだ。
「それは昨日、俺を助けてくれるときに使ったレールガンだな」
シンの言葉に羽月は猫のように耳を反応させた。
「あっ! それ聞いた事ある! 地球にもあったと思うよ!」
《ちょっと! あんなゴム鉄砲と一緒にしないでよっ! こちらは金属水素反応炉をダイレクトにつなぐ、常温電磁加速砲よっ! 宇宙空間なら亜光速でプラズマをぶっ放せるんだから!》
「この・・・武器マニアが。レールガンも反物質粒子砲も普通の木星人は持ち歩かないぞ・・・」
《そのおかげで助かるんだよ! 第四のプラン、私達でちょちょちょーいって隕石消しちゃいましょう! それなら、まあ気に入らないけど、今の地球で二人は過ごせるって訳! それに、ギリっ! この地球なら私もたまに遊びに行ってあげるし!》
「・・・まあそうかもしれないな。しかし、俺達がずっとこの地球にいるかどうかは・・・疑問だ。ネロス、フル教官との会話データやその他の事実と思われる事をアリスに送信してやってくれ」
《ん・・・。なになに・・・。えっ・・・フル教官だったの、あのOVER DOLL 。へー。死んじゃったんだ。私も教えてもらったのになー。まあいいや》
(かっるーい・・・・)
羽月は木星人と地球人のギャップにたびたび愕然とさせられる。しかし、それは逆に木星人も同じなんだろうと思い、口に出さなかった。
《えっ・・・。これ本当? って、コンピューターのデータなら嘘は無いか。私ってシンと羽月の子孫だったんだ・・・。ちょっと驚きぃー。でも・・・タイムワープすると・・・。もうシンと会えなくなるんだ・・・。それは・・・ヤダー。でも・・・、まっ、それはその時に考えるか!》
―ガクッ―
羽月はシートからずり落ちた。
(そこはシンと同じなんだ・・・。さすが木星人・・・)
「とにかく、この不快な岩を消し去るとしようか。あまり地球人をハラハラさせるのもかわいそうだしな」
ネロスはバズーカのような武器を構えて隕石に狙いをつけた。
《わー。その考え地球人に毒されてるぅー。でも、この下品な石は太陽系にいらないよね。消しましょうかねー》
アリスも二股となった対戦車砲のような武器を隕石に向かって構える。
「ネロス。所要時間は?」
《約10分といったところでしょうか》
「昼休み終了までに間に合うか?」
《ぎりぎり・・・・アウトといった所ですね》
「そうか、残念だ」
二体のOVER DOLLが持つ火器が火を噴いた。




